11-4
都市に戻って二人で昼食を作ってそれを食べた。強化版人型についてのことやゲンマルお爺様のことを聞かせてもらった。大体予想していたとおりの内容だった。
それから互いの自宅で一旦小休憩を取り、定時に機械兵が出現するという連絡をもらい戦場で軽く汗を流した。
新型ということもあって今日は二十体の登場だった。
想像していたよりも変化がなくて、まるで手応えを感じなかった。
ヴェインにはかなり厳しい戦いだったようだ。私がいることで専用武器が使えないことがさらに彼を苦しめているみたいだった。
三系統のアイテルを広範囲に同時放射可能の武器『砲筒ダイダラ』は私がいることでその効力が激減した。その一方でレインの大鎌『デア・ファルクス』はヴォイド系とオープン系の近接戦専用武器なので、アンチアイテルの影響をほとんど受けることはない。おそらく強化機械兵と戦ってもヴェインほど苦戦することはないだろう。
どのような武器を持つかは本人の自由なので私があれこれ注文するということはないのだが、私がいることを理由に苦戦されても対応に困るのでそこは最善を尽くして欲しかった。
結局、防衛が終了してもお爺様が姿を見せることはなかった。
「じゃあな。また明日も頼むぜ。メイルとあんまり夜更かしするんじゃねえぞ」
笑顔で手を振って別れた。ヴェインも最後は幾分か元気な様子だった。
心にもない振る舞いをしてもそれなりに楽しめたのは意外な発見だった。これだけのことで傷の悪化を抑えられるなら何度でもやってやろうと思った。
そうやって耐えて、風化していくのを待っていれば、いつか望みに叶った人格が自分に降り注がれる。今はそれを信じて前進するしかなかった……
今日から私は一人で生きていく。
そのための夜をこれからはじめるために、私はもう一つの『戦場』に向かった。
家に帰ると彼は戻ってきていた。まだ休み足りなかったらしく寝台に寝転んで静かに呼吸している。
私は食卓の椅子を寝台のほうに向けて座り、彼の寝顔を眺めた。
こんな顔を見るのは今日で最後になるかもしれない。しっかりと目に焼きつけて明日からの糧にしようと思った。
これだけが胸に残っていれば十分だった。
彼が幸せになってくれるなら、それだけでももったいないくらいだ。
彼は男らしくて素敵な寝顔をしていた。ほんの少しの間でもこんな彼を独占できたことは私の人生にとって誇りだった。
十一年前に出会った時からずっと、彼のたった一人の人になることが夢だった。
その夢を叶えることができて、私は本当に幸せだった。
……あなたと出会えて、本当に、良かった。
「……ん。ああ、帰ってきてたのか。悪い。お前も横になりたかったか?」
「私はいい。それよりもね、ちょっと話があるんだ」
彼は寝ぼけた目をしたまま流し台までふらふらと歩いて水を一杯あおった。
戻ってくるのを黙って待っていると、彼はその場に立って私の名前を呼んだ。
「俺からも話があるんだ」
キャジュのことが頭に浮かんだ。そうであってくれると話は早かった。
「あなたからで、いいよ」
「真面目な話なんだけど、先でいいのか?」
「うん。聞かせて」
「分かった。じゃあ、よく考えて聞いてくれ。あのな、昨日本人にも直接確認したんだけど、レインとヴェインの奴等な、ゾルトランスの人間と裏で繋がっていたんだ。お前はなにか聞いていたか?」
「なにも聞いてない、けど」
本当だった。初耳だった。まるで見当違いの話でどう反応していいか戸惑ってしまい、準備していた声とは異なる高さのものが出てしまう。
「これが事実だとしたらお前はどう感じる? 率直な意見を聞かせてくれ」
「城にいる誰かがレインさん達に指示を出してそのとおりのことをしているんだったら、それは間違っていることじゃないと思う。少なくとも私はあの人達を信用しているし、必要としてくれているから。城と繋がっていても私は別に構わないけど。なにか問題があるの?」
「お前は自分が操られていると感じたことはないのか? 違和感を覚えたことはないのか?」
「不思議だな、と感じることはあったけど、操られていると思ったことはないよ。私は私の意志で動いているし、それにみんなは応えてくれているし」
「そうか。分かった。この件はもういい。お前がそう思っているんだったらそれ以上追求はしないよ。疑わせるようなことを言って悪かったな」
「あっちも黙っていたんだから仕方ないよ。でも、話って、それだけ?」
「本当のことを言うとな、この話には続きがあるんだ。だけど、もうやめよう」
「待って。続けて」
「答えが出てしまったんだから意味がないよ」
「いいから聞かせてよ」
流し台の前で頭を掻いていた彼がもう一杯水を飲もうとしていたので、自分の分も欲しいと言ったら別の容器に注いで持ってきてくれた。
彼は容器の一つを私に手渡すとなにも言わずに寝台に座った。
距離がとても近かった。
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