リリーサイド・ディメンション《Lily Side Dimension》@百合の世界を統べる後宮王《ハーレムキング》の物語~自動回復する長髪の少年は少女たちの世界を救うために転生して女騎士の学校へ通う~
第11話 最強の騎士――アスター・トゥルース・クロスリー
第11話 最強の騎士――アスター・トゥルース・クロスリー
*
入学試験はクリアしたわけで……なんとかギリギリ朝からエンプレシア騎士学院に通うことができた。
マリアンと一緒に登校したわけだけど、なんだか彼女にはオレと似たようなものを感じるし……そんなに心が弾む感じもしなかった。
――オレはマリアンが所属するクラスに入ることになった。
「今から紹介する方は、このエンプレシアに降臨した新たな主であるチハヤ・ロード・リリーロードさまですわ。このマリアン・グレース・エンプレシアの『タチ』となる方ですのよ」
「勝手にオレを『タチ』にするな。それにオレの名前は
「『英名風』? なんのことですの? わたくしは、そのほうが自然で良いと思いますわ。皆さんもそう思いますわよね?」
「人に意見を求めるな。オレが名乗りたい名前を名乗らせてくれ」
「……わかりましたわ。ユリミチ・チハヤさま……」
……ざわざわ……あのマリアン女王さまに向かって、こんな風に言い合えるなんて、どういうことですの……新たな主ってなんのことですの……ざわざわ……というような声が教室中に響く。
「静粛に、ですわ。皆さま、チハヤさまは、いずれこの世界を救う存在になってくれますわ。丁重にお願いいたしますわ」
「いいよ、そこまでしなくても……オレは普通に学校に通いたいだけなんだ! マリアンの気遣いはうれしいけど……オレはオレのできることをするだけだ。自由にさせてくれ!!」
ここからはオレの独断の自己紹介タイムだ。
「改めて……オレの名前は
オレは決意を込めて言う。
「なんてったってオレは、この
……ざわざわ……ハーレムキングってなんのことですの……ざわざわ……という声が少しだけ聞こえた。
「まあ、チハヤさまは皆さまに被害を加えない方なのは間違いありませんわ。だから、このエンプレシア騎士学院に所属する皆さまには知っておいてほしいのですわ」
『はい、新たな主よ!!』
なんて律儀な女騎士たちなんだ。なんとしてもオレは彼女たちを守らなくては――。
――騎士学院の授業・訓練等が終わった。
オレはマリアンと一緒にメロディとユーカリが解析している
「チハヤさま、マリアン女王さま、
「わかったです。チハヤさま……これが判定結果です」
オレの
それは九十九パーセントが二千年前に存在した
「二千年前に降臨された神――リリアさまが持つ
オレは、この結果に疑問を抱いた。
そもそもオレが転生した理由は、なんだったのだろうか?
そうだ、オレは普通じゃない……ほかの人たちに比べて。
痛覚は感じないし、子孫だって残せない。
オレはクズな考えを持つヤリたいだけの男どもとは違う。
だから
なのに前世の世界の女性はオレを求めなかった。
オレが女性にとって魅力的な男じゃないから……。
……
オレとリリアの間には、なんの関係があるのだろうか……。
*
……オレは今、エンプレシア騎士学院の図書館に来ている。
エンプレシアで使われている言語がどんなものなのかを確かめるために。
ただ、まあ……エンプレシアで使っている言葉は
と、この状況を意図的に知ってしまった第三者は思うかもしれないが……学ぶ意味はある。
まず、エンプレシアではどんな言語が使われているかを知ることで「ルーツ」がわかるかもしれないからだ。
だからオレはエンプレシアにある騎士学院の図書館で言語を学ぼうとしている、というわけだ。
「……ケイリクシア語か」
ケイリクシアは、かつてのエンプレシアの前身となる国であった……らしい。
だが、少しだけ引っかかる部分がある。
それはケイリクシア語の由来で気になることがあるからだ。
ケイリクシアの意味は「
広い意味で捉えると「
ケイリクシア語の解説本をパラパラ読んでいるわけだけど、これは英語そのものではないか、と思えてしまうのだ。
昔は読めなかったはずの英語が
どんな目的でオレは転生してしまったのか……。
「ちょっと違う本でも見てみるか」
言語とは離れて絵本のコーナーに行ってみたわけだけど……あれ、あれ……あれ?
「これ、日本の漫画じゃないか? でも、なにか違う。登場人物が全員……女?」
彼は女王さまと交わる寸前だったときに聞いた、その題名らしき書物を見たわけだけど……。
「……『剣の達人ヤマコ』……?」
『剣の達人ヤマコ』はタイトル通り、剣の達人ヤマコが剣を使ってバッタバッタと敵を倒していく物語であった。その内容は作者が漫画の打ち切りにあったときにすべての展開を雑に終わらせようとする意図的に作られたギャグ漫画のよう……。
……これ、日本テイストっぽい。
エンプレシアってよくわからない国だな……英国らしきモデルの国なのに日本っぽいところがある。
(――あれ? あの、青紫色の長髪の彼女は……)
アスター・トゥルース・クロスリーだ。
かつてオレがエーテル・アリーナで戦ったエンプレシア最強の騎士。
青紫色の長い髪の毛が図書館で異様な空気を醸し出している。
「……チハヤ・ロード・リリーロードさま」
「よっ……その名前なんだけど、ややこしくなるから『ユリミチ・チハヤ』で統一してくんねえかな?」
「ユリミチ・チハヤさま、ですね。わかりました」
青紫色の彼女は丁寧にお辞儀してくれた。まるで過去がなくなってしまったように顔が朗らかだ。
でも、オレは彼女に剣で体を貫かれた身。
警戒しないわけがないのだ。
だからと言って、この沈黙の時間を気まずく過ごすのもどうかと思って……オレは話を切り出す。
「アスターは、どうして図書館に?」
「……本が好きなので」
オレは「幼馴染の彼女」以外の女の子とは、まともにしゃべったことがない。
だから素直な、あのときの戦いの感想を述べることにした。
「強かったよ、アスターは」
「えっ?」
「正直ぜんぜん隙がないって感じで、攻撃をかわすことがオレにできる精一杯だった。だから攻撃をかわさなかった。オレの回復特性がなければ、あの戦い……負けていたのはオレのほうだ」
オレの本心を彼女に。
「つまり、アスターは、すごく強いってことだよ。あの戦いで、それがとてもオレには伝わった」
彼女は口を開く。
「私は、この国を守るため、ひたすら自分を高め、強くなっていたつもりでした。最強の騎士と言われ、調子に乗っていたのです。だから、あなたに負けてよかったのです。私は、もう一度……いずれ来る『
「手伝うよ。アスターの力になりたい。いや、この国の力になりたい。オレがこの世界に転生……いや、降臨した意味を探すために」
「ありがとうございます。エンプレシアは、あなたを亡き者にしようとしていました。
「そんなもんじゃない。ただの人間だよ、オレは……ごくありふれた普通の人間だよ」
「そんなことありません。あなたは
「気にしたってしょうがないさ。過去に起こったことは変えられない。先へ進もう。……アスター、キミは強くなりたいんだろ? だったら、オレと一緒に鍛えないか?」
「はい?」
「ああ、そのほうがお互いの実力も測れるし効率的かな、と」
「……わかりました。私を……この国の未来を……どうか、よろしくお願いいたします」
「そういえば、アスターって騎士学院に通っているんだっけ?」
「ええ、高等部三年A組に所属しています」
「飛び級、とかしたの?」
「いいえ。私は……不出来なので」
「つまり、アスターは……年上だったのか」
「この騎士学院では年齢なんて関係ありません。学院の生徒は、そんなこと気にしません」
「魔物と戦ったことは?」
「あります。まあ、中級レベルの魔物ぐらいしか……まともに戦ったことがありませんけど」
「へえ」
「……ところで
「いや」
「
「そうか。じゃあ、明日から東の森……イーストウッドへ行こう。魔物を倒しにいくぞ」
「……はあ」
「たまには実戦がいいと思って……ダメかな?」
彼女には少し迷いが見られた。だけど返事には時間がかからなかった。
「わかりました。一緒に行きましょう」
「よし! じゃあ、朝五時に東の方角にある『
「はい! よろしくお願いします」
のちに「これってデートじゃね?」と思ったことは秘密。
「
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