桜下の椿

私、山茶花、紅要黐べにかなめもち

春を終わりに燃ゆるもの

焚き火のような紅い生け垣

植え込みの灯と庭の花


今年も桜の頃が来る

その咲き誇る無常の日々は

春の峠を現すもの

手引きの風に心を揺らし

儚む様を愛づるもの

冬枯れの樹は葉など纏わず

花籠を梢で編んだ

常緑を背に色を誇らぬ

花一色の出で立ちは

風に未来を託したが為


きみを見上げてきみより早く

枝葉を負うた私は椿

慎ましさではきみに敵わず

凛々しさならば誰にも負けず

冬の終わりに臨んだ花を

きみは見知らず生きるのだろう

私は散らず

私は落ちる

蕾のきみを愛でながら

先逝く友を追うように


空を覆う満開のきみが

老いた私を包んでくれる

そんな季節に一歩届かず

夢諸共に

私は落ちた

熾火に託す憧憬を

散る日のきみは知っている

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