その6

デパートの屋上で過ごす、2度目の夜がきた。


依然として、ツバメは魔法の指揮棒エンビータクトを振り続ける。

「何よ、強盗のやつ!全然音が拾えないじゃない。こんなに時間が掛かるとは思わなかったわ」

ブーたれるツバメに、ウィスカーが聞いた。

「そろそろ教えて欲しいんだけど。ツバメは一体、何の音を探しているモニャ?君は窃盗犯と一度も会ったことがないはずニャ。ということは、この前のように足音をサーチすることはできニャい」

ツバメは言った。

「わかってる。私は初めから、強盗の発する音なんて探してない」


夜が明け、日曜日の朝。

辻さんのお葬式の日である。

タイムリミットまで、あと数時間。

ツバメの目的は、強盗を捕まえることのみではない。

奪われた写真を取り返し、辻さんの棺に入れてあげることが最も重要なのだ。

式の開始が11時からなので、出棺の時刻はそれより1、2時間後といった頃だろう。

それまでに写真を取り戻せなければ意味がない。

2日も家に帰っていないので、しこたま怒られるだろうし、音楽の勉強に費やす筈だった時間も無駄になってしまう。

焦りを募らせるツバメを嗤うように、時間は過ぎていく。


そして、とうとう正午になった。

辻さんの葬儀はとっくに始まっている時間である。


「駄目だったニャ」

遠慮がちに声を掛けてくるウィスカー。

ツバメは肩を落とす仕草をしながら言った。

「そうね、駄目だった。バカみたい。結局、なんにもできなかった」

こんなことならお葬式に出ておけばよかった。

加代は葬儀のマナーをちゃんと調べてきているのだろうか。

ツバメは空を見上げ、大きくため息を吐く。


この1日半、ヒゲエンビーの能力、音レーダーは全く反応しなかった。

強盗は市内に住む人間であるとツバメは踏んでいたのだが、そこから間違っていたのだろうか。

もしくは、

「泥棒のやつが、全くの無能かのどちらかね」

「モニャ?」

独りごちたツバメに、ウィスカーが首を捻る。

「何でもない。もういいわ、やめやめ。疲れたからやめにする」

そう言ったツバメが振り続けていた右手を降ろそうとしたときである。


タクトの先端から、5本の光線が放たれた。

光線はツバメの左斜め前方へ直進し、すぐに先端が見えなくなった。

ツバメとウィスカーは顔を見合わせる。

「来た!」

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