11-1 レシュアside あなたのことが、好きだった / call for the only
水面に差し込む光がゆらゆらと輝いている。ぼやけていてはっきり目に映らないところがまたそれらしくて、なんとも居心地がいい。
息苦しくなったら顔を出してまたもとの場所に戻る。その繰り返し。
ずっとここにいたかった。死ぬまでずっとここにいられたら、どれほど気が楽になるだろうか。
誰にも干渉されない一人だけの世界。誰からも咎められない平和な空間。
もうこの世界にいたくなかった。こんな自分が自分だなんて認めたくなかった。
世界を変えてしまいたかった。この意識を全部なかったことにしてどこかの誰かに代わってくれるなら今すぐそうしてもらいたかった。
何度も潜り続けているうちに向こうの世界が段々遠くなっていった。現実の私が記憶を重ねていたためだと思う。なんて優秀な頭脳だろう。
きらきらと光る居心地のよい世界が風呂桶のお湯と照明に戻る。認めたくない現実が私の意識に戻ってきた。
少し前にレインから教わった『風呂』というものに入っていた。早朝なので私以外に人はいなかった。だから入ることにした。
特に住民とは顔を合わせたくなかった。なぜなら、王族として振る舞うことに嫌気が差していたからだ。
いつか時機を見て都市の人達に本音を伝えようと思っている。
無意味に着飾るのはもう、うんざりだった。
家に戻っても彼はまだ帰ってきていなかった。
あれから十五時間は経過している。キャジュはこのまま目を覚ますことなく、この世界から去ってしまうのだろうか。とても心配だった。
昨日聞いた話だと、あの機械の中には人間そっくりの身体が入っていたらしい。キャジュの中身を救うために今も彼らは懸命に作業を続けていると思う。状況を確認できないことがもどかしかった。
私は彼女の中に肉体が入っていることを知っていた。そんなこと、実際に捻ってみれば感触で分かることだった。キャジュがナカマと呼んでいたことを考えれば当人もきっとそうだろうと思っていた。連れて帰ろうと決めたのはそのためだった。
彼女を純粋に守りたい。他に理由はなかった。あそこで助けないと大切なものが壊れてしまう。そんな気がしたのだ。
……でも、結局違うものが壊れてしまった。
人を殺してしまったことを後悔していないと言えば嘘になるかもしれない。今でもあの感触は残っている。そしてこの記憶はたぶん一生消えない。
後悔しても得られるものはない。そんなことは分かっていた。だから、肯定することが無理なら、せめて否定する自分と正面から向き合うことをやめようと思った。
これからもカウザと戦い続ける。
たとえキャジュに幻滅されてもそれだけは続けたい。
私を必要としていてなおかつ結果を残せる場所は戦場だけしかないのだから。
彼よりも自分を選んだ。それが私の出した答えだった。卑怯と言われようが構わない。結局私は自分のことが好きでたまらなかったのだ。
自分を守るためのきっかけだったらなんでもよかったのかもしれない。城を抜け出した直後がたまたま彼であっただけで、他にめぼしい対象があればそっちのほうに食らいついていただろう。
きっと、そうに違いなかった。
彼にはいっそのこと人間の姿になったキャジュに特別な感情を抱いてしまえばいいと思った。お互いが楽になりこの星も救える。そんな喜ばしい展開はないだろう。是非ともそうなってもらいたかった……
気持ちの整理がついたら急になにかを食べたくなったので誰かを誘おうと着替えていたら、丁度家の呼び鈴が鳴った。
玄関の扉を開くと、そこにいたのは彼ではなくヴェインだった。
「姫、起きてたか?」
「おはようございます。ばっちり起きてましたよ。どうしました?」
「キャジュが目を覚ました。姫にも早く見て欲しいとメイルに頼まれた。すぐに出られるか?」
「でも、私がいるとアイテルの邪魔になるんじゃないですか?」
「それなんだがな、ちっと言いづらいんだが面会位置の距離指定があるようだ。例の五メートルってやつだな。おあずけ食うよりはましだろ。どうだ、行くか?」
「……はい。行きます」
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