いつも頭の片隅には

湊人と距離が離れてから3日たった朝。当たり前のように朝一緒に行っている湊人は当然今日はいない。わかっている筈なのに胸が締め付けられた。あれからと言うもの、湊人とはずっと話せずにいる。尋ねたい事は沢山あるのに、聞くのが怖いのだ。


–––––何で距離が離れたの?


関係が崩れる前の湊人との楽しい思い出が嫌でも脳裏に浮かぶ。自転車で急勾配を下ったあの日の夜。病室でしか見ることが出来なかった海に連れて行ってくれた湊人。他愛のない会話をしながら歩いた通学路。湊人と過ごした日々を示す場所や景色が確かに心の中にある。だからこそ、苦しい。


「恋愛って…上手くいかないな…」


爽風が吹き、木々をざわざわと揺らす。柔らかな風は、まるで虚無を埋める様に優しく吹き抜けた。 ふと、地面に何か硬質なものが落下した。視線を向けると湊人とお揃いのローマ字が入ったストラップが転がっていた。

そのストラップは私が病院生活だった頃に湊人がプレゼントしてくれた物。どうやら鞄から落ちてしまったらしい。


「…また、思い出しちゃうじゃん」


微かに震える声。徐に手を伸ばして触れると私は優しく手で包み込んだ。両想いになれなくてもいい。せめて前の関係、友達以上恋人未満に戻りたい。

切実な思いをストラップに馳せて、私は再び学校へと向かった。

*****************

騒がしい校舎に足を踏み入れた瞬間、普段と変わら無い1日が始まったのだと実感する。ただ一つ違うのは近くに湊人がいないという事だけ。階段を上りながら思わず溜息をもらしたその時、体に強い衝撃を感じた。刹那、足元が狂いバランスを崩す。


「あ、ごめん…!!」


見知らぬ生徒が狼狽する。俯いていて気づかなかったが、私が階段を登っている時、駆け下りてきた生徒にぶつかってしまったらしい。この階段は手すりが無い。冷汗が背中伝い、血が引いていくのを感じたその瞬間。


「–––––っ!!」


何処からとなく声が聞こえ、私の体が支えられた。幼い頃から知っているその温もりに、まさかと思い振り返ると見慣れた姿がそこにはあった。


「湊人……」


驚きのあまり掠れた声で名前を口にする。気まずそうな表情を見せ、無言で湊人は私を離した。


「あの、湊人…何で…」


話すのが久しぶりで言葉が詰まる。言いたい事は沢山あるのに、喉まで出かかっている言葉を口に出せない。


「…悪い。つい勝手に体が動いて。…じゃあ俺は行くから」


「あの…湊人、ありがとう」


お礼を言うはずが、ついぎこちなくなってしまう。


「俺が勝手にした事だから。…嫌だってことは知ってる。ごめんな」


「ち、違う!嫌ってわけじゃ…」


手を伸ばすものの、湊人の方が一足早く階段を駆け上った。私の手は虚しく空を掴む。湊人の足音は次第に遠ざかり、他生徒の雑踏に紛れて聞こえなくなっていた。


–––––ずるいよ、湊人。なんで優しくするの?


「優しくしないでよ…お願いだから、助けないで突き放してよ」


その方が何も考えなくて済むから。完全に突き放された方が諦める事ができるから。


何度想いを掻き消そうと振り払っても、いつも頭の片隅には湊人がいる。行き場のない想いは、逃げ場を探すだけ。何も行動出来ない自分が惨めで、震える唇を強く噛み締めると重い足取りで教室へと向かった。

_____

「雪音…なんで湊人君とそんなに距離が遠くなっちゃったの…?2人ならぎくしゃくした関係は簡単に戻せると思ってたのに」


雪音が教室に向かった後。一部始終を陰で見守っていた美那が呟く。が、その直後心当たりがあるのか美那は何かに気づいたように顔を上げると静かにその場を立ち去った。


____________________

《作者から》

3ヶ月以上あけての更新です!すみません。全然更新していないのにpvが伸びていて…本当に感謝してます!最近は、面接練習や小論模試、志願理由書の練習提出などに追われていて更新出来ませんでした…ごめんなさい!

フォローしていて下さっている人、ありがとうございます。内容忘れてしまっていますよね…m(_ _)m

1日2行ずつ書きました笑

今日は暇なので、ここまでのあらすじを更新します!登場人物説明も。

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