11-3



 ヴェインは草原に舞う風を浴びながら静かに立っていた。

 私が近寄ってくることを認めても、空を見つめたまま目を合わせなかった。


「ヴェインさん。探しました」

「姫か。どうした? 急用か?」

「今日の防衛のために新しい機械のことを教えてもらおうと思って来ました。それと、お腹空いちゃったので。へへへ」


 ヴェインはいつもの笑顔をやっと見せてくれた。やはりどこかが変だった。


「レインから話は聞いたぜ。辛かったな」


 気を遣われていた。元気がなかったのではなく、私に元気を見せないようにしていただけだった。また私なのか、と思った。

 ここにずっと立っていれば機械兵に誰よりも早く接触できる。私が来る前に片付けてしまおうと考えていたのだろう。

 それは、お節介というものだった。


「私がキャジュの仲間を殺したことですね。そのことだったらもう平気です。気持ち、切り替えましたから」

「強いんだな。大したもんだぜ」

「あの、ヴェインさんは大丈夫ですか?」


 全身から感じるアイテルの流れが不安定だった。こんな状態で戦闘が始まったら邪魔にしかならない。

 よくよく考えてみれば新型の機械のことなんか聞かなくても全く問題にはならなかった。ヴェインの実力で対応可能であるならば恐れる相手ではない。むしろ差を感じない程度の強化だと結論づけてもいい。

 彼らには申し訳ないが、あの程度の機械兵は私にしてみたらまだまだ物足りない相手だった。


「ここを動くつもりは、ないですよね?」

「お見通しってやつか。でもよ、姫だってもう引き下がらねえつもりなんだろ?」

「ですね。ヴェインさんを一人残して帰れませんから。それに、ご飯だって食べたいです」

「いつ来るか分からねえぞ。昼を過ぎるかもしれねえ。我慢できるのか?」

「子供じゃあるまいし。何時間でも待てますよ。でも、少しだけ泣き言言うかも」


 ヴェインはいつも現れる機影の方角の空を眺めながら大きく溜息を吐いた。

 私のことを面倒臭いと思ったに違いない。こちらをあえて見なかったことがそれを証明している。

 まるで子供の扱いに困る大人のような態度だった。

 でもそこに可愛げがあるのがヴェインの憎めないところでもある。


「ああ、もう負けだ負けだ。姫には敵わねえよ。動くよ、動きゃあいいんだろ。飯食わしゃあいいんだろ。分かったよ。ほら、そうと決まればとっとと行くぞ。ったくよ、なんだかこっちまで腹減ってきちまったじゃねえかよ」

「やったあ。ヴェインさんありがとう。私も手伝いますからね。おいしいご飯作りましょうね」


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