The SterShipCruiserS
中村雨
西暦二〇XX年
カノエの章
Round.01 カノエ /Phase.1
放課後、
「それ、
その様子を見ていた後ろの席の
「そう、ソレ。今日バージョンアップみたい」
リリースは一年前、
普通、最新鋭のアーケードゲームでも、一年もすると人気に陰りが見えてくるが、筐体が大型でインストラクターまで居るせいか、通常筐体のゲームコーナーに比べても独特の熱量の高さがあった。
「プレイ料金が高いんだよなぁ。クラウンシェル……とか言ったっけか? ミストの真ん中に置いてある、あのでっけえ筐体」
よく聞く“敬遠理由”を皆倉は口にした。耳にタコが出来そうなほど聞いた話だが、実際その通りで、プレイ料金だけで通常筐体の三倍は掛かるし、自機や武装、アクセサリの追加販売などもある。
「ワンゲーム長いから、
苦笑しながら言い返した。
ヘヴンズハース一筋の
なので、一緒にアミューズメントセンター“ミストランド遠野店”に通うが、遊ぶゲームは別、と言う仲だ。
「そういうもんか。あ、そうだ俺、今日用事あって先帰っから」
「あれ? 今日はミスト行かないの? 珍しいね」
「バージョンアップとかって、お前は寄ってくんだろ?
「ん? うん」
時計を見ながら生返事をしていると、
そういう日もあるのだろう、“所詮はゲーム”だ。
放課後、もう教室には
*
ヘヴンズハースはスレインズウォーカー社が提供するアーケードゲームである。
内容は密閉型筐体クラウンシェルと、アミューズメントセンター同士を繋ぐ専用回線を使った“多人数対戦型SFメカアクション”。
元々はメック系の
プレイヤーはロボット――直立時、全高百
サイトトップには惑星の荒野に砂塵を巻き上げ、
だが、その上にオーバーレイする形で表示されているのは、ゲームの主役であるところの骨格艦ではない。
“第十七期バージョンアップ・新規追加インテリア”と銘打たれてピックアップされている画像は、弾性のある質感と金属的な光沢をした材質のテクスチャ・マップで彩られたボディスーツを纏う、妖精の姿であった。
長く豊かで、鮮やかな菫色の髪にエメラルドの瞳。そして、やや無機質な表情。
特徴的なのはその腰の辺りから生えた羽で、丁度、
膨らんだ膝丈スカートは、大腿部の大型
「インターフェースユニット〈アトマ〉。コックピット用アクセサリ。クラウンシェル関係のインテリアは久しぶりだね」
密閉型筐体クラウンシェルは、その名の通り二メートルほど上方、王冠のように設置された周囲三六〇度モニターの“クラウン”に、操作レバーやボタン、スイッチ類の付いた座席を迫り上げて、下部から差し込む形をしている。
搭乗と保全の為のインストラクターが付き、その大掛かりな構造から、アーケードゲーム掲示板の専用スレッドなどでは「アケ筐体と言うよりアトラクション施設じゃねえか、ネズミの国に帰れ」などという冗談が踊り、冗談には「マジかよスレイン最低だな」と返すのがお約束となっていた。
そのスレインは、提供会社であるスレインズウォーカー社のことではなく、プレイチケットや追加アクセサリの各種有料アイテム販売画面を担当しているインフォメーションキャラクター“闇商人スレイン”のこと。
大掛かりなクラウンシェル筐体のランニングコストを考えると、追加アイテムの料金設定は“業界的には”かなりの良心的な価格設定ではあるらしいのだが、ユーザー側はそんなことなど知った話ではなく、このメーカーの社名を冠した闇商人のおっさんは、事あるごとに最低野郎扱いをされているのであった。
そう言うわけで、新規追加された〈アトマ〉と言うインターフェースユニットも、闇商人スレインが販売する有料インテリアの一つだ。
陣笠を被り、デジタルゴーグルで顔を半分覆ったスレインが案内する広告ページをスクロールすると、商品説明が現れる。
索敵や戦闘ダメージなどのインフォメーションメッセージを、従来の機械音声の変わりに、この〈アトマ〉が喋ると言うインテリアらしい。
「ああ、女の子って言っても、ボブルヘッド人形よりちょっと大きいサイズか。左前方の計器類オブジェクトとの差し替えパーツ……」
ヘヴンズハースを提供しているスレインズウォーカー社の方針では、ゲームに対して真摯なスパイクプレイヤーと、クラウンシェル筐体が与える体験を愛するフレーバーユーザーの二種類のユーザーを想定しており、そのどちらのユーザーにも快適なサービスを提供するとしている。
その為か、ゲームに影響する
〈アトマ〉の種族欄には“ヒューレイ”という聞きなれない種族名が記載されていた。
ヘヴンズハースの世界には、人類は
異様に小さな体に、
「――追加エピソード“ヒューレイ紀行”も同梱。これはストーリーミッションかな」
ストラリアクターの中枢システムにして、
追加エピソードの注釈にも、六千年前、
「――……うーん」
しかし、そんなフレーバーユーザー向きのエッセンスにすら、
「――先月、
原因は先月買った、
平均的なパラメータを持つ
同バージョンアップで導入された一連の
柄の造りはSF的で、鍔と柄と刃のそれらが一体化しており、お世辞にも日本刀には見えないし、刃紋を備えた反身の片刃は、中ほどで折れたように“ズレ”ており、ここがスライドして長い刀身を
細身の
腰背部にアームで接続された
移動慣性を乗せるほど威力が増す特性と“
結果、プレイ料金のことを考えると、今月は無駄遣い出来ない状態だった。
「ま、今週のセールはスルーかな」
販売期間は3day――三日しかないから、そうして、
*
「あ、〈アトマ〉じゃん。買うの?」
公式サイトを閉じかけた所で、唐突に背後から声が掛かった。
いつのまにか背後に立っていたのは、綺麗な黒髪と栗色の瞳をした少女。
校内で美人コンテストでも開催すれば、上位間違いなしの美少女を一瞥するが、
「なんだ、
と返した。
隣のクラスの
二年に上がったばかりの頃、遠野ミストランドで会った時、同級生とは思わずに“さん”付けして、敬語で話してしまい、「隣のクラスだよ。面白いね、君」と随分笑われて、それ以来の付き合いだ。
クラスの男子たちは、このお嬢様然とした
知っているのは
それでも夢を見たい層が、一定数居るらしいけども。
「珍しいね。学校で話しかけて来るなんて」
そんな周囲を知ってか知らずか、いままで
――逢魔ヶ時。
そんな言葉が浮かぶ、夕闇迫る赤い時間。
夕日を浴びて、すこし色素の薄い栗色の瞳が黄金色に輝いて見える。
のだが――
「で、買うの?」
外見やイメージとは裏腹に雰囲気もへったくれもなく、スパイクプレイヤーらしい、端的なザックバランとした喋りで
「いや、買わない」
「あらなんで? かわいいじゃん。あたしに似て」
自分を指差し、そんなことを言う。
確かに
大体、普通ゲームのキャラクターなどと言うものは、美化して表現してあるものだ。それを堂々と「自分に似ている」と言える胆力は、さすがと言う他無い。
彼女はガチガチのスパイクプレイヤーだから、フレーバーなどには見向きもしないと思って居たので、
「だいたい、
お陰で彼女と絡むためにスパイク勢に片足を突っ込み、駅前にあるミストランド遠野店のスパイクプレイヤー達に揉まれる日々が続いている。
ヘヴンズハースの
「メレ3の時に薦めたやつ? ちゃんと使って練習してるんだってね。こないだ“ポン刀一本で
そういって
「やっぱりだろ?
以前、主に使っていたのは
「アレは飛び道具にしては撃破も取れるいい装備だけどさ……ダメだよ。近接をしっかりマスターしてからだね。援護って言っても、ただキル取るだけの“芋”じゃ、頭数が減る分、前衛の負担が重くなる。ユージンだって分かってるハズだけどねぇ……」
“芋”と言うのは、
実際は、前線を担当する者の、負担が増える事の方が多いと言うのが
特にヘヴンズハースは、近接攻撃での
「
やたらと突出し、攻撃を仕掛けたがる嗜好は、これも“猪”と言って別の蔑称がある。
攻撃を優先するあまり全体の防衛線に負担を掛けやすく、主に
結局この手の蔑称は、意思疎通の失敗と敗北による愚痴の類なのだが、他人と協力、連携するべきゲームである以上、軽視もしにくい。それで陰口を叩かれて居たのであれば、尚のこと気になるものだ。
だけど
「お陰で
そう言うと、彼女は楽しそうに笑うのだった。
馬鹿にされているように聞こえなくもないが、よく考えてみれば、褒められているようにも感じる。
彼女を倒せる実力を身に付けて、ハッキリと認められるようになりたい。それが目下の
「あれ? そういえば今日、音ゲーマー君は?」
「
「あら珍しい……ふーん――まあ、じゃ……行こっか?」
“どこへ”とは聞き返したりしない。
二人で行く先はミストランド遠野店。
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