流砂の惑星

いちごはニガテ

第1話 リュウサの一族

 赤黒い死砂シサの大地は歩くたびにシャリシャリとした音を奏で崩れゆき、砂埃となって舞い上がり足元を汚す。このあたりは地下の砂脈が複雑に入り組んでいて、部族の者でも気軽には立ち入らない。その不毛の小高い丘を少年は足元を気にすることもなく、古ぼけた砂井戸を目指しすたすたと歩いていた。

「ちぇっ、またあのポンコツ、目詰まりしやがって」

 丘の脇を怒涛のように流れる流砂リュウサの音が轟々と響くなか、舌打ちをしながらつぶやいた言葉は足元から立ち上がる砂煙とともに風に消えてゆくばかりだった。

 少年の一族にしかわからない複雑な古き道筋を辿り、丘の上の採掘場の隅にある古い井戸にたどり着いたのは小一時間も過ぎた頃だろうか。すっかりと足元を赤黒くそめてしまった少年は古井戸の電源をひとまず落とすことにした。流砂リュウサの怒号に混じってブーンと音を上げていた古井戸が黙り込む。防護も兼ねている保護シールドが解除されたのだ。もっともこんな危険な場所に立ち入る者も一族以外にはなく、ごくたまに紛れ込んだ小動物が哀れな骸となって井戸の周りを飾るだけなのだが。外装にあたる井戸の装甲を端から一つずつ剥がし、内部深くの送出ポッドにはめ込まれた繋ぎを抜き取ると案の定、二層となっているパイプの中で死砂シサの塊がこびり付いていた。



「あんな古井戸、もうやめちまえばいいのに」

「何をゆうサレン、今の我らが繁栄はあの古井戸がもたらしたものぞ、一族の次なる長となるものがそのようなことを」周期的に繰り返される今朝のような問答。新世代の一員であるサレンにとっては、無駄なことにしか思えなかった。

 確かに流砂リュウサの大河に点々と浮かぶ無数もの丘と呼ばれる場所に橋をかけ、地下砂脈を探し当て流砂リュウサの恩恵をもたらしたのは遠い祖先の尊敬すべ勇気であり、死砂シサの大陸で細々と暮らすこの星の住民に限りない繁栄の礎をもたらしたのも揺るぎない事実ではあったのだが。


「サレン、父様の言葉は偉大なる祖先の教えが含まれているのですよ。長としての勤めを果たさなければならない貴方の修行でもあるのですから」母であるデルタの慰めも聞き飽きたものだった。


「大河の上に浮遊して直接流砂リュウサを取り込めるようになったこの時代に、あれが何の意味があるんだ」そう言って飛び出るように家を出てきた事が思い出される。砂脈を感じ流砂リュウサの意思を読み取るための術を、気の遠くなるような作業を続けるうちに学び取っていたことはわかるが、それさえもいつの日にかは新たなイノベーションに取って代わるだろうとサレンは確信していた。それをもたらすのが自分を含めたニュウエイジの定めとも感じていたからでもあったのだが。

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