変化
「っ!」
その瞬間、脳内に電流が走った。
「お? どうした、プリンのどに詰まらせたか?」
「いや、こんにゃくゼリーかよ」
言うと、谷にけらけらと笑われた。
「それで、どうしたのさ」
「いや、このプリンまた味が変わったな、って」
卵臭さが抑えられたというか、よりミルキーな味になったというか。
前の味の方が個人的に好みだった。
「はあ? 味が変わったんじゃなくて、ゆうちゃんの頭がおかしくなっただけじゃねえの?」
「俺の頭おかしくなりすぎだろ」
「週一でおかしくなってるだろ」
「お前もな」
またひと口、俺はプリンを口に含む。
……なんだろう、違和感。半年ぶりに食べたからだろうか。
いやそれにしても、うーん、なんだろう……。
「なんか、物足りないって言うか……」
「不満があるなら食わなきゃいいじゃん。寄越せ寄越せ」
「誰がやるか」
プラスチックのスプーンを噛んだ時の感触は相変わらずだな、と。
そんなくだらないことを考えていたから、谷に容器ごとプリンを奪われたのだろうか。
「うわ、クッソ甘ぇ、なんだこれ。糖尿病製造機かよ。こんなん返すわ」
「なにからなにまで失礼な奴だな、お前。逆に羨ましいわ」
「照れる」
言って、谷は俺を睨みながら酢だこを嚙み千切る。
甘いの苦手なら食うなや。
「それで、進展あった?」
「は? なんだそれ?」
俺が問い返すと、谷は不敵な笑みを向けてきた。
……なんだよ、怖ぇよ。
「なっちんと仲良くなれたのかって」
「んぐっ!? げほえっほ!」
むせた。
「やっぱりプリンのどに詰まらせてるじゃん」
「お前のせいだわ!」
「はいはい、悪うござんした」
絶対悪いと思ってない。顔でわかる。
「それで、どうなんだよ」
俺の咳が落ち着くのを見計らって、谷は再び問うてくる。
どこか興味なさそうな、というか、答えを予測しているような視線を向けられるせいで、答え辛い。……というのは、やはり言い訳か。
「……進展なしです」
「クッソ情けねえ野郎だな。生きてて恥ずかしくないんか?」
「口悪ぃ!」
「るっせえぞヘタレ」
「えぇ……」
確かにヘタレですけどぉ……。
風邪を引いた片想いの女の子に顔を合わせようという勇気すらなかったヘタレですけどぉ……。
「こんな情けない幼馴染を持って、あたしゃ悲しいよ」
「勝手に悲しんでろ」
「…………」
「な、なんだよ……」
無言でガン見してくんなよ……怖いだろ……。
「……悪かったよ。流石に前のはヘタレ過ぎた」
「うむ。分かればよろしい」
そう言って、谷は俺になにかねだるように右手を出してくる。
「……なに」
「慰謝料」
「はっ!?」
「だから、慰謝料」
「そういうことじゃねえよ!」
なんだよ、慰謝料って!? 俺谷になんかしたか!?
「迷惑料だよ。お前のためにあたしは苦労してんだから」
「うぐ……。返す言葉がない……」
「だから、夕飯を奢られてやろう」
「まあ、それぐらいなら……」
つーか態度デカいな。
いや、俺は文句言える立場じゃないんだけど。
「つーか、なに奢れば良いんだよ? ファミレスでなんか食うのか?」
「駅前でラーメンでしょ」
「お前のそういうとこ好きだわ」
俺は谷の右手を軽く叩き、そのまま手を握って立ち上がらせた。
「腹減るまでカラオケ行こうぜ」
「お、ゆうちゃんにしては気が利く提案じゃんか」
「一言余計だっつーの」
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