23-3



「なんだよ。説明してくれよ。おいロル、なんか言ってくれ!」

「即死、だったんです。見た時には、手の施しようが、なかったんです」

「くそ! くそったれが!」

「すいません。俺が、稽古をつけてもらおうと、言ったのが、悪いんです」


 ロルは機械兵が来ないままだと身体が鈍ってしまうからと、レイン達を無理に連れ出したのだそうだ。

 そこを、やつに見つけられてしまったのだ。



 ……そういえばやつは、ここを去る前に別の人間を確認したとか言っていた。

 ……まさか。



「あいつが飛び去った方角には確か、地下都市ジュカがあったはずですけど」

「おいレイン! あんたらは今すぐ都市に戻れ! そして誰も外には出すな! やつはまだリムスロットに気づいていないはずだ!」


 返事はなかった。ロルは小さく頷いてレインを立ち上がらせようとしている。

 俺はもう、いても立ってもいられなかった。


「ロル、いいな! リムスロットはあんたが守るんだ!」



 超高速で飛んだ。

 ジュカの位置は把握しているので迷わずに突き進む。

 今の俺だったら一時間もかからずに行けるはずだ。



 ……オントが捕捉した相手が彼女だったとしたら、大変なことになる!



 アイテルを覚えてからの彼女は体術中心の戦い方を控える傾向があった。アイテルに依存していたと言い換えてもいい。しかもその強すぎる実力が影響して防御を怠ったりすることもあった。そんな状態でやつと戦ったら間違いなく負けてしまう。取り返しがつかなくなる前に、なんとしてもやつの攻撃を止めなければならない。



 俺はさらに飛ばした。

 遮る空気を感じて、それをも味方にして、彼女のところへと急いだ。



 瞬く間に切り替わる景色を突き抜けていく。この身体だけが時間を超越している感覚をも吹き飛ばして、ただひたすらに進む。

 どれほどの時間を飛んでいたかは分からない。十分か、それとも一時間か、一日のような気さえした。それほどに彼女が遠かった。



 しばらくすると目の前に広がる景色の先に、一面を青色に染めたものが映り込む。

 あれは海だった。

 小さい頃に爺さんと行ったことのある、美しい場所だった。



 二人で過ごした日々が懐かしく思い出される。

 最後は、痛かっただろうか。

 苦しかっただろうか。



 ……あとでゆっくり聞かせてもらうから、少しだけ待っていてくれ。



(……うむ、気をつけるのじゃぞ……)



 知らない土地の海の向こうから、爺さんの相槌が聞こえたような気がした。


「……ありがとう爺さん。本当に、ありがとうな」



 そして俺は、重たく鳴り響く彼女特有の打撃音を耳にして、とうとう再会した。

 見つけた時にはオントが彼女に飛び込んでいる最中だった。

 どういうわけか、マーマロッテは防御すらせずに茫然と立っている。



 ……まさか、負けを認めたのか!?



 俺は二人のところに飛び込んだ。

 あいつだけは、絶対に死なせたくない。



「え、うそ、でしょ?」

「防御に徹する時は全開のアイテルだったろ。もう忘れたのか?」

「あ、うん。ごめん」

「とりあえずお前にはこれ、無理だから、そこで防御してろよな」


 別れる前よりも少し大人っぽくなった印象を受けた。

 髪も切らないでいたらしく、肩に垂れる位置まで柔らかく伸びている。

 久しぶりに見た彼女の顔は、頬をほのかに赤く染めていた。


「あ、あの」

「なんだ」

「……大丈夫、なの?」

「心配するな。速攻で始末してくる」


 刀に気を取られていたオントの腹に強烈な蹴りを入れて吹き飛ばすと、俺は彼女と意図的に距離を離した。そうすることで今後の戦いの方向を見定めて欲しかったからだ。


 やることは一度目とほとんど変わらない。相手の攻撃の隙を突くまでひたすらよけ続け、ここだと思ったところに一線ホツマを振り込む。あとはそれを連続で当てるだけだった。



 今回は『三十秒』ほどで終わった。



 マーマロッテのところに戻る。彼女はすっかりへたり込んでいた。こっちに対してなにかを激しく求めていることが遠くからでもすぐに分かった。


 ゆっくりと地面に降りて刀を鞘に戻す。

 これまで溜め込んでいた気持ちを整理しながら俺は歩いた。

 座ったままの彼女がこっちを見てじっと待っている。

 俺は歩き続けた。乱暴に時間を戻さないように、そっと近づいた。


 目の前に立つ。彼女は立ち上がれないことを苦笑いで伝えてくる。

 俺は地面に膝をつけて彼女の瞳を感じた。

 そして、止まっていた時間を、動かす……


 俺達は、なにかに引き寄せ合うように抱き合った。


「……メイルぅ」

「辛かったか?」

「うん」

「俺もだよ。ずっと、会いたかった」

「生きててくれて、本当に嬉しい」

「お前を置いて死ねるわけないだろ」

「約束、だもんね」

「ああ。いつだって、どこにいたって、守り続けてやるさ」

「私も、ずっと守ってあげるからね」


 俺は彼女にここへ来るまでのことを話した。ヴェインと再会したこと、今倒したやつのこと、そして爺さんのことも全部話した。

 彼女は俺の頭を撫でて一緒に悲しんでくれた。


「私、ジュカに戻って報告してくる。あなたも行こう」


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