革命@外伝
@Maris
ニーナ 本編7話読後にお読みください
第1話 メイドさんによるラスティン様の日常紹介
私の名前はニーナといいます。今はレーネンベルク公爵家にメイドとしてお仕えしています。メイドといってもただのメイドではなく、公爵家嫡子のラスティン様専属のメイドで、しかも護衛の役割も兼ねています。(メイドで護衛ちょっとカッコいいと思いませんか?)
私が公爵家に仕え始めたのは15の頃でした。公爵家の召使いとして奉公している叔父が、レーネンベルク公爵家でメイドを募集しているという話を持ってきたのが切欠でした。
平民メイジである私は、魔法が使える様になると、周囲から浮いた存在になってしまいました。友人達も私がメイジだと知ると、怖がって寄り付かなくなりました。
子供心にずいぶん傷付きましたが、メイジであることに誇りを持っていた父に魔法を教わり、優しい母に慰められながら、真っ直ぐに育ってきました。
大人に近づくにつれ、周囲の同年代の子供たちが家業を手伝ったり、奉公にでたりするのをみて、自分の将来に不安を感じていた私は、叔父がもって来た話に飛び付きました。(実際平民メイジは、無用に恐れられ、職に溢れることが多いです)
でも分からなかったのが、メイドを募集しているのに、ドットクラス以上のメイジであることという条件が付いていることでした。そのことを叔父に尋ねてみると、公爵家では華美であることは好まれず、使用人も最低限しか置かない方針だそうで、いざというときの為に使用人は戦闘力を持つ平民メイジを雇う様にしているとのことでした。
どちらにしろこんな美味しい話はそうはありません、翌日には叔父に連れられてレーネンベルク公爵家の屋敷を訪ねることになりました。
お屋敷に着くと、早速試験を受けることになりました。まずはメイジとしての腕を披露しました、風のラインクラスの魔法を使って見せた所とりあえず合格を貰えました。
次は面接でした、執事のリッチモンドさんという方から、様々な質問をされました。緊張してよく覚えていませんが、なるべく装わず正直に回答したつもりです。
結果面接も合格を頂きました。これで採用決定かと思っていたら、最終試験が残っていました。私は豪華な子供部屋に通されると、1人の赤ちゃんのお世話をあやしてみる様に言われました。弟がいる私は難なく、その赤ちゃんを笑わせることに成功しました。(この赤ちゃんがラスティン様でした)
すべての試験に合格した私は、レーネンベルク家の方々と対面することになりました。
30代後半の旦那様(テオドラ様)に、20代前半の奥様(リリア様)、1歳ほどの赤ちゃん(ラスティン様)が一同に会すると、幸福な家族を絵に描いた様でした。
程なく、お屋敷での仕事を始めた私ですが、最初はドジばかりしていました。皿を割ったり、お茶を零したり、洗濯物を落としたり、いい所が有りませんでした。
しかし、公爵家の方々も使用人の同僚達も非常に寛大で、何とか首にはなりませんでした。そんな私が唯一得意としているのが、ラスティン様のお相手でした。
ラスティン様は私を気に入ってくれたらしく、私を見かけるとニコニコと笑ってくださいます。それを見て癒されるのが、私にとっての救いです。(実家にいる生意気な弟と交換したい位です)
ラスティン様はすくすくと成長されて、昨日3歳の誕生日を迎えられました。公爵家としては質素ですが、心の篭ったパーティーが行われました。
しかし不幸は突然訪れるものです、その数日後突然ラスティン様が謎の病気に罹ってしまったのです。公爵家を挙げての治療が行われたのですが、芳しい結果は得られませんでした。
私も懸命に看病をしたのですが、ラスティン様の症状は一向に改善されませんでした。
やがて公爵家にも諦めムードが漂い始めましたが、私は諦めませんでした。自分の睡眠時間を減らしても看病を続けました。
数ヶ月すると、奥様が妊娠されたことが分かりました。口さがない使用人たちは、公爵夫妻はラスティン様を諦め、次の子供を作ったんだと噂をしていました。
ラスティン様は懸命に生きようとしているのにあんまりだと思いましたが、公爵家には跡取りが必要なことも事実です。私は、同僚達が心配するほど看病にのめり込みました。
そして、私の看病のおかげかは分かりませんが、発病から1年でラスティン様の病気は突然完治してしまいました。ラスティン様の病気が治ったことに安心した私は、今までの無理の代償の様に、1月ほど寝込むことになってしましました。
休養から戻ってお屋敷の仕事に戻ると、ラスティン様にふと違和感を感じました。ラスティン様の様子がこれまでと違うのです。これまではお人形の様にただ可愛いだけでしたが、今は容姿は可愛いままなのですが、妙に大人びた態度を取ることがあるのです。
行動にも変化が現れています、毎朝らんにんぐ?と言って、お屋敷の塀の周りを走り回ってみたり、今までは興味が無かった勉強を始めたり、料理人たちに新しい料理やお菓子等を作らせたりときりがありません。
特にらんにんぐとやらには、護衛として気を使います。
町に出るとかであれば屈強な男性の護衛が付くのですが、屋敷の塀の周りを走るとなると、護衛は私の役目になります。私も、毎朝メイド服ではなく動きやすい服装に着替え、見つからないようにラスティン様の後をつけて行ことにしました。
最初の頃は、病後ということもあってそんなに長く走れないご様子でしたが、2ヶ月もするとかなりの距離を走れるようになったようです。お屋敷の外なので、普通の平民達に会うこともあるのですが、ラスティン様は元気に挨拶しています。
平民の人々も、動きやすい服装に着替えているラスティン様が、貴族だとは思わないらしく、気軽に接しているようです。(護衛としてはあまり嬉しく無いことですが)
良く会う農民の老夫婦からは時々朝市にもって行く野菜を分けてもらったりしています。(ラスティン様から野菜を料理に使うように言われた料理人たちは複雑そうな顔をしていました)
料理人たちへの、新しい料理やお菓子の注文に関しては、ラスティン様がこんな料理やお菓子を食べたいと希望を言うと、料理人たちが工夫して言われた通りの料理やお菓子を再現するといった感じです。
料理人たちはラスティン様の注文に創作意欲を掻き立てられるそうで、レーネンベルク家の食事では、様々な変わった料理が食卓に並びます。秘密ですが新しいお菓子の試作品を、試食させてもらえるのは私の密やかな楽しみのひとつになっています。
ラスティン様が5歳になると、メイジの修行が始まりました。まずは杖契約ですが、ラスティン様はたった2日で契約を済ませられてしまいました。
契約した杖を私に見せて
「ニーナ、ニーナ!これが僕の杖”ニルヴァーナ”なんだよ!」
と得意そうにしていらっしゃいます。(杖に名前を付けるなんて、やっぱりラスティン様は可愛い、実家にお持ち帰りしたい)
杖契約が終わると、コモンマジックの修行が始まりました。家庭教師の先生はマクスウェル・ド・ノワールと仰る方で、かなり優秀な教師のようです。たった1日でライトの呪文を使える様にしてしまう位ですから。(私が最初に魔法を使える様になったのは、修行を始めて2週間程でした)
しかし、私はマクスウェル先生をあまり好きではありません、修行がかなり乱暴なのです。ブレイドの修行のでラスティン様の可愛らしい顔にかなり深い傷をつけた時は、奥様と一緒に抗議に行ったほどです。(決してラスティン様の一番のお気に入りの座を奪われることを心配したのではないですよ)
ラスティン様さまは、1つ魔法を覚える度に私の目の前で実演をして下さいます。
「ニーナ、今日はこんな呪文を習ったんだよ!」
と嬉しそうに報告されると、自然に頬が緩んでしまいます。(魔法自体はまだまだ初心者レベルでしたが)
マクスウェル先生による、コモンマジックの修行は1年程で終わりました。(たった1年でコモンマジックを修めてしまうなんて、ラスティン様はなんて優秀なのでしょう)
次はラスティン様は系統魔法の修行に入ったのですが、ここで始めての挫折を味わうことになりました。(お可哀想なラスティン様)
どうやら、土系統に適正が無かったご様子で、少し落ち込んでいらっしゃいました。しばらくすると、実は土系統に適正がないのでは無く、錬金が出来ないだけだと分かりすっかり元気を取り戻されました。
それから数ヶ月して、マクスウェル先生が亡くなられたと知らされました。ラスティン様はかなり落ち込んでしまい、見ている私の胸も締め付けられるようでした。
それでもしばらくするとマクスウェル先生の死を乗り越えられたラスティン様は、何か思う所があったのか、何かの事業を始められました。(6歳で経営に興味を持つなんてさすがはラスティン様です)
なんでも平民メイジを大量に家臣に取り立て、大規模な活動を行うそうです。これに合わせて、魔法学園というものを立ち上げ、平民メイジの育成にも力を入れるそうです。単なるメイジであるメイドの私にはよく分かりませんでしたが。
ラスティン様は屋敷から出かけることが多くなり、魔法の授業が無い日はほとんど屋敷にはいらっしゃらないことが普通になってしまいました。私は寂しさを覚えました、もしかするとラスティン様はもう私だけのラスティン様ではなくなってしまったのかもしれません。
私事になりますが、私には恋人がおります。レーネンベルク家の家臣で数年前に交際を申し込まれました。ラスティン様を懸命に看病する姿に心を打たれたそうです。その恋人が先日正式にプロポーズを申し込んでまいりました。
わたしももう21歳、そろそろ本気で将来のことを考えなくてはなりません。かなり悩みましたが、プロポーズを受けることにしました。
この事をラスティン様にお話すると、
「おめでとうニーナ、そしてこれまでありがとう!」
と笑って祝福して下さいました。(少し寂しそうだったのは、気のせいでは無いと思います)
仕事の引継ぎ等で、簡単にはお屋敷を離れることはできませんでしたが、終に明日長年仕えてきたレーネンベルク公爵家のお屋敷を去ることになりました。
明日からは、メイドではなく妻となる訳ですが、1つ決めていることがあります。
私に子供ができたら、魔法学園に入園させて、レーネンベルク公爵家ひいてはラスティン様のお役に立てるようにしたいということです。
それが私に出来るラスティン様への最後の奉公だと思います。
ラスティン様の健康な成長を、陰ながら何時までもお祈りしております。
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