チューバ男子の初恋
紫音うさだ
第1話
「今日も真っ赤だな、
「うるせえ」
おれの顔を見てけらけら笑う
どうもみなさんこんにちは。あ、今は夜だからこんばんはのほうが正しいか。まあそんなことはどうでもいいとして、おれは
ちなみに隣でうめいてるこいつは北上。下の名前は必要ないから言わなくていいよな。……ずいぶんと仲良さそうに見えるって? 知り合ったのは高校生になってからだから、まだほんの数ヶ月しか付き合ってないぞ。ちなみに仲良くなったきっかけは同じ部活だからなんだけど、吹部って男子少ないじゃん? だから仲良くならざるをえなかったんだよ。
で、北上がおれの顔を見てなんで笑ってたかっていうと、おれの口の周りが真っ赤だからだ。なんで口の周りがこんなに真っ赤になってるかっていうと、ついさっきまでチューバを吹いてたから。初心者はマウスピースのあとがついてよくこうなるらしい。金属アレルギーの可能性もあるらしいけど、中学生の時はユーフォ吹いてたし、その時は赤くなったりしてなかったから、それはないと思う。
おれが高校で吹部に入った理由は、さっきも言ったように中学でも吹部だったからなんだけど、ユーフォ吹いてたんならチューバいけるよねっていうわけ分かんない理由で高校ではチューバになった。……最終的には、女の先輩におだてられて「いいですよ」っておれが言ったんだけどさ。
ユーフォを説明する時にチューバの一回り小さいやつって説明したりするけどさ、低音ってまとめられるけどさ、ユーフォとチューバは全然違うもんだから。
唯一良かったことといえば、トロンボーンに頭をど突かれる心配がなくなったことくらい。ユーフォはトロンボーンの前にくることが多いから、合奏の時はスライドに怯えて吹かなきゃなんなかった。あ、あと、「どんな楽器?」って聞かれた時に説明が楽になって、分かってくれる人が多くなったこともかな。
「そういや、今週末の練習って合同練習だったよな?」
北上が普通に聞いてきたから、横目で奴を見たら復活していた。毎日のようにおれの口の周りが真っ赤だって笑うから、そのたび攻撃してたせいで慣れてきたらしく、だんだん立ち直りが早くなってきた。人間の適応力ってすげえな。
「そうだっけ?」
「そうだよ。……たぶん」
「たぶんって」
来月、隣の市のでっかいホールで吹奏楽祭があって、それに
「だって別にそんな楽しみじゃないしさあ」
「まあな」
他校との合同練習に先輩たちはすげえ盛り上がってたけど、おれと北上はむしろ盛り下がっていた。
「調辺高の吹部ってさ、男子が多いんだろ?」
「らしいな」
なぜって、調辺高は共学のくせに吹部に女子が少ないらしいから。普通、吹部って女子が多いもんじゃん? おれも北上も中学から吹部で、吹部の女子にはたいていろくな奴がいないのは経験上分かってるけど、健全な男子高校生だからちょっと期待しちゃうじゃん。かわいい子いないかなとか、そこから始まる出会いがあったりしないかなとか、ひと夏の恋が始まったりしないかなとか。今日だって、こんな時間まで真面目に、それこそ口の周りがこんなに真っ赤になるくらい練習してたけどさ、恋だってしたいんだよ。だって男子高校生だもの。青春したいよ。できればあまずっぱいやつ。
「でも、コンバスに美人の先輩がいるらしいぜ?」
「お? ……それはちょっと期待しとくか」
美人の先輩かー……気になるっちゃ気になるけど、おれが一番気になるのは乳だったりする。はっきり言おう、おれは巨乳が好きだ。だって健全な男子高校生だもの。美人で巨乳だったら最高だけど、乳さえでかけりゃ顔面偏差値は多少低くても問題はない。といってもでかけりゃでかいほどいいというわけでもないけど、この辺は語り出すと止まらないから今はこの辺にしておく。
「トランペットは?」
どうでもいいけど北上の楽器はトランペット。いいよなぁ、花形楽器。中学の時、おれの第一希望はトランペットだった。……なれなかったのは、言わずもがな。
「すげー上手いけど問題児の三年がいるって話しか……。あ、男な」
「女子には期待できなさそうだな」
「話に上がらないだけでいるかもしれないし、当日に期待してる。ペットはオレ以外みんな女だからなー」
「あんまり期待しすぎないほうがいいぞ」
「だよなー……。がんばってほどほどにしとく」
女子が少ないということは出会いにそれほど期待できないのが残念だけど、女子っていろいろめんどくせーし、男ばっかりの吹部って、環境的にはよさそうではあるよな。吹部男子は常日頃、肩身が狭い思いをしてるんだよ。……それなのになんで吹部になんて入ったかって? ……なんでだろうな。
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