第121話
「…………」
「…………」
外に出てスマホで連絡する直前、ランジェリーショップから買い物袋を持って出てくる男と、灯は出会ってしまった。
虎居 藍――もとい。赤間 龍一。
全人類男の娘コンテストがあれば最も優勝に近いであろう男と、ばったり会ってしまったのだ。
「赤間君……君、自分で下着仕入れてたの?」
「わりいかこのヤロー」
流石にバツが悪いのか、赤間は百目鬼のことを見ずに言った。赤間と、白とピンクの支配する男子禁制世界・ランジェリーショップの組み合わせは流石としか言いようが無いジャストフィットっぷりで、今の彼は一抹も変態には見えはしない。
だが彼の中に色濃く眠る男の性だけは少し抵抗しているのだろう。それは何となく滑稽で、灯は笑いをこらえることになる。
「いや、何て言うか、悪くは無いんだけど、とんでもない豪胆だよね……しかも一人とかどんな拷問なの? 羞恥心とかないの? 罰ゲームなの?」
「流石にちったあ羞恥心はあるがよォ、やっぱ自分で確かめたいじゃねーか、手に取って。安心しな、テメーが来るまではバリバリの女子力発揮しまくってたからな。クッククク、それこそテメーよりかな」
正体がバレているからだろう、一切の猫かぶり無しで赤間は話す。
しかしそれでもこれはこれで、と思えてしまう辺り、外見とは罪なものだと灯は密かに思う。
「それにしても赤間君、随分羽振りいいね? このランジェリーショップ、高級店じゃない」
「んあ? そりゃそうだろ。最近ちょっと儲けてるんでねェ。あの最終決戦のカメラマンやったからなァ」
「ああ……なるほど。君らしい」
あの最終決戦時。赤間の姿だけはどうしても見つからなかった。
しかし、実際はその隠密性能と隠し撮りのセンスを十全に発揮し、クラスメイトや兼代の姿を撮りまくっていたらしい。
そして赤間はそれを、独自の情報網から、「その人に想いを寄せる人」に写真を売りさばいたのだ。女性陣も参加したのが運のつき。パンチラを激写されまくり、大いに赤間の懐は潤ったらしい。
一部の人にはバレて縛り上げられたらしいが、交渉で分け前を与えるという形で決着はついたらしい。
それというのも、購入者の情報は絶対に漏らさなかったことと、購入者も名乗り出ることをしなかったのが原因だ。結果、事態は収拾しようがなくなってしまい、こんな不本意な決着になってしまったわけである。
「君はホントいつか逮捕されるといいと思う」
「ハッ、その程度のライン引きは出来るっての。俺をなめんじゃねえぞ。お前も買うか?」
赤間は扇状に写真を展開した。その数は実に80を超えるが、そこにある顔に違和感を感じる。
全部同じなのである。
「兼代のならいっぱい余ってるぜ?」
「余ってるの!? それ全部兼代君の!? 哀しいなそれ!」
「一枚も売れなかったぜ。むしろ俺の自撮り写真のが売れたくらいだ。男にだけど」
「自分も売り物にするスタイルすごいね……。しかしなんていうか、哀しいなあ。兼代君頑張ってたのにモテないんだね……」
「正直顔も平均よりちょいマシってなくらい。身だしなみも気遣いが足りねえ、髪型は没個性、アクセサリーも皆無だしトークテクも平均以下、話題も真人間。モテるってこたあねーだろーなアイツ。それに、だ」
赤間はスカートを翻して転身した。
「もうお手付きってこたあ、みんな知ってるだろ。あとはあの弟子が、勇気を出せるかだ」
「なるほどね。略奪愛は流行りじゃないってわけか」
「三角関係のゴタゴタは恋愛の華だっつーのにな。ま、取り合いで「くっつく」ことが目的になっちまうよりはマシっちゃマシだがね」
「流石、弟子と親友の関係は素直に応援するんだね」
「何が流石だ、優等生サマよォ」
じろりと睨む顔すら可愛らしい男に、灯は苦笑する。
「俺ァ面白ェと感じたことに肩入れする。いつもいつでも、そんだけだ」
挨拶もせず、ランジェリーショップの袋を堂々とぶら下げて赤間は去っていく。
つまり彼にとって、あの二人が不幸になることは面白くないということだ。雄弁な回答をありがとう、赤間君。百目鬼は小さく笑いつつ、スマホの操作を始める。
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