12-2
そろそろ目的の都市が近くに見えてくるところまで来た。地上はどこもかしこも緑か岩の光景しか映さない。事前の確認では間違いなくこのあたりにあるはずだった。
しばらく散策しているとそれはすぐに見つかった。そしてそれはよくない事態を予感させる発見でもあった。後頭部を突き刺すほどの悪臭がその説得力でもって悪寒を増幅させる。……これは、なにかが腐敗した臭いだった。
地下都市の正門は開かれたままで、例の臭いはここから発せられている。あとは予想と照らし合わせるだけであったが、現実を直視できるか自信がない。
つくづく自分は幸運と縁がない男だと思った。
内部に入るとそこはリムスロットと大差ない空間が広がっていた。
若干狭いことを除けばほぼ同じ場所と言ってもよい。
だが、明らかにおかしなところがあった。
居住区域にあるはずの家屋が、一つ残らず壊されていたのだ。
よく見ると壁や天井のところどころにひびが入っている。きっとカウザに襲撃されたのだろう。それにしても酷い荒らされようだ。
ここの住民がどれほど抵抗したのかは分からない。仮に収拾のつかない暴動に発展したとしても、ここまでの報復をする意味があったのだろうか思うほどの酷い光景だ。こんなことをする奴等に心が宿っているとは到底思えない。
キャジュは地球人を殺すために来たのではないと話していた。本当にそのつもりがないのなら、目の前に広がるこの現実は一体なんなのだろうか。彼女だけが特別なのだと自分に言い聞かせないと頭がおかしくなりそうだった。
大勢の住民が地面に張りつき、全員が命を落としている。
ここには何人の住民が暮らしていたのだろうか。もう数えられない状態の人もいる。目を背けたくなる光景ばかりが映った。
全く知らない人達だったが悲しみしか感じなかった。目に入ったものに手を合わせることしかできない自分の無力さに腹が立つ。
動かなくなった人達の無念がこだましてくるようだった。カウザが襲ってこなければ訪れただろう未来を想像しただけで自然と涙が零れてきた。
……俺はなぜここにいるんだ?
……俺はここに来て、なにを守るつもりなんだ?
地下都市リムスロットもこの場所と同じ世界にあった。そしてそこにいる彼らはこの光景を作らないために今も戦っている。
レイン達が守っているものもここに倒れている人達と同じ人間なのだと思うと、彼らに対して申し訳ないという気持ちでいっぱいになった。
目先のことばかりに拘っていたのは自分のほうだ。彼らはカウザから地球人を守るために戦っていただけなのに、俺は一人でレシュアからの視線や気持ちばかりに気を取られて哀れな被害者を演じていた。
レシュアにとって必要な道具なのであれば私情を捨てて受け入れるべきだった。感情が伴っていなければ傷が癒えないわけでもない。俺一人が我慢することでリムスロットの住民が死なないのであればそれが正しい判断だったのだ。
……どんなに馬鹿にされてもいいから帰って頭を下げよう。
……どんなに惨めでもいいからまだ生きている人達の笑顔を守ろう。
……それしか、俺の生きる価値はないのだから。
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