孤独な旅の末⑤

第4話・裏切り


 夜になり、町長のシルヴァが町民を集め酒を振舞った。それは山賊被害に合う前の町の姿だったという。

 何かにつけて馬鹿騒ぎを行う風習は町民の交友や結束を高めていた。

 それは結果的に通貨の無い助け合いの町にとって非常に重要な役割を秘めている様だ。歓迎祭程の豪華な食事は無いものの、町民の持ち寄った料理を食べ、酒を飲んで騒いだ。


 日をまたぐ頃、食べ物の大半がなくなりあたりは落ち着き始めた事を頃合いにシルヴァが町民に受けて語り始めた。


「みなさん、今まで私たちが毎日の様に脅かされてきた山族の被害が去り一週間になります。この一週間は本当に平和な暮らしが続き、それはこれからも約束されるでしょう。それと……もう一つ、素晴らしいニュースがあります」


 そこで、シルヴァはニタリと不気味な笑みを浮かべる。

 するとそれが合図の様に町の大人達が次々に倒れていった。


「おや?少々飲みすぎましたかねえ?ククク……大丈夫、ただ眠っているだけでしょう」


 大人達は次々と眠りにつき、酒を口にしていない子供達と、強力な眠気に襲われているティーチ、シルヴァのみがその場に立っていた。


「もう隠す必要もありませんね……不思議に思いませんでしたか?待ち受けていた山族に……えぇ私が教えたのですよ。彼らとは古い付き合いでね。私も随分いい思いをさせていただきました。……と言っても、最近少し傲慢になられて丁度良い躾になりましたよ」


 シルヴァの表情はより醜悪なものへと変わっていく。

 そして、この話しにもっとも絶望を覚えたのは他でもなくパウロであった。


「嘘だ!!そんな……町長はオイラを助けてくれた。孤児として死んでいくしかなかったオイラを育ててくれた……なのにどうして?」


 パウロはすがる様に言ったが、シルヴァはこれを簡単に切り捨て、その憎悪をパウロにまで向けた。


「黙れ!役立たずの小僧め。そもそもお前の村を潰したのも私達さ。貴方を生かしておいたのは貴方の家が富豪の一人息子だったからですよ。何かと役に立つかと思えば周辺国を探しても親族一人見つかりはしない。あの時殺しておけばとどんなに後悔した事か」


 もっとも信頼していた、父とさえ思っていた最愛の人から語られるあまりにも残酷な事実にパウロはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


「フン……話しがそれて申し訳ありませんね。ティーチ君・・・・・・もうすぐ貴方を捕まえに帝国の兵士、それも百を超える精鋭部隊がやってきます。教育者狩りの条例とは素晴しいものですねぇ。貴方は勿論、それに関わった者全てが処罰の対象になる。これで私は窮屈な町のしがらみから開放され、帝国での地位まで保証されるのです。あぁ……勿論、あなたにはそこのクソガキを殺した罪も背負ってもらいますよ」


 その時のシルヴァの表情にはパウロの知る町長の面影は一切見る事が出来なかった。


「本当……下衆な男ね……」

「な・・・・・・いつの間に・・・・・・」


 シルヴァがその声に気付き振りむいた時、彼の瞳には満月とナイフを持った逆さまの女が映った。数秒してシルヴァは自分の首が宙を舞っている事に気付いた。


 頭部を追いかける様に前に倒れこむ胴体の後ろから現れたのは、返り血に服を濡らしたグリーンだった。血塗られた衣服や手に持ったナイフとは対象的に、月光を背になびく金色の髪が、凛とした表情が、言い様の無い美しさを表していた。


「お芝居に付き合うのはここまでよ。それにあなたお酒なんて飲めないでしょ?」


 そう言ってグリーンはティーチに大鎌を投げつけた。

 グリーンの暗殺の標的、それはシルヴァだった。


「すまない」


 短くそう言うとティーチはパウロに話しかけた。


「辛い思いをさせたな・・・・・・それでもお前は考えなければいけない。真実から目を背けても何も解決はしない。自分で考えて、これからどうするかを決めるんだ」


 まるで自分にも言い聞かせるかの様に厳しく、それでいて優しく彼は言った。パウロはまだ呆然としていたが、その言葉に小さく頷いてた様に見えた。


「あなたも損な性格してるわ。でも、いいわ・・・・・・付き合ってあげる。いくらあなたでも討伐軍を一人で相手にするのは厳しいでしょ?」


 グリーンは呆れたようにそう言った。

 ティーチは小さく助かると呟くと、グリーンに町を任せ、町の正門から東へと走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る