第2話
バッシャーン!!
派手な音が聞こえた直後ゴボゴボっと口の中に水が入ってきて何が起こったのか理解できずただただ酸素を求めてもがく。
しかしどちらが上か下かも分からない上服が体に絡まり体が重い。必死に手を伸ばすがその手は何も掴めず息もできないことに恐怖を覚える。だんだんと意識が遠のいていく。
(誰か…助けて…!)
このまま死ぬのかと思った時その手がぐいっと何者かにより引っ張られ、ざばっという音とともに求めていたものが口から入ってくる。
咽ながらも必死に息を吸っているとそのまま硬い地面に体が打ち付けられた。
濡れた髪を手で撫で上げ目を開けるとそこには銀色の鋭い刃物があった。
「…っ!」
思わず息を飲む。
「曲者か。どこから侵入した?」
硬く鋭い声に身がすくむ。それでもそっと顔を上げると薄暗い中にぼんやりと強面の男と目が合う。
曲者という言葉と目の前に突きつけられた剣さらには恐ろしい顔で睨む男に頭の中は大パニックだ。
何も答えられずにいると男の後ろの方から幾人かの足音と声が聞こえてきた。
「どうした!水音がしたが?」
その声に対して目の前の男は結菜から目を逸らさないままに答える。
「曲者だ。どうやって忍び込んだかはわからんが…池に落ちるとはなんとも間抜けだな。」
「ではさっきの音は此奴が落ちた音か。」
そう言って後から来た者達が松明を結菜の方へと近づける。
「変わった着物を着ているな。異国からの凶手か?」
「おい、お前。何者だ。目的はなんだ!」
変わった着物っと言う言葉に不思議に思い周りを取り囲む男達の服装を見ると皆昔の武士のような鎧を身に纏っている。そしてその腰には一様に剣が携えられていた。結菜は恐怖で震える。ここはいったいどこなのか。そもそもどうしてこんなことになっているのかと自らの記憶を辿る。
(確か…そう恵と飲んで、帰りにコンビニに寄ったのよね。それから……赤い…車?……そうよ、私車に跳ねられたのよね!?それから水の中に落ちて助けられて剣を突き突き付けられて…。)
思い出した。しかしどうして車に跳ねられたあとここにいるのかが理解できなかった。ここは天国か、自分は死んでしまったのかと様々な考えが頭を埋め尽くす。
喉が張り付いたように声が出ない。
それでもここで何も言わなければ目の前の剣が自分を貫くかもしれない。結菜は震える唇で声を出そうと口を動かした。
「…っ私、は…!「騒がしいぞ。何事だ。」
答えようとようやく出た掠れた声に被さるように聞こえたのは凛と透き通った男の声。
その声に誰もが振り返った。結菜はその時初めてそこに建物があることに気づいた。暗くてよくは見えないが昔の日本のお屋敷に似ているようででもどこか違う。そしてそこにぼんやりと人影が見える。
「申し訳ありません!曲者が侵入しまして捕らえておりました!!」
焦ったように結菜を取り囲む男達が次々に頭を下げる。
「女か。」
そう言いながらその声の主はこちらに近づいてくる。
それに気を取られているとぐいっと両腕を掴まれ痛みが走る。
何事かと振向こうとした時には腕を抑えられながらその御館様の前に突き出すように押された。
じゃりっと土を踏みしめる音に顔を上げるとそこには先程は暗くて見えなかった男の顔が松明に照らされて鮮明に映る。
白銀の長い髪が赤い炎に揺られて輝き、涼しげな目元にすっと通った鼻筋、薄い唇。まるで彫刻のような美しさだった。そして着物のような服装。炎に照らされたそれは淡い光沢があり決して安物ではないことがわかる。
これほどの美貌の持ち主を結菜は見たことがなくめを奪われた。
その男はゆっくりと結菜の頭からつま先まで眺めるとふっと鼻で笑った。
「そのような女になにができる。しかしこの厳重な警備の中屋敷に入り込めたのだ。手引きした者がいるのだろう。それは誰だ。答えろ。」
美しい顔に表情を乗せることなく言い放たれた言葉は静かであるのに厳しく威圧的だ。
「答えろ、女。手引きした者は誰だ!」
追い討ちをかけるように先ほど結菜に剣を突き付けていた男が凄む。
しかし結菜はなんと答えていいのかわからない。なんと答えていいかはわからないがこのままでは恐らくお金持ちの家に忍び込んだ不審者になるのだろうということはわかる。
「……わ、私は気がついたらここにいて…。」
「そんなに簡単にこの屋敷に入れるものか。目的はなんだ。私の命か?」
「そんな…!」
「まぁそれもすぐに明らかになるだろう。」
そう言って結菜から目を離し次鎧を来た男達に目を向ける。
「牢へ入れておけ。目的と手引きした者を吐かせろ。」
「っな!…痛!」
結菜は驚きのあまり動こうとするがその瞬間結菜の腕を捉えていた男がその手をさらに強い力で締め上げ動きを抑える。
「はい。後ほど報告致します。」
「来い!」
結菜は男達に引きずるようにして連れて行かれる。
待って、違うと抵抗しようとするも男の腕力には敵わなかった。
異世界なんて平凡な私にとっては死亡フラグでしかない @Mitsuki_v
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