★☆約束の彼方に 14
★
「石川 透、完全復活しました」
「透、俺は信じてたいよ」誠がぐしゃぐしゃな顔で抱きついてきた。暑苦しい。
「なんか変な声が聞こたが、あれはなんだったんだ」
「透、無駄話する時間はないぞ」
いぶかしがる剣持先輩の疑問に答えるまえに、吉本先輩に注意された。俺たちは黙って木室さんの指示に耳を傾ける。
「
吉本は引き続き試合の大局を見て動け。攻めるも守るもおまえに任せる。渕上はもうすこし攻めていい。気持ちが守りに入っている。お前らしくない」
「分かりました」と吉本先輩。
「どっかの意地っ張りが不甲斐なかったもんで。次は攻めますよ」と渕上先輩。
そんな二人の大黒柱を頼もしそうに木室さんは見あげ「頼むぞ、おまえら」と二人の背中を押した。
次に木室さんはベンチで息を落ち着ける長友先輩に向き直った。長友先輩は体力を消耗しきっていて、休憩に入っても息が整っていない。
「いけるか、長友」
「ここで行かなくちゃぁー、男じゃないでしょうー」
表情こそ笑ってはいるが足は震えている。痙攣が起きそうな予兆だ。そんな長友先輩を支えるように、椎葉先輩が震えるふくらはぎをぎゅっとつかんだ。
「木室さん。こいつのスリーポイントは試合をひっくり返せる。外してもリバウンドは俺が取ります。このまま行かせてください」
木室さんは笑って激励する。
「もちろんだ。長友がいなければ逆転はあり得ない。サポートを頼むぞ、椎葉」
「はい!」「了解ですぅー」
そして木室さんは最後に残った俺を見つめる。さっきとは違い、俺はその眼を真っ正面から受け止めた。
「透、吹っ切れたみたいだな」
「はい、おかげさまで」
「そうか。そんなおまえにお願いがある。二人だけの秘密な」
木室さんは手で口元を隠しながら、俺の耳の近くてささやいた。
「こいつらに全国大会の切符を渡してやりたい。俺が成し得なかった優勝を、おまえの手でつかみとって欲しい。おまえなら出来る。おまえは強い。信じているぞ、透」
やっぱりこの人は天才だ。これ以上の励ましは思いつかない。
「かならず、勝利をつかんできます」
そこでブザーが鳴った。俺たちレギュラーは決意の円陣を組む。
「優勝できたら、お前らに俺のディープキスをくれてやるよ」戯ける渕上先輩。
「こっちから願い下げなんだが」呆れる椎葉先輩。
「でもー、渕上ちゃんは女子にモテモテなんだよー」羨ましそうな長友先輩。
「そんなに性格が悪くてもっすか」素直になれない俺。
「ふっ、おまえらとチームでよかったよ」脱力した吉本先輩。
そんな吉本先輩の肩を、渕上先輩が揺らす。
「でも、まだ終われないな」
「そうだ、まだ終われない」
吉本先輩は大きく息を吸い込んだ。
「絶対勝つぞ!」
「おおお!」
天井を突き破り、天をも貫く鬨をあげ、俺たちは最後の第四ピリオドへと向かった。
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