冬は恋人

しらむ空を薄目に見上げ

温まった毛布を掻き抱く幸せ

凛冽に夜を凍らせた漂泊者が

露を結んだ硝子窓を叩いている

冷えきった錠に手を伸べれば

待ち兼ねたと言わんばかり

淀んだ空気を払い除けて

舞い込んだ一陣の風

私の寝所に通い詰める

冷たい恋人


林檎色の頬をひたりと撫でた

氷のようなきみの手に甘えを囁く

招き、招き、うつらうつらと

持ち上げた毛布の隙間から

怠惰の気配を掃き散らそうと

滑り込むきみは甚く無防備で

触れた指先

捕らえた袖口

引き込む此方は夢の揺り籠


可惜夜あたらよの眠りが施す優しさも

寝覚めに耽る温もりの

心蕩かす甘やかさには敵うまい

眠りを知らず夜を往く

きみには尚の事だろう

我など忘れてしまえば好いと

唆す吐息は甘露か

はたまた毒か

じわり、素直に

熱に染まる素振りときたら

愛おしさもひとしおに

喉に匿った言葉を殺す


まるでその身が在るかのように

きみを確と胸に抱き

分かつ温もりが嬉しいと

火照りの引いた頬で笑えば

私を揺り起こす事も諦めて

きみは静かになった

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