第2話 学校で

 学校でのオレは浮いていた。

 学校のテニス部は三年生が引退して、オレ達の代がメインとして活動していたし、新部長の大平はこんな普通の公立中学校でしか練習してない割にはけっこうクレバーなテニスをするから、大会の時も上位に顔を出すこともあった。

 大平は、一年の頃は学校の部活にも出ろよとしつこく誘ってきたこともあったけど、取り合わないから諦めたみたいだ。他の先輩たちもオレを完全に無視していたから、後輩たちとは話したことも無いやつらがほとんどだった。

 授業中は自分のハードな朝練による疲労から体力の回復をはかるために、極力聞き流すだけのスピードラーニング方式、または睡眠学習が常だった。

 扱いづらいやつ、付き合いの悪いやつ、と思われていたんだろうな。


 ラケットを握れなくなってから学校での楽しみは、教卓とオレの間に座っている子をボヤ~っと眺めることだった。

 その子は島村まゆと言って一年の時も同じクラスだったけどほとんど話したことはなかった。

 もっとも女子とはなんかうざいから話すのが苦手だったし、その子に限らないんだけどね。


 まゆを眺めていたのはいちいち面白いからだった。

 背も小さくてまるで小学生ぐらいに見えるし、前髪パッツンのダサい髪形もメガネもフレームが似合わない野暮ったい印象を受ける。

 クラスのカースト上位の女子集団からは明らかに隔離されていたし、まゆ自身もつるんでギャーギャー騒ぐタイプではない。

 でも眺めていると、とにかく面白い。

 先生の言うことにいちいちウンウンとうなずいてノートをとったかと思うと、消ゴムを転がしてそれを拾おうとして前の席のやつに頭がぶつかって謝った拍子に、その隣の席の机にお尻がぶつかって回れ右謝罪。

 体育の時なんかはあまりにどんくさくて笑ってしまう。でもなんにでも一生懸命なんだよな~。

 髪も瞳も薄茶色に輝いていて逆光の時なんかドキッとする。

 いつも嬉しそうだったり、ニコニコしている時とミスした時の困り顔とのギャップも可愛らしくて、眺めていて飽きない。

 話す声もコロコロと可愛いけど、なんか鼻にかかったくぐもった感じ。

 でも音楽の時間に歌っている声を聴いたらオレの密かな趣味の昭和アイドルに負けない素直な美声じゃないか!

 決して美人ではないけど可愛らしいしぐさや表情、何より鈴が鳴るような歌声に惹かれて、いつしか目の端で追うようになっていた。



 ある日担任であり部活顧問でもある西口先生から呼び止められた。

「なあ、最近どうなんだ?肘は順調に回復してきているのか?」

次の大会である中総体の新人戦に出られるかとの打診だった。

 オレは授業としての必修クラブでも体操とアップだけみんなとやった後は決してラケットを握らずただ走っていた。 

「まえに先生にも話した通り、半年はラケットを使うなって医者から言われているんで、無理ですね」

そう言うと西口は

「そうか、残念だけど仕方ないな。お前ほどの実力が有りながら顧問の俺がテニス未経験者だから何も力になってやれず悪いと思っているよ」

取って着けたような言い方に聞こえて気分が悪くなった。

「別に良いですよ、自分のやり方で調整してますし、逆にスクールのコーチのメニューで今は体幹を鍛えたり基礎トレーニングや筋力アップに専念する良い機会だと割りきってますんで」

そう言って帰ろうとしたら

「なあ、良かったら必修クラブの時だけでも部員の練習を見てくれないか?大平一人だとなかなか大変そうなんだが。

 それにお前にとっても身近にボールの動きを感じられる時間は必要じゃないかと思うがな」


 つまらない事を・・そう思ったけどただ走っているのにも飽き飽きしていたし、ボールのサラリとした感触もしばらく触れていなかったから

「それぐらいは良いですよ」

と、思わず返事をしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る