第27話
兼代を中心に発生した「爆発」は、攻撃動作に入っていたジョグを退けた。
「ぬうう!?」
「うわあ!?」
兼代もまた、その爆発に驚いた。光そのものの爆発とでも言うべきそれは、完全に意識の外の現象だったためである。
砂塵も光も消え失せて、クリアになるそれぞれの視界。
その時、誰もがその変化に驚愕する。
「こ……これは!?」
最初に声を上げたのは、ジョグ・インフェルノマーダー。
「……何だアレ……?」
呻くように口にするのは綾鷹 秀吾。
「黒い……剣……アレこそが……」
驚きは隠せず、しかし表情は一切変えない陸前 春冬。
三人の注目を浴びながら、兼代は目の前の「モノ」を導かれるように手にした。
「……」
柄は、兼代の手に吸い付くように収まった。
刀身は世界の穴の様な闇の色で、鍔の部分に施された金色の装飾がよく映える。
刃渡りは1メートルを超える。しかしその重々しい見た目と裏腹に、重みは皆無と言ってもよく、兼代の腹の負担にはならない。
兼代はやがて、驚きを呑み込み、腑に落とす。
「ようやく……かよ」
兼代の頭には、剣を通じて「情報」が入って来る――これも、「真の覚醒」の効果か、と兼代は解釈をした。
戦い方、剣の握り方、重量を感じない故に出来る戦闘技術。
そして、付加されている「術式」の特性とその使い方。
それらを受け入れた兼代は、ジョグに向き直る。
手に入れた新しい力。
自らもぎ取った使用権の行使。
己が掴んだという確信は、少年の眼差しに力を与える。
「ジョグ。色々と言いたいことはあるんだけどな……何よりも俺には、時間がねえ」
兼代の感動を呑み込むのは、同時に迫る危機感。
それを隠し通すのは、慣れている。素知らぬ顔をして頭の中は大暴走中、というのはいつものことだ。
「トイレまで、まかり通らせてもらうぜ……。お前を倒してな!」
真の覚醒を果たした天照之黒影。
その切っ先は、地獄よりの暴虐に向けられた。
「グウハハハハハ、神器の覚醒か! そうだ、そうでなくては面白くない!」
ジョグの馬鹿笑いは廊下によく響いた。
「よかろう! ならば……一切の遠慮はせぬ!」
ここに来てようやくジョグは俺を、捕食対象ではなく敵と認めたのだろう。重量感のある踏み込みの動作――本来は必要ないだろうが――を伴い、俺に向かってくる。
それはまるで破城槌のような突進だ。まともにぶち当たれば、俺の命は――いや、学生生活は終わってしまうだろう。
「ユハフトゥ・リジェクト!」
そしてその体重を全て乗せた一撃が繰り出される。
俺は、それに対し――
「はああああ!」
刃で受けた。
圧倒的な敵の攻撃の重量感に、体が後退する。
刃が食い込んだ拳に押され、腰に力が入る。
しかし。
「うおおおお!」
体を捻って――攻撃を流し切った。
攻撃の後に残ったのは、隙だらけの体たらく。ジョグの、斬り放題の体だけだ。
刃を返して俺は、
「はあ!」
ジョグの体を斬り付け、
「ぐうう!」
すぐに返し、
「ぐうおおおお!?」
返し、
「ぐあああああ!」
貫いた。
ジョグもこれはたまらん、と言わんばかりに再度後退する。怒りと驚きに満ちた顔が、俺を凝視していた。
「し……信じられん! まさかアポカリプス進度が90を超えて、攻撃動作を行える人間がいるとは……!?」
「嬉しくねえ称賛ありがとうよ……!」
傍目から見れば、俺が押しているように見えているのだろう。しかし実際は、俺の方が既に深刻なダメージを負っている状態だ。
だが――俺は、諦めはしない。諦めたくはない。
ジョグ・インフェルノマーダー。こいつを絶対に、ここで仕留める。
そう心で唱えると、足先から湧き上がる寒気も一気に吹き飛ぶようだ。いや。実際は全然そうではないのだが。
水が落ちるのを止められないように、これもまたそういうもの。生理現象として、不可避である。
だから、速攻で決着を着ける――
「ユハフトゥ・リジェクトオオオオオオオオ!」
――否!
「ぐう!」
急速な攻撃をなんとかいなすが――
次の左拳が俺を捉えんとする。
「ユハフ!」
「ぐあ!」
かわすたびに走る衝撃に腹が揺れる。
腹が、世界が揺れる。
その間隙を突くように、ジョグの眼が閃く。
「トゥウウウウウウウウウウウウウウウ!」
「くう!」
二発目――右腕。
体を捻って躱せたのは奇跡だ。
しかし相手は既に左拳を握っている。
「リジェクトオオオオオオオオオオオオオオ!」
三発目の一撃は――俺の剣を直撃。
主霊解放による凄まじい衝撃が伝わり、思わず飛びのいてしまった。
そして着地すると共に、走るのは衝撃のタイダル・ウェイブ。
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