睦事

久方ぶりにきみが居た

眦を奥ゆかしげに擽るは

いつも私の思わぬ時で

恥じらいがちなきみだから

脅かす事のないように

眠った素振りで暫し委ねる


頬骨を撫ぜる仕草は拙くて

こそばゆさに身動げば

はたときみは驚いた

慌てて滑る指の可愛げ

顎の付け根を踏み越えて

流れる髪の最中へと

きみが確かに逃げおおせたなら

漸くに濡れた睫毛を持ち上げる


しとりと

潤わしい痕跡ばかりを残して去った

泪、泪よ、愛しききみよ

心より生まれ落ちたる精霊は

殊の外にも愛おしく

引き止める事こそ叶わねど

逃げていく脱兎の如き指遣いすら

如何しようもなく快い

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る