革命@Side-B
@Maris
第1話 目覚め再び
『くっ!』
予想される衝撃に備えて”俺”は身構えた、いいや、身構えようとしただろうか? だけど、その瞬間は一向にやってこなかったんだ。観念して、恐る恐る目を開けるとそこには、意外な景色が広がっていた。
「これはどういう事だ? 俺はどうしてこんな所に?」
俺は自分が見ているモノが信じられなかったけど、それは当然だろう? 俺の目の前には何処にでも在りそうなベージュ色の合成樹脂製と思われるクロスの天井が見えたんだ。布とか紙とかの天然素材には見えないし、そもそも蛍光灯のシーリングライトが目に入ってしまった。
俺の記憶が確かなら、さっきまで俺はあの近代と現代が入り混じった町の中に居て、殺されそうになって居た筈なんだからな。いや、最後に俺は、”精霊の道”に飛び込んだんだったよな?
「こ、ここは、現代なのか」
声に出すと現実感が増した気がする。やや擦れているけど確かに俺自身の声だ。身体に痛みとかは感じない替わりに、鉛を詰め込んだ様に重く感じる。苦労して首を左右に動かすと、右には国内の某メーカー製の小型テレビが、左には点滴の器具が見えた。
そろそろ、認めないといけないみたいだけど、我ながら夢オチと言うのを経験するとは思っていなかった。少し消毒の匂いも感じる気がするし、清潔感はあるけど生活感はないこの部屋は、”病室”なんだろうな。
俺はベッドに横たわっている状態らしいが、枕元にはナースコールのボタンも見えてしまったりする。随分長くて、恥かしい夢を見た様だけど、俺もまだ子供なんだな。この状況だと、あの”事故”の後、ずっと寝たっきりだったんだろうか?
少しだけ悟った気分なって、苦労しながら左手を毛布の中から抜き取ったんだけど、それだけでもかなり苦労した。身体の自由が利き辛かったというのが理由だと思ったんだけど、それだけじゃなかったんだ。
ナースコールに向けて伸ばそうとした左手が視界に入ると、そこには見慣れた、いいや、始めて見る筈の棒状の”モノ”が握られていたんだ。それを取り落とさなかったのは、自分では意識していないのにそれを力いっぱい握り締めていたからだっただろう。
『どうしました? あら、この部屋って!』
「あ、あの?」
『直ぐに行きますから、そのままで待ってください』
無意識にボタンを押した様だったけど、俺は”それ”から視線を逸らす事が出来なかったんだ。何度かそれに話しかけるという誘惑を感じたけど、自分の正気を信じられなくなりそうで躊躇っている内に、看護婦さんが到着してしまった。
「如月さん、自分の事が分かりますか?」
「えっ、はい、何とか」
左手のモノのせいで、ちょっと現実が疑わしくなったけど、固まって思い通りに動かない左手以外は問題無い筈だ。
「顔色が悪いわね、落ち着いて、大丈夫だから」
ちょっと上手く頭が働かないが、俺の困惑がモロに表情に出てしまったらしい。おかしいな、表情は自由にコントロール出来た筈なのに、俺は何を考えているんだろう?
「落ち着いて、貴方の怪我は軽かったし、後遺症の心配も無いわ」
「後遺症?」
その言葉で、この原さんという看護婦さんが、何を心配しているか分かった。俺の困惑の原因とは全然ちがうんだけど、優しく心強い言葉に少しだけ落ち着けた気がする。あの”事故”の後、意識を失ったままで、意識を取り戻した人間が心配するのはそこなんだろうな。
「看護婦さん、原さんですね、ちょっと混乱したけど、大丈夫です」
「自分の名前は言えますか?」
「はい、ラ、じゃなくて、如月更夜です。身体の方は全然言う事を利かないですけどね」
危ないな、これじゃあ、自分が自分じゃないみたいだ。あの夢は本当に現実感があったけど、夢なんだ。左手に握っているこれは説明が出来ないけどね。
「身体の方は、一年も意識不明だったんだから鈍るわよ。大丈夫、リハビリすれば以前の様に動ける様になるわ。まだ若いんだから、回復も早いものだし」
「そうですか、それを聞いて安心しました」
一年か、妙に気にかかる時間だけど、まあ、それは偶然なんだろう。それより重要なのは、左手のこれだよな?
「原さん、僕は何時からこれを握っているんでしょう?」
「その杖? あの映画の影響で、模造品が出回っているのよ?」
普通に、英国産の児童書の方に話が進んだけど、ちょっとな?
「いえ、それは知っているんですけど」
「昨日、如月さんをお世話した時には何もなかったわね? お母様はいらしてなかったと思ったんだけど?」
普通に考えれば、子供のいたずらだろうに、ここで母さんが出てくる辺り、原さんは母さんと親しいらしいな。少し夢見がちな所があるから、俺自身も妙に納得してしまう。俺が目覚める様にとおまじないとか本気でやりそうだしね。
「まさか、お嬢様とも思えないけど・・・」
「お嬢様?」
「ああ、そちらは気にしないで、直ぐに会う事になると思うから」
「はぁ?」
「とりあえず、欲しい物はあるかしら?」
「えーっと、別に無いですね?」
「そうね、固形物は受け付けないでしょうから、薄いお粥とか・・・、そんなに嫌な顔をしないの」
病人食さえ無理なんだな、ジャンクフードなんかは当面見る事も出来なさそうだね。結局水を一口飲んだだけだったけど、その冷たさが再度混乱しかけた頭を冷やしてくれた。コップを受け取った右手の手首にまたもや見慣れた、だけど触れる事が出来無い筈のブレスレットのを見つけてしまったのだ。
水を少し零してしまったけど、それは腕が上手く動かない為だと勝手に誤解してくれたのは幸いだったね。どうやら色々お世話になった女性(多分30代前半のベテラン)看護師に、メンタル面でも心配をかけるのはちょっと頼りすぎだろうからさ。
ただ、ゆっくり出来たのはそこまでだったんだ。原さん以外の看護婦さんが手抜かり無く事を進めていた様で、色々な検査や問診が俺を待ち受けていたのだから・・・。
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