23-4



 二人でジュカの防衛本部というところに行った。

 途中まで手を繋いでいたので離してもいいかと確認してみたら、嫌だと言われたのでそのままで行くことになった。


 ジュカの指揮者だというアネイジアに軽く自己紹介をしてからカウザの動向変化について説明した。ヴェインやロルにも伝えたオントの地下都市防衛対策についても話した。彼女は終始俺達の握られた手に目をやっていたが、話の内容はしっかり聞いていたらしく忠告のとおりにすると言った。


 アネイジアの前に立ってからなぜか気まずい態度を取り続けていたマーマロッテは、報告を終えるなりここを出ようと言い俺の手を引っ張った。まだ言い足りないことがあった俺がそれを断ると、あからさまに嫌な顔をされてしまった。


「あの、こいつのことなんだけど、連れて帰ってもいいかな?」


 はじめからそのつもりで来ていた。都市の人間に拒絶されても連れて帰るつもりだった。俺は迎えに行くと彼女に言った時からそうしようと心に決めていたのだ。


 アネイジアは俺達が握っている手をじっと見ていた。その表情からは彼女の底知れない影が映し出されているように感じた。俺達のこととは別の、もっと根深いなにかが張りついているような、切なさと虚しさが滲む顔をこちらに向けていた。


 結局マーマロッテはジュカの防衛部隊から外れることになった。アネイジアが許可を出してくれたのだ。

 マーマロッテは最初躊躇して見せたが、俺達の説得の末に最後は嬉しそうな顔をしてジュカの離脱を受け入れた。



 荷物を簡単にまとめてその日のうちに都市を離れた俺達は、別れていた四ヶ月間のことを話し合った。

 シンクライダーの話はとても残念に思った。自分がかつてマーマロッテに対して抱いていた心境と重なる部分があって、身につまされるものを感じた。



 彼女は他にも言いたいことがあったみたいだったが、どういうわけか途中でやめてしまった。かなり気になったので聞き返してみても、なんでもないと言うだけでそれ以上のことは話さなかった。


「なあ」

「なに?」

「帰ったら、まずはなにをする?」

「みんなに挨拶かな。それと、お爺様にも」

「そうだな。なんていうかさ、まだ実感が湧いて来ないんだ」

「今日はずっと、側にいてあげるからね」


 彼女の元気な声色が、なんとかして俺を元気づけようとしているのが分かった。

 搾り出すように発せられたその声は、喉の奥でかすかに震えていた。


「こんなこと言うのは変かもしれないが、……抱きしめてくれないか?」

「うん。いいよ。それに、全然変じゃないからね」


 俺は空中を飛ぶ彼女に優しく抱かれた。

 言葉にはしていない四ヶ月間の苦しみが彼女の胸の中で爆発しそうになる。



 辛かった。苦しかった。痛かった。寂しかった。



 それら一つ一つの感情がマーマロッテという大きな存在として今もここにいる。そう思うと、俺は口から情けない声を出して泣いた。


「私の胸の中だったら、いつでも泣いたっていいんだよ」

「ごめん。ごめんな」

「うんうん。大丈夫だから。私はずっと、あなたの側にいるから」

「ああ。ああ」

「ほら、お守り。ちゃんとなくさないで持ってたよ。偉いでしょ?」

「おう、偉いな」

「メイルは私にたくさんのものをくれた。だから、今度はたくさんお返しするね」

「……そんなもの、いらない」

「どうして? 嫌なの?」

「もう、もらっている。贅沢すぎるくらいに」

「じゃあ、もっと贅沢にしてあげる。それなら、いいでしょ?」

「嫌なやつに、なるだろうな」

「その時は叱ってあげる。それでまた、抱きしめてあげるよ」

「……ありがとうな。マーマロッテ」

「うん。だからさ、これからもよろしくね」

「……ああ。頼りにしてるよ」




 俺達が気持ちを確かめ合っている時、遠い空の向こうであることが起こっていた。それはゾルトランス城から空に放たれた『強力な光』によって生じた出来事だった。

 光の先には、これまで肉眼で見ることのできなかった巨大な機械の塊が姿を現していたのだ。


 空一面に伸びた楕円形の物体は、強力な光の柱によって今にも地上に墜落しそうになっていた。大量の残骸が零れ落ち、地上と接触する度に大きな音を立てた。


 俺とマーマロッテはその様子を黙って見ていた。

 カウザの基地と思われるその巨大な物体が、とうとう動き出したゾルトランス城の一撃によって崩壊していったのだ。


 しかし、巨大な塊が地上に落下して強烈な光を放出した時、そこから小さな黒い塊が上空に飛んで行ったのを、俺達は見逃さなかった。


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