第18話
そして登校した俺は、色んな意味で納得することになる。
みんなが何で、この俺を守ると言いだしたのかを。
「ヒャッハアアアアーーーーーーーーーーー! 祭りだ祭りだああああああ! 何匹来ようと一緒だぜあのマックロ野郎共!」
「ヒハハハハハハハーーーー! この俺が極めし古武術、今ここに華が咲くぜ! あいつらが何匹来ようと負ける気はしねえよ!」
「フッ、騒がしい奴らだぜ……。戦ってのはクールにやるもんだろ」
「私の骨法、見せちゃったら……ふふ、もうお嫁には行けないかもね」
妙に暑苦しい教室に入ると、既に血の気が抑えられない者達が猛っていた。
全員が全員、目の色が違う。完全に臨戦態勢に入っていて、とてもじゃないが気軽に話しかけられる状態じゃない。
はっきり言ってしまえば、ここはそう。闘犬の小屋だ。
「あ、やっと来たのですね兼代君。ちょっと外行きましょう、ここは五月蠅いので」
恐らくはこのクラスで一番熱量が低いであろう、陸前がドアの前で固まる俺のところにやってきた。
「なあ、何なんだコレ。朝からこんなんなの? こんな世紀末な教室だったのココ?」
「そうみたいですね。昨日のインフェルニティマーダー達の対応で傷つけられないって分かったみたいですから、この機に乗ってヒーロー願望に火が点いちゃったみたいです。兼代君を守るという大義名分ありますから学校も黙認状態ですし。おかげで、朝っぱらから腐敗と自由と暴力の真っただ中ですよ」
何と言う現金なタフボーイ達。人のサガは闘争を求める、というわけか。何か「エイエイオーーー」やってるし、士気は非常に高いようだ。相手が相手なら頼もしいことこの上ない人々である。
そんな彼らにとっての庇護対象が教室に現れたのに気が付かないことは、この際突っ込まないようにしよう。
「で。それはさておき、なんですけど」
「ああ」
「…………」
「何だよ?」
「その。えと。あの。えーっと、ですね。うん、ええ」
無表情なのに汗をかいている。
ああ、これは。なるほど。そういうことか。
「覚醒なら、出来なかったぞ」
「!」
無表情なら無表情なりに表情があるということを俺は教えられた。
「まだ覚悟も決まってないのにいきなりそんなバッドニュースを叩きつけないで下さい。死ぬかと思ったじゃないですか」
「そんな重度のメンタルダメージ負ってたのかよ!?」
「ノミの心臓舐めないで下さいよ。はあ、しかし困りましたね。貴方が覚醒すること前提だったんですけど、まさか覚醒させることが出来なかったとはかなり予想外です」
チキンなことを威張られた後に罵られる。中々にポイント高い行為をするなあこいつも。
「っつーか時間無さすぎるんだよ。覚醒なんて、数日かけてやるんじゃねえのか?」
「そこは貴方の主人公力が足りないのでは? ほら、あるじゃないですか。本当の使用者が死んでしまって、天才の主人公がそれを代わりに使いこなすみたいな展開。貴方はその本当の使用者枠なのではないですかね」
「人のことを見込んでからそれってひでえなお前。そして殺すな」
「手首のユルさは言われたくないです」
ぐうの音も出ない言葉だ。
「でもよ。お前、元々俺にコレを渡す気だったんだよな?」
「はい。だからこそ、こないだから着々と接触を繰り返して……」
「最初の日に渡してりゃ、こんな急ぐことなかったんじゃねえか?」
「……」
カタカタカタカタ。
カタカタカタカタカタカタカタ。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ。
床に穴を空けそうな尋常じゃない震え方とともに、陸前の感情レスな瞳に涙が浮かんだ。
「し、ししし、仕方ないじゃないですか。覚悟完了にかかる苦労も知らないで、この野郎。黙って聞いてりゃ勝手なこと言いやがりますねまったく」
「り、陸前!? す、すまん、その、すまん! まさかそこまでなるとは! 気にしてたんだな、うん! えらいえらい!」
「ロシアのだいちをあなたのちでそめてあげましょうか?」
「待ち軍人で帰国させるぞ」
そもそも細っちょろくて戦闘に向いてない体格してるくせに。
「にしても、陸前はどうやって覚醒させたんだよ神器を。血統ってやつなのか、やっぱり」
「私の場合は持っただけで勝手に覚醒しましたよ。何せ初代封者の家系ですからね、血統の力って奴です」
「ずるい。血統ずるい」
血統
「一滴の血も混ざっていないであろう人が覚醒させる方法はよく分かってないんですよね。共通点だけは昨日話した通りなんですが、その他に何か必要なのかも知れないです」
その他、か。やれやれ、凡人とは辛い者だ。俺の才能なんか、お腹が弱いことしかないのに。
「でもですね。『真の覚醒』に至るには、正規の手続きを踏まないといけないらしいんですよ」
と、陸前は自分の神器をいじりながら言った。
「真の覚醒? そもそも普通の覚醒すら出来ない俺なのに、そんなの期待しているのか?」
「はい。貴方が覚醒すればもうそれって真の覚醒ですからね。親のコネで社長になったのが私、実力で社長になるのが貴方です。社員からすればどっちの方に力を貸してあげたいかってことですよ」
「生々しいけど分かりやすいな」
「実際、私のコキュウトスは使えはしますが弱くて、主霊格を倒すなんてとても無理です」
「そうなのか? あのジュデッカってやつ、凄かったけど」
「アレ、この神器の最強の形態ですからね。アレで全然効かなかったので、もう無理だって分かりました。私に出来るのは雑魚掃除です」
初戦の初手にジョーカー切ったのか、この人。ある意味凄い胆力だ。
「だからこそ、貴方が覚醒しなきゃインフェルニティマーダーを撃破するなんて到底不可能なんですよ? それなのに覚醒していないだなんて、意識が低いとしか言いようが無いですね。このままでは死屍累々を下着に築いてしまうのが目に見えてます」
「マジでどうするか分かんねんだぞコレ。一緒にトイレ入ったりしたけど無駄だったし」
「ちょっと待って下さい何ですかその情報」
「気のせいだ、何もしてない」
「そりゃそうですよね、びっくりしました」
神器に手をかけたのでなるだけ自然に訂正した。文句は言いたくなるが、借り物と一緒にトイレ入るのも酷さのレベルで言えばなかなかだ。
だが、早くも手詰まりになってしまった。最悪、陸前に戦ってもらおうだなんてことも考えたが、昨日の様子と本人談を聞く限り、それも出来ない。そして神器は覚醒など一向にすることはなく、ただの借り物の髪飾りになってしまっている。
あの眩い輝きをもう一度見せてくれ。心で語り掛けるが、反応は無いのが当然だ。
唯一の望みと言えば、クラスメイト達の狂気を孕んだ奮闘に期待するしか――
「……おい」
「ん?」
隣では、世紀末の住人と化したクラスメイト達のバカ騒ぎ。
その中でも、その声は低く這いずるように俺の耳に届いた。
一瞬、昨日ぞんざいな扱いをした赤間かと思って振り向いたが――それは、当てが外れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます