第19話 私という存在
「はい、クソご丁寧な紹介の垂れ流し、ありがとうございました。」
グレンとミレイアが我が家に来るようになって早一月。
まともな自己紹介をしていないことに気づいて場を設けた訳だが。
長々と喋らんで良いことまでダラダラ喋った三人に最大級の皮肉で答えた。
アシュリーなんかは最後絶叫と共に握りこぶしをして立ち上がって、今もそのままだ。
全く、誰が性癖の話までしろと言った?
ここには子供が三人もいるんだぞ?
さっきから目元がひきつって仕方ない。
たぶん青筋もたってる。
「はい!次はシルビィのばん!」
「はい!シルヴィアたんたん!」
オレのささくれだった心の荒野に、まるで天から鈴の音が降り注いだように響き渡る。
そこでオレは聞く姿勢を作り、周りにも促した。
アシュリー、もういいから座ってろ。
「シルビィはね、こっから遠いところの洞窟にいたの。そのあとニンゲンの街に入ったらつかまっちゃって、そこで初めておとさんと会ったんだぁ。」
「え、実子じゃなかったのか!?」
ガタタッ!
エレナが飛び上がるようにして驚いた。
グレン辺りならわかるが、なんでお前がそこまで驚くんだよ。
「お前さー、オレに獸耳や尻尾が生えてるところ見たことあんのか?」
「いや、ないが・・・。てっきり母親の血だとばかり。」
「母親?」
「例えば、その辺の道行くうら若き獸人の女を」
「おう」
「こう、物陰に連れ込んで、ポンポンっと」
「よし、デコだせコラ。」
「フフ、そう何度も同じ技を食らう私じゃヘブッ!」
一撃目はかわしたようだが二撃目に対応でききったようだな。
エレナは口を半開きにしながら天を向いている。
オレは両手でデコピンの残身のまま言った。
「お前はなぜ腕が2本あるか知ってるか?」
「たぶん、その為じゃないと思うんだけど。」
脱線はこの辺にして。
続きをシルヴィアに促した。
「おとさんはね、つかまったシルヴィを助けてくれたの。最初はこわかったけど、すんごくやさしいの!シルヴィにおとさんとおかさんがいないって言ったら、おとさんになってやるって。」
あーそういや最初は警戒されまくったっけなぁ。
歯なんかむき出しにしてさ。
いまでは良い思い出だな。
「それからね、きれいなネコちゃんのモコちゃんともトモダチになったんだよ。ねーおとさん、モコちゃんはまだかえってこないの?」
「そうだな、珍しく戻ってこないな。しばらくこっちに来れないって言ってたし。」
「そっかぁ、せっかくキレイなの買ったから見せてあげようとしたのになー。」
シルヴィアがつまらなそうにぼやく。
まぁ、あれだけ仲が良かったのに最近会えてないからな。
仕事だとわかっていてもつまらないんだろう。
早くもどってこいよ、モコこの野郎。
「アルフさん、モコって言う猫?は一体?」
「あー、説明が難しいんだがな。半精霊ってやつらしいんだが・・・。」
「半って・・・精霊そのものとは違うの?」
「本人がそう言ったからな、オレも違いはよくわからん。」
目の前で出せれば説明もしやすいんだが、いくら呼んでも出てくる気配ないな。
数か月前、僕はやることあるからしばらく空けるねーあとはヨロシク!なんてノリで消えたんだったな。
シルヴィアは相変わらずテーブルに顔を乗せたままブツクサいってる。
もう興味の対象が他所にいったようだ。
「じゃあ次は私の番ですね。私はミレイア・レジスタリア。6歳の人間です。最近は不敬にも魔王様を貶めた愚者供の魂の抽出方法を」
「うんうんありがとう。じゃあ最後はお兄ちゃんな。」
ミレイアがえぇーって顔をする。
スカートの裾をちょんと持ちながらの、驚愕の表情だ。
こっちがえぇーっだよ、この6歳児が!
依代の媒体もあるんですよと、ボロボロの髪の毛を取り出した。
バッチィから捨ててきなさい。
「あのな、ミレイア。今はちっとまともにやってくれ。」
「わかりましたよう、本気なのにです・・・。」
そういって半泣きになって口を尖らせる。
あのな、オレはこれでも気を遣ってんの、子供相手だから。
あんまりそういう態度とるとこっちが泣いちゃうよ?
「今でこそ幸せに暮らせてますけど、母様が亡くなった当時は大変でした。廃墟のような空き家に忍び込んで暮らして、そこも見つかると追い出されて。」
「ご飯もろくに足りてなかったもんね。アーデンおじさんや牧師様がときどきご飯くれたりしたけど。さすがに毎日は無理だったよね。」
「食べるものが無くなって、近くの草の根やらミミズやら食べました。」
「あの時は辛かったね、特に冬。よく二人で死ななかったよね。」
なんかすごい話になってきた。
浮浪児と聞いてたけど、やっぱり生易しい暮らしではなかったようだ。
二人とも子供とは思えない遠い目をしている。
ほ、ほら、依代の髪の毛だよ!
ミレイアはこれで色んな事やっちゃうんだ、凄いなぁ!
「それからなんとか暮らしていって、それであの夜が来るわけですね。」
「ほんと、魔王様のおかげです。ミレイアは幸福者です。
「僕からもお礼を言うよ。アルフさん本当にありがとう!」
なんとなく明るい雰囲気で終わってホッとした。
そのあとグレンに話させようとしたが、僕はもうほとんど喋っちゃったよ、とのことだったので割愛になった。
ただの自己紹介がしたかっただけなのに、何やら濃い時間になったな。
リタが、今日はとびきり美味しいものを作りましょう、と呟いていた。
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