第26話

「か……兼代!?」

「お……おおおおおおおおおお尾緒於小呉悪嗚汚麻汚汚汚汚汚汚汚汚汚!!!?」


 想像以上の一撃だった。

 俺のポイントを正確には突いていないためか、そのダメージは昨日と今日のほどではない。しかし今の俺を跪かせるには十分すぎた。


「な……! か、庇うだと!? 死ぬ気か貴様!?」

「兼代……! 何で出てきたんだ? おめえに助けられる筋合いなんか……!」


 綾鷹もジョグも、共に驚きを隠せない様子だ。

 だが――それこそ何で? と俺は言いたい。


「兼代君、無事ですか? ああ、有事ですねそうですね」


 そして、最高のタイミングでこの単調な声だ――まったく、ついてる。


「陸前! お前こそ無事だったか!」

「貴方はどうなんですか。また抑えてあげますからさっさと」

「いや!」


 俺はジョグの右腕を全身で包むようにして抑えつけた。

 とりあえずこれだけでも、止める。

 綾鷹へのユハフトゥ・リジェクトだけでも!


「お前は、綾鷹を護衛して……トイレに行かせてくれ! 頼む!」

「え? 綾鷹君ですか?」

「兼代!? お前何を考えて……!」

「考えてたら、お前なんか助けてねえよ!」


 そう。考えてたら。俺が思考ばかりで合理性に欠ける人間だったら、俺は絶対にこんな選択などしない。

 陸前はさっさとヒトガタを「カイーナ」で駆逐していたが、俺には見る余裕なんか無い。ただひたすら、ジョグの腕を、そして俺の体の排出口の一つを抑えるしか出来やしない。

 全身が熱く、寒い。

 筋肉を繊細に総動員して、ようやく全てを抑えることが出来る。

 頭なんか、回す余裕は無い。


「俺だって何となく察せる! お前、俺に下剤仕込んだろ!? 何が目的か知らねえし! 本当に最悪なことしでかしやがったよ!」


 でもな。

 でもなあ。

 それでもなあああ!?


「そんな奴でも! どんなド悪党だろうと、親の仇だろうと、悪魔だろうと赤間だろうと何だろうと! 穏やかにトイレに行く権利くらい、誰にでもあるだろ!? そんなの当たり前のことなんだからよお! 俺はそれが目の前で奪われることが、何よりも許せねえんだよ!」

「……!」

「兼代君……」

「さっさと、トイレ行ってすっきりして来い! 全てはそれからだろうが! それから存分に……言い訳は聞いてやるからよおおおおおお!」





――己の総てを奪われかけて。


――己の総てを取りこぼしかけて。


「見事! 見事なる気迫! ならば望み通り、少年……いや、兼代よおおおおおおおおお!」


――其の痛みを知り尽くし。行き着く地獄が総てを知り尽くし。


――今、其の地獄の門に半歩をかけ。何の望みも無く。手だても無く。


「その望み、叶えてくれる! まさか二発も耐えるとは……ならば三発! 四発! グウハハハハ、大層な名誉よ!」

「綾鷹―――――――! 早く、早く行けええ! 陸前、引っ張ってでも行かせろーーーーー!」


――それでも。そうだろうとも。誰かの純潔をなお守らんとする。


――そして。

]

「あえて、終わりとは言わぬ! 次だ、兼代! ユハフトゥ・リジェクトオオオオオオ!」


――其れでも尚。


――諦めを拒絶し。


――抗う力を求めるのなら――





 半物質特性・神滅素・限定全解放。縮小機構、限定全解除。

 外部時空特性、自動適合。使用者・承認者・確認完了。

 承認術式階級・「壱」。限定付与。

 一等級第三号刀剣系神器「天照之黒影」。

 「覚醒」。

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