第14話  おいのりの じかん

大きなトビラからすごい音がする。

街のヘイシたちがトビラを叩いてるみたい。

カミサマが住んでるっていってたキョウカイに、お姉ちゃんとにげてきたけど、ここもあぶないみたい。

ぼくたちみたいに、たくさんの子供やおばちゃん、悪いやつをたおしてくれるおじさんとか、みんないっぱいいる。

カミサマとお話できるボクシサマもいて、ずっとお祈りをしている。

カミサマにお願いしてるのかな?



でも僕はカミサマを見たことがない。

悪いやつらにおっかけられてるときも。

おなかが空いて泣いているときも。

ともだちがビョウキになって寝ているときも。

ずっとずっとカミサマにお願いをした。

何回も何回もお願いした。



でも一回もたすけてくれなかった。



今日もたぶんきてくれない。

ボクシサマもシスターさんもおばちゃんも、みんな祈ってるけど、たぶんダメだよ。

僕は知ってるんだ、カミサマなんていやしないこと。



「おねえちゃん、僕たちころされちゃうの?」

「大丈夫よ、神様がお許しにならないわ。きっと天罰が降るんだから。」



おねえちゃんは僕をだきしめながら言った。

ずっとずーっとふるえながら。

僕は知ってる、おねえちゃんが知らないことを。

カミサマがいないことを教えてあげようかとおもったけど、しなかった。

おねえちゃんが泣いちゃうかもしれないから。



「クソッ、もう保たない、破られるぞ!」

「逃げ道はないのか?裏手は?」

「そんなとこ、とっくに塞がれてるよ!もう逃げられないんだよ!」



おじさんたちや、おばちゃんたちが大声でさけんでる。

トビラが大きな音をたててこわされた。

ほらね?



カミサマは ぜんぜん助けてくれない。



「手間をかけさせおって、もう逃げられんぞ。」

「ふざけんな、オレたちが!子供たちが何をしたっていうんだ!」

「何もしておらんよ、お前たちはな。」

「だったらなんで!何故急にスラムを襲った!」



えらそうなヘイシと、いちばん強いおじさんがケンカしてる。

おじさんの方が強そうなのに、口だけでケンカしてる。



「フン、貴様らのような下賤のもの。生かすも殺すも我ら支配階級の腹ひとつよ。」

「ふざっ!ふざっけんじゃねえ!虫けらみたいに殺しやがって!」

「まぁ死ぬ理由も知らんのはさすがに不憫か。」



口にちょこんとはやしたヒゲをいじりながらしゃべってる。

早く話せばいいのに、にやにやわらってる。



「貴様らは生贄よ。魔王の悪事を喧伝するためのな。」

「魔王って・・・、やってんのはお前らじゃねえか!」

「ハッハッハ、我らは下準備をしているだけよ、領主様の深謀遠慮の下準備をな。」

「何だ、そりゃなんの話だ!」

「そこまで貴様らが知る必要は無い。ただ、今日ここで、お前たちは魔王に殺されるのだ。残虐に、一人残らず。」



なにがそんなに面白いんだろう?

みんなでたくさん笑ってる。

おねえちゃんのうでの力が強くなる。

カミサマがゆるさないって言ってたけど、

いない人がゆるさないってどういうことなんだろ?



そのときカミサマのぞうがピカァって光った。

みんながオオッて声をだしてびっくりしてる。

ピカピカ光ってでてきたのは、きれいなお姉さんだった。

僕のおねえちゃんより大人で、背もずっと高くて、きれいなひと。



「んーー、アルフはほっとけって言ってましたけど、さすがにこれは見過ごせませんよね・・・。」

「あ、あんたは・・・?いつもちっさいお嬢ちゃんと来てる客の??」

「あらあらガラス屋さん、こんなところでー。いつもお世話になってますー。」

「なななな、なんだお前は!」

「いまお話中だから、ちょっと向こうにいっててもらえるかしら?」



お姉さんはニコニコしてる。

ヘイシたちはトビラのとこから遠くに飛ばされたようにとんでった。



「えーーっと。みなさん、怖かったですよね。痛かったですよね。でももう大丈夫ですよ。怪我した人はあとで治してあげますから言ってくださいね。今ちょっとお仕置きしてきますから。」



テクテクとお姉さんが外にでていった。

外を見ないで、目をつぶっててくださいねーって声が聞こえた。

みんな目をつぶってるけど、僕はこっそり外を見てた。

するとお姉さんがブワッとふくらんで、おっきな動物に変身した。

たぶん、キツネさんだと思う。

おっきな声を出したキツネさんはすごい速さでヘイシたちをやっつけた。

すごい爪でぶわーってやったり、おっきい炎でボォッと燃やしたり。

あんな偉そうにしてたのにね、みんな泣き虫なんだね。

泣きながら遠くに逃げていったよ。



またお姉さんが戻ってきたときには、きれいなお姉さんだった。

ケガしてるひとにピカってやって、ケガも治してくれた。

みんなすごく喜んでた。



「ありがてぇ、助かったよ・・・。あの、アンタは、いやあなた様は」

「私は豊穣の森の魔王の手下ですよ。」

「ま、魔王!?」



みんなびっくりしてる。

お姉さんはモジモジしながら「そして正妻第一候補なんですよー。」っていってる。

セーサイってなんだろうね?



「あ、あの、魔王・・・様がなんでオレたちみたいなの助けてくれたんで?」

「んーーーー、この街の人たちは優しくしてくれましたからね、いなくなったら寂しいじゃないですか。あと、ガラス細工が買えなくなるとちょっと困りますので」



そういってニッコリ笑ってた。

カミサマは助けてくれないけど、キツネさんは助けてくれるんだね。




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「さ、お祈りはすませたか?じゃあ殺しまーす」



トルキンは目前に迫った脅威に何ら対策を打てずにいた。

急遽集めたとはいえ、訓練の行き届いた100人にも及ぶ兵が全く役に立たなかった。

たった二人相手なら、今いる護衛だけで時間稼ぎをして、街中に放ったもう半数の兵を呼び戻して挟み撃ちにしようとしたのだ。

一度陣を組ませて向かわせようとしたのだが、瞬く間に半壊、壊滅されてしまった。

文官の悲しい性か、どうしても数で判断してしまう。

もしトルキンが武官だったり、軍務経験者であったなら、違う判断ができたであろう。

二人しかいないなら、押し込めると思ってしまったのだ。



「はい、さよならー。」



そんな軽い掛け声でトルキンは人生に幕を降ろされた。

政界の魔物と恐れられ、数多くの政敵を葬ってきた巨人が、辺境の地であっけなく命を落とした。

命を削りながら、数々の悪事と怨嗟の声にまみれた大金を残して。



彼が最後に祈ったとして、それを聞き届けてくれる神がいたかどうかは、誰も知らない。

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