山田君のスケベ論

うらぐちあきら

おなきんやめました


 僕はある夜、夢を見ていた。

 そこは墓場で、いたるところに苔を被った墓石が立ち並んでいた。

 僕は草が生えていないところに跪いて、天を仰いだ。


「おぉ、神よ! 僕はこのままオナ禁を続けていいのか?」

「何事だ、山田よ」

「僕はもう長いことオナ禁を続けている……ネットには、オナ禁していれば脇からフェロモンが出て来て、女子大生たちはひとりでに寄ってくるって書いてたんだ。なのに、一向に成果は出ない! もう、誰も信じられない!」


「痩せよ」

「痩せたら正確なオナ禁の効果が実証できないだろう!メガネデブオタ童貞の僕がオナ禁の力だけでヤれるかどうか僕は、知りたいんだっ!」


 それは一種の学術的な興味でもある。

「なるほど。だがな、山田よ。恋愛には押しも大事であるぞ」

「押し?」


「さよう。貴様からアタックせねば落とせる城も落とせぬ」

「なるほどねぇ、じゃあ次女の子に話しかけられたらその時押してみるわ」

「それは結局受け身であるぞ。それに貴様に話しかけてくる女子などあまりいない。やはり、押して参れ! 有り余る性エネルギーを女性への原動力にするのだ」

「いや、でもなんつーか……昼間はチョームラムラしてんだけど、夜にアニメ見たりするじゃん? なんか風船の圧がなくなったみたいに、それでまた性エネルギーが萎むんだよね」

「では、二次元を捨てよ!」


「……それは無理でーす、ドピュピュ!」


 僕は何の前触れもなく、だが確固たる反骨の意思を持って、力強く夢精した。



「それからというもの、僕は二週間に渡るオナ禁をやめたんだ」

「は〜ん」


 僕の話にいかにも興味なさそうな相槌を打つヒロ君。彼は対面座位をどのアングル、どの首の反り具合で描いたらより絶頂っぽいかを研究するのに必死のようだ。素早くアタリを描いては並べ、また新しいアタリに取り掛かる。


「やっぱさ、成果の出ないオナ禁、つまりヤれぬオナ禁に一片の価値なしだよね。もうこれからは自分の欲望に正直に生きようと思う」

「いやいや、山田くん。二週間のオナ禁で即ハボできたら苦労しねぇよこの時代」

「何だよ! そういう君はどうなんだ、オナ禁してんのかオラッ!」

「う〜ん、抜きたい時に抜く……そういうスタンスだったからな俺。わかんねーわ」


 いるよねー、こういう奴!


 今まで何人殺してきたかって、数えたことねぇよそんなの。みたいな感じのクールぶってる奴。

 今週抜いた回数も覚えられないやつなんて、自分が何歳かもわかってねーんじゃない?


「ちょっとイケメンだからって調子にのるなよ! 所詮僕も君も同じ童貞に代わりは無いだろうがっ!」

「こっちはそんなに生き急いで無いんだよ」

「生き急ぎ? 君、この僕が生き急ぎだっていうのか?」

「俺たちみたいなオタ童貞はそれにふさわしいように自粛して大学生活送ってる方がガラだろ」


「チィッ! 君、そんな調子で童貞を言い訳にし、童貞というぬるま湯に浸かることで現在の地位に固執しようとしているんだな! あぁ、分かったよ」


「何がだよ?」

「君みたいな童貞モラトリアム青年とは僕が違うってところを見せつけてやろうじゃ無いか!」


「おいおい、また始まったよ」


「非童貞ではないものの、それでいて少しも童貞くささの無い、頭ひとつ抜けた魂の存在……すなわち神童貞のしての意地を!」

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