書簡集

白井惣七

はじめに

 これからいくつかの手紙をここに纏めておこうとおもう。これらの手紙はすべて、私の友人 M から私宛に送られてきたものである。もちろん、彼や私のプライベートに関わるようなことを含んだ手紙はまっさきに排除したし、それだけでなく、あまりに雑多なことや、少々下品な表現を含んだりするもの、あるいはそれら以外の理由で公にするには不適切なものや、読んでいてもつまらなさそうなものも排除した。多くの手紙を交わし合ったので、それでも多くのものが残った。彼の手紙は、私にはどこか面白いのだ。文章が上手いわけでも無いし、なにか発見のあるようなものでも無いだろう。物語が潜んでいるようには思えないような、ふらふらとした足取りをしたものだ。しかし、どことなく日常から浮かび出たような感じがするし、どことなく潤っているのだ。それを私以外のだれかとも共有したかったのだ。

 本当ならば、彼の手跡や便箋となった紙、インクの色までそのまま見せたいのだが、私や彼の名前が、当然伏せられること無く書かれているし、なによりあまりにも彼そのものを公にしてしまうような気がしたので、このような文字で公開することにしたのである。

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