妃乃里と買い物30 ― ピンチとチャンスは表裏一体
「ありました」
…………ん? 何が?
目を開けるとそこには麗美店員の顔ではなく、さっき麗美店員がワイシャツ一枚で試着室から出て取ってきた、試着していたブラジャーとおそろいのパンツが綺麗に広げられていた。
後ろを振り返ってみると、そこにはハンガーを掛けるところがあった。
………………。
つまり、麗美店員は俺にキスをすると見せかけておきながら、本当の目的は俺の顔の後ろに掛けてあったこのパンツだったわけだ。
もてあそばれるというのはこういうことをいうのか。くそうっ。
状況がわかるや、俺はいつの間にか差し出していた唇を気づかれないように自然な感じでゆっくりと、まるでアハ体験動画のように人知れず戻した……つもり。
……恥ずかしい。出した手をそっと引っ込めるよりも何十倍も恥ずかしい!
「では、試着をしましょう」
はい。
こういう時は気持ちの切り替えが大事だ。
モンモン……いやもやもやしている場合ではない。
しかし、あれだな。男とも女ともわからない人とキスをするようなシチュエーションになると唇を差し出す人なんだな、俺は。新たな自分の発見だわ。
「では、こちらが奏ちゃんさんのパンツになります」
「はい」
……返事がしっかりしているからといって躊躇していないということでは決してないが、パンツを受け取り、そのまま見つめる。
あ、着替えないとだな。
着替えよう。
…………どこでよ。
人いるじゃん。店員さん同じ個室にいるじゃないの。
上半身ならまだしも、下半身はさすがにあれじゃないか? ちょっとズボンのチャックに手が向かないぞ。
……いやよく考えてみて。隣にも個室あるじゃん。
そうだそうだ。もう一つ個室あったわ。
麗美店員はそこに行くに決まってるよ。
性別のこともそうだが、店員とお客の関係性もあるわけで、その関係性だけははっきりしている。
麗美店員はきっとこの個室を出て隣に行ってパンツを穿く。俺はここでパンツを穿く。
なんなら俺が隣の個室に行ってもいい。
お互い、それぞれの個室の中で試着をして携帯のカメラで撮影をして、それをお互いみせればいいよ。そうだよ。そうしよう!
カチ……カチカチ……カチ…………。
なんだこの効果音は。
背後で聞こえる謎の音。
……もしかして……俺の背後で繰り広げられているのか……? 麗美店員のお着替えが!!!
躊躇無さすぎだろ、麗美店員!
どんだけ俺と着比べたいんだよ、もう俺の負けでいいよ、それは!
…………はっ!
………………今なら……。
…………今ならわかるんじゃないか?
今ならはっきりと、麗美店員が男なのか女なのかわかるんじゃないのか?!
なぜならすっぽっぽんだから!!!
いや、そうだよ。だってさっきまで上裸だったもの。
それを今下を脱いでて、かつパンツを穿くなんていうんだったら…………
そりゃすっぽんぽんだよな、おい!!!
今、どこかのラブコメラッキースケベ主人公のように、すさまじく都合の良いこけ方をすれば、全てがわかってしまうのではないだろうか……。
最大のチャンス、到来……したんじゃないのか?!!!
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