第4話 教えるのって面白れ~
オレのプレースタイルは何?得意なのは何?
もしそんな質問をされたら、自信を持って言えるのは『観察力』だと思う。
自分自身の力としては、足はかなり速いし肩も体幹もしっかりしてるから強いボールも打てる。父さんに言わせると指先の感覚が良いから微妙なコントロールも可能みたいだ。でも客観的に見て同学年のトッププレーヤー達と比べると、サービススピードにしてもスピン量にしても若干劣るのは自覚してる。
でも相手の得意な所や苦手なコースなんかをゲームをしながら見抜いていって、得意なのをしつこく潰しながら苦手な部分を突いてリズムを崩してやる。
だから最後に負けた寺田ヒカルにしても単純な身体能力は数段やつが上回っているのは分かりきっているさ。
観察してクセを盗んで、粘り抜いていやらしいほど相手の得意な攻撃パターンを一つずつ潰して追い込んでやるんだ。
オレのコントロールの良いのをわかっていても、予選や準々決勝ぐらいまではセルフジャッジ(プレーヤー同士でジャッジする)が多いから、明らかに入っているライン際の球を追い付けない悔しさからアウトと言うやつもいる。
そんな時はどんなに広くコースが空いていてもボディに向けてバシバシ打ち込んでやる。
大体戦意喪失するかわざとアウトとコールするのはやめるけど。
必修クラブだけの約束だったけど、見てみたら大平とリン以外にもなんか面白そうなやつがけっこういたし、ちょっとしたアドバイス一つで見違えるような成長を見せるのもいた。だから自分のメニューを疎かにしない範囲で毎日行くようになってしまった。
関取ってあだ名のデブ(須藤)は、自分が動きたくないから強烈なサーブやレシーブのみをひたすら打って、返された球が少しでも遠かったら・・・追わない・・・。こいつにはスライスとトップスピンを教えて相手を深い位置に釘付けする方法をやらせてみたら、それほど広角にリターンが来ないしもともとゴリラみたいなパワーがあるからバンバン強烈なボールを深く散らして打つしいつしか大平も手を焼くようになった。
オレ「お前痩せて走れるようになれば部内最強だぜ」
須藤「わかった頑張る」
オレ「って、おい、言ったさきから練習後になに食ってんだよ」
須藤「ビッグサンダーチョコとおにぎりとコーラとハムカツサンド」
オレ「痩せる気あんの?」
須藤「内村航平もビッグサンダーチョコ食って強くなった」
オレ「錦織圭は食わない」
須藤「そのうちダイエットするけど今は腹減ってるから無理」
オレ「・・・・・」
熊井ってノッポは羨ましいことに180㎝以上もあるくせに変に遠慮したテニスをしていて、ベースラインからほとんど前に出ない。
怖がらずネットに付いてボレーを狙えとけつを叩いた。でもすぐ下がるから、何度も何度も『前だ~!!』と怒鳴り散らしていたら
「俺は前田じゃなくて熊井だよぉ」
とギャグのつもりらしいがクソ面白くも無いことを言いやがった。
関取と乱打させて自分のプレースタイルは通用しないことを身をもってわからせてやった。
前に出るタイミングがわからないってんで、ここだ!って指示した時にたまたま上手くボレーが決まって、関取が一歩も動けなかった。
それから二人とも熱心にお互いをやっつけてやろうと工夫を凝らすようになっていき、ほっといてもあららら上達してきた。
島村リンに関しては教えるのが面白くてしょうがなかった。教えたことをすぐに吸収して実践して見せてくれる。
天性の勘の良さと柔らかさを持っているし、俊敏さもハンパないし、何よりリズム感が抜群でコート内を跳ね回る姿はすごく楽しそうに見えた。
ただ体が小さくて絶対的なパワー不足はすぐにはなんとも出来なかったけどね。
ある日、休憩している時に
「リンは小学生の時にどんなスポーツやってたの?」
何の気なしに聞いてみた
「ボクは野球のリトルリーグとヒップホップダンスを少しやっていました。でもシニアに行くのは体も小さいし諦めていたら、おねーちゃんがウチの学校のテニス部に背はそれほど大きくないけど県のトップレベルの選手がいるよって教えてくれて、それでボクでも頑張れば出来るかなって思って入部したんです」
ははあ、まゆの進言のおかげでこんな才能に出会わせてもらえたのか。それにしてもオレの事(たぶん)を引き合いに出してくれるなんてなぁ、こそばゆいじゃん。
でも左右の動きの良さや、ボールの勢いを見極めて前に詰めるスピードは野球で培われたんだな。と妙に納得した。
野球と聞いて閃いた事がある。それはフォア・バックとも両手打ちが出来るんじゃないかってこと。
ウチのスクールの中にも両手打ちの子がいるけど、両手で打つと威力が倍増する反面リーチが半分になってものすごく走らなければならない。大体の両手打ちプレーヤーは走らされて負ける。オレはコントロールが良いから両手打ちのやつとやって負けたことがない。散らしてやれば勝手にへばってしまうから楽勝だ。
リンならこの俊敏性と脚力でその弱点を克服出来るんじゃないか!!
なんか本格的にワクワクしてきたぞ。
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