デイジーの恋
美葉
第1話 テニスエルボー
「くっそーこんな時にまた痛みはじめやがった」
オレは中2のこの大会で神奈川のベスト4に残っていた。
今までは何とか痛みが出る前にストレートで勝ってきたが、準決勝からは3セットマッチになるし、相手も今まで一度も勝ったことが無い寺田ヒカルという県のトッププレイヤー。こいつに勝てば決勝は過去全勝の相手だから、何としてもこのチャンスをものにしたい。
上腕骨内側上顆炎、いわゆるテニスエルボーだ。
小学生低学年のころからテニススクールに通っていて、肘はフォアハンドを繰り出す時により強く痛んだ。
父さんは野球部だったからリトルに入れようとしていたけど、母さんが近くに自分も通っているテニススクールがあって送迎もしやすいからとそのままスクールに入った。
背はそれほど大きくなかったけど、足が早くて地肩が強いからめきめき上達した。小4の頃は6年生とも互角以上に打ち合えていた。
自身もインターハイプレーヤーだったマコトコーチからも中学生になったら本格的にトレーニングを勧められて、一応参加出来る大会の幅を拡げるために部活動もテニス部には在籍していたけど、毎日スクールに直行してレベルの高い指導を受けた。
マコトコーチの口癖は
「テニスはね、手ニスじゃなく足ニスだ」
ってよく言っていた。オレは肩の強さもだけど、瞬発的なダッシュ力も武器で、コーチからは特に期待されていたと思う。
父さんは諦めきれずに硬式用のグローブを買ってくれて、時々キャッチボールの相手をさせられたけど
「惜しいなぁ、才能あるんだけどなぁ、大谷翔平とまでは行かないかもしれないけど、ピッチャーやらせたら確実に甲子園狙えるんだけどなぁ・・・。肩が強いのも有るけど指先の使い方のセンスは俺以上だよ。これだけは生来のモンだからなぁ、もったいないなぁ」
などとぶつぶつ言っていたけど、オレにはチームプレーより自分の力と戦略でどんどん上に行けるテニスが合っていると思う。
今日のオレは、寺田ヒカルのサービスを徹底して研究していた。
背がオレより15cm も高い上にコントロールも抜群で中学生の大会では珍しくサービスゲームをブレークされたことがほとんど無いっていうビッグサーバーの部類だった。
オレは深く構えて足を使いファーストサーブを拾いまくった。
するとヒカルのやつもポイントはあげているのにサービスエースがいつも取れるところで拾われるもんだからイライラして来ているのがわかった。
ファーストセットは2-6で完敗だったけどセカンドはお互いにワンブレークずつのタイブレークに持ち込み、なんとオレが相手のダブルフォルトに乗じて7-6で取ってしまった。
ファイナルセットはヒカルがむきになってセカンドサービスもエース狙いで打ち込んで来たからミスが増え、オレのワンブレークアップ。
このサービスゲームを取れば決勝進出という所まで来て肘に激痛が走った。
医者には筋繊維が剥離しかけていて、安静が必要と言われたが、関東大会に繋がるこの大会だけは最大の目標にしてきたしステロイド注射を打ってもらっての強行出場だった。
オレのサーブは一見フラットの素直な軌道を描くが、実はヒットする瞬間わずかに親指の付け根を押し込み変化させることが出来る。
ここ一番の時にはこれで相手のリターンを微妙にずらして決めてきた。
ところが悲鳴をあげた肘はトスアップして力を溜めた瞬間サービスを打つ前に肘の中を針金が突き刺したような痛みに襲われて、その場にうずくまってしまった。
その後はゲームにならず、ヒカルのにやけた顔を見ながらプレーする気にもなれなかったし、棄権した。
医者からは半年はラケットを握らないように厳命を受けた。さらにパソコンやスマホの操作も控えろと言われた。
なんじゃそりゃ?
そんなおじいちゃんみたいな生活が出来るかくそ!!
筋トレと走り込みをしていても、ラケットの感触を渇望していてフラストレーションが募るばかりだった。
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