スーパーぬらり屋 営業日誌

山本 ヨウジ

第1話 序章

 ここは、ミカンの産地でほんの少しだけ有名な田舎町。


 今日も今日とて――浅黒く日焼けした健康丸出しの人々が、長靴ながくつに付いた土くれをアクセサリーとばかり畑仕事に精を出している。

「口は出すけど、金は出さない」それがこの町の風土であり、町民に代々受け継がれているDNAである。商売には不向きな町といえる。


 そんな町の中心部(と、言っても……町で唯一の信号機がある交差点だから『町の中心部でいいんじゃない』って事で決まったのだが)から車で二十分程度走った郊外にスーパーマーケット『ぬらり屋』が営業中である。


 このお店――さほどデカくない。かといって「気付いたら跨いでいた」というほど小さくもない。まぁ、世間でいうところの「百把一絡ひゃっぱひとからげ」のスーパーである。

 それでも、しいて「何か自慢できる事は無いのか?」と、問われたら――。

そう――ひとつは。どんな風雪にもビクともしない、頑丈で融通ゆうづうの利かない築三十年は経っている店舗の外壁。

 そして、もうひとつは。経営難という難癖なんくせ日々翻弄ほんろうされながらも、その都度、機転とバイタリティを武器に必死で生き延びてきた。しぶとさを絵に書いたような従業員たちである。

 そう――この二つならどこに出しても自慢できる。


 このお話は、お客に頭を下げるのが大嫌い「一生涯しぬまで……上から目線」を座右のめいにしている小太りデカ頭の店長。


 根まわし名人、従業員から「影の店長」と噂をされている実力者――副店長の大野君。


 この二人がいかにして、この不毛の土地で『ぬらり屋』を潰さないで生き延びて来たかを赤裸々に記録した、二十四時間は無理だけど休憩はさんで八時間なら戦うことが出来るサラリーマン戦士たちの営業日誌である。


 只今からオープンします

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