人間やめたゲーマー
@tukue_mikan
第1話
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
部屋にはただ、コントローラの音と、モニターから出力される音だけが広がっていた。
――全ては万事順調、何も問題はなく進んでいる。俺はここでは神なのだから。
「ふふふ」
と、思わず笑い声が漏れてしまった。
暗い部屋には、彼――神田旬也だけが一人あぐらをかいてゲームをしていた。彼の意識はこの現実世界にはない、彼の意思は、オンライン戦闘アクションゲームの中だけに存在していた。
『GOD! ゴッドだ。神が現れたぞ!』
ゲーム内の闘技場に神田のアバターが出現すると観客は高らかに声援を上げる。
『すげえ、ランクがカンストしているって噂はほんとだったんだ……』『伝説だ……伝説が見れるぞ!』『つーか本物?』
彼の存在をまるで英雄か、芸能人か、それこそ神のように扱う連中も入れば、一方でアンチと呼ばれる人々からは……
『ただの暇人だろ』『人間捨ててますわwwww』『いくらゲーム好きでもここまではできんわww』『ただのチート野郎だろ? どうせただのCPUだっつうの』『よく、【こんな時代に】ゲームなんて出来たもんだわww』
という罵声を発する人々もいる。もちろんこれは音声ではなくただの文字記号としてゲーム内のチャット機能に映し出されているだけだ。旬也は全く気にしてはいなかった。すべての意識はこれから目の前に現れる敵に集中している。
ここはコロシアムを模した闘技場。旬也が表れた反対側から現れたのは、一体のロボットの姿だった。
――見たことのないアバターだな。
旬也は「よろしく」と定型文を送信したが、相手からは返信はなかった。失礼なやつだ、とも思ったが、相手も緊張しているのかもしれない。向こうのレートは28678678697、旬也より一回り低い。向こうも集中して自分との戦いに望んでいるのだろう、そう考えた。
【READY?……………………………………START!!!】
ゴングが鳴り戦いが始まった。
*********
「はあ? ありえねえ。なんでこの攻撃が躱せんだよ!!!」
旬也は部屋で独り言を呟いていた。正直に言えば苛立っていた。この眼の前にいる相手は、今まで戦ってきたどの相手よりも、間違いなく強い!
カチカチカチカチ
攻撃、防御、策略、発想。今までこんなことはなかった。今まで戦ってきた相手は、旬也の手のひらの上で戦ってきたただの猿同然だった。それなのに、この目の前にいるロボット姿のアバターは、旬也と互角の戦いを繰り広げている。
――これではまるで俺と戦っているみたいじゃねえか。
旬也は少しだけそんなことを考えた。考えてみるととてもおかしな気分だった。今まで自分はただ格下の人間と遊んできたにすぎないのだ。
「ふふ」
旬也はまた笑った。この状況が楽しかった。目の前に、同等の敵が存在するというこの状況がたまらなく面白かった。
「ふざけんな。なんで当たらねえんだよ。俺の攻撃がよ。おっと、そっちからの攻撃は当たらないぜ。やるなあこいつは。あは。あははははははははは」
剣と剣がぶつかりあい、互いのHPは少しずつ減っていく。お互いの実力はほぼ互角だった。
『お、おい。こいつやべえよ。GOD相手に……』『すげ……』『どっちも神だよ。まじで』『神回だわ………………』
「互角……ね」
旬也は呟く。冷や汗が流れるのを感じていた。
「いや、こりゃ、ちょっとばかり俺が負けてしまうかもしれないな」
そう思った時だった。
――嫌だ!!
旬屋の心の中で誰かが叫んだ。彼の中の闘争本能が彼の本能を呼び起こした。
――ああ、久しぶりだ。
旬也はこの感覚に覚えがあった。昔時々、真に集中した時だけ現れる不思議な感覚。俗にゾーンなどと呼ばれるものだった。彼はこうなったあらゆる事象の『その先』を完璧に予測することができた。未来予知、あるいはほんの先の未来を見通すことができるので、そう、瞬間予知と言っても良いだろう。
人が見ている景色、聞いている音は厳密にはその瞬間のものではない。光が到達するまでの時間、音が届くまでに実際の対象は移動し、変化している。その時間を考慮すれば、人の感覚は全て過去のものだ。しかし旬也は、そんな矛盾を考えることなく、本当の『今』あるいは『未来』を知覚することが出来る。
こうなってしまえば、もはや旬也に勝つことが出来る人間なんていない。
旬也の攻撃は全てクリーンヒットする。数手先を読むことが出来る旬也は、敵の動きを予知し、予測し、自分の思い通りに展開を進めることが出来る。彼がGODと呼ばれる所以はそこにあるのだ。
気がつけばHPにはかなりの差が生まれ、旬也の優勢になっている。ロボットのHPはレッドゾーンに到達し、あと一撃ヒットすれば、敗北というところまで来ていた。
とどめの剣がロボットの胸元を襲う。
「ふう」
未来を見通すことが出来る旬也は、実際にモニター上に「YOU WIN」と言う表示が現れるのを待つことなく勝利に浸っていた。
問題なく、旬也が勝利する――はずだった。
しかしそれは叶わなかった。剣先はロボットに到達しなかったのである。それはロボットが旬也の予想を超えた動きをしたからだとかそういう理由ではなかった。彼は間違えなく勝負には勝っていたのである。
「……………………は?」
旬也は我が目を疑った。目の前にはただ、文字列が表示されているだけだったのだ。そこにはこう書かれていた。
――404 ERROR NOT FOUND――
「何が起こったんだ…………?」
そう思った時だった。
爆音と、悲鳴が外から聞こえてきた。
*********
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