本当の気持ち~湊人side~

 HRが終わった直後、俺と席が近い恋咲が軽い足取りで近づいてきた。


「恋咲?どうした?」


「あのね、湊人君!少し大事な話があるんだ。屋上に来てもらいたいんだけど時間貰える?」


小首を傾げて俺の顔を覗き込む恋咲。改まって一体何の話をするのだろうか、と疑問を抱きながらもバックを置くと、そのまま恋咲きの後をついて行った。屋上まで来ると、恋咲はゆっくりと俺に振り返った。そしておもむろに口を開くと、どこか明るい声色で俺に尋ねてきた。


「雪音ちゃんと今日、昼休み喧嘩したでしょ?窓から2人が中庭で気まずそうにしてるの見えたんだ〜。雪音ちゃんと会うの気まずいでしょっ?」


図星を突かれ、俺は視線を彷徨わせると黙り込んだ。昼休みに雪音と関係が気まずくなったのは隠せない事実なのだ。それに、既に恋咲に知られているのなら隠す必要はない。


「まあ、うん。…で、話はそれだけか?」


歯切れ悪い口調で言うと恋咲は静かに被りを振った。


「ううん、本題はこれからだよ。雪音ちゃんにあのあと話聞いたんだけどね…」


緊張でごくりと喉が鳴る。雪音はなんて言ってたのか。嫌われてないだろうか。色々な事が頭を駆け巡るが、できるだけ平静を装って言葉の続きを待った。


「雪音ちゃん、あれ嫌だったらしいよ?もう関わりたくないって言ってたような気がするな〜」


恋咲その言葉聞いた瞬間、鈍器で頭を殴られたような感覚が俺を襲った。上手く思考が回らない。恋咲が言葉を発する直前、一瞬だけ何かを企んでいるように、不自然に口角を上げたような気がしたが今のは誤認だと思うほどすぐにその笑みは消え去り、普段と変わらない表情に戻っていた。


「マジで…?あいつがそんな事…」


あいつがそんなこと言うだろうか。でも、雪音は嘘はつかないタイプだし、本音を本人に伝える事が苦手だ。それは幼い頃から何度も見て来たから理解している。信じたくはないが、もし雪音が本当にそう思っているなら俺はもう雪音と関わらないほうがいい。無理をさせる事になってしまうから。


…でも、幼馴染なのに本心言えないのかよ…。そんなに信用ないか?


そう思った途端、焦燥感に駆られた。僅かな怒りを覚える。それは雪音に対してではなく、何1つ雪音の気持ちに気付かなかった自分自身に対しての怒り。


 昼休みに言い放った言葉。そして行動。その全てが雪音を傷つけたのに、幼馴染の俺は何も気づかなかった。1番雪音の事を分かっているつもりだったのに、全然理解してなかった。


…嫌われて当然だよな。


そう思いながら俺は自嘲すると、俺は無言で踵を返した。


「湊人くん?どこ行くの?」


「…帰る」


若干、苛立ちを含んだ声で恋咲に短く告げると俺はそのまま屋上を後にした。わけのわからない憤りが胸の奥にわくなか、静寂に包まれた廊下を歩き教室のドアを開ける。

 教室を見回すと、ある姿を視界に捉えた。


––––雪音。


一瞬、声をかけようと雪音に視線を移した。が、さっき恋咲から聞いた言葉が頭から離れず、結局俺は気づかないふりをして自分の席へ向かいカバンを取った。

早く教室を出ようと足を早めたその時。


「ま、待って湊人!」


雪音が声を張り上げた。その声に思わず足を止める。


「あ、あのさ湊人?なんか私気に触る事しちゃったかな…?」


 しばらく続いた沈黙を破るように雪音が恐る恐る俺に尋ねた。また雪音に気を使わせてしまった、そう思うと自分自身に嫌悪感を抱いた。もしさっき聞いた恋咲の言葉が本当だとしても、雪音は悪くない。俺が一方的に苛立っているだけ。謝らなければいけないのは自分の方だ。それはわかっているはずなのに。


「もう、俺と関わるなよ」


自身のその気持ちとは裏腹に、出てきた言葉は雪音を拒絶する言葉だった。


「え…?なん、で?」


雪音が戸惑いの声をあげる。


「っ、嫌いなんだろ?俺のこと」


–––––何かいえよ。


自分勝手なのは理解しているが、答えが知りたい。本音が聞きたくて答えを待つものの、俺の問いに対して何1つ言わない雪音。そこで俺は確信した。


–––––否定しないってことは、やっぱりなんだな。


苦痛に耐えるように顔を歪ませて、拳に力を入れる。たまらなくなった俺は雪音に振り向きもせずに下駄箱へと急いだ。いや、ただ単に雪音の顔が見れなかっただけかも知れないが。

靴を取り出し、力無く靴箱に寄りかかる。冷静になった今だからこそ自分の言動を振り返ることが出来る。


「…ほんと、最低だな俺」


ため息混じりに吐き出した言葉。雪音が何かを伝えようとしているのにも関わらず、俺は聞こうとしなかった上に心にもない言葉を放った。今更、後悔の念に苛まれる。


「何で雪音の言葉を聞いてやれなかったんだろ…本当ありえねぇ」


いつもなら聞いてやれる。けど、あの時そんな余裕はなかった。無性にイライラして、自分でも驚くほど動揺していた。何でなのかはわからないが。


…これからどう接すればいいんだよ。


内心で呟くと、俺は重い足取りで下駄箱を後にした。先程まで晴れていた空はいつの間にか鉛色の空に変化を遂げていた。

 

まるで、俺達の関係を表しているように–––––

____________________

《作者から》

2、3週間ぶりの更新…。こんな遅くなったの初めて。遅くなってすみません!湊人side、無事終了しました。

次話は普通に雪音目線です!笑

近況ノートにも書きましたが、約1ヶ月半で700pvを超えました。ありがとうございます。

(これから学校の文化祭にだす小説も書かないと…)

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