平凡な彼女の異常なまでの普通

かやねろ

何気ない一日

 ある日、私の教室で盗難事件が起きた。

 事件と言ってもそこまで大きいものじゃない、一人の女子生徒が『新しいノートを同じクラスの男子生徒に取られた』と先生に泣きついたのだ。

 それを聞いた先生は帰りのショートホームルームで彼を立たせ、なぜそのようなことをしたのか彼に問い詰めた。

 でも、私は知っている。彼女が取られたと言っていたノートは彼女の物じゃない、ノートは彼が今日、自分で持ってきた物だ。

 現に、彼が自分のバックからノートを取り出すのをたまたま私は見ていた。

 彼は先生に『自分はそんな事してない、むしろ彼女が俺のノートを盗んだんだ!』と言い放った。

 その言葉を聞いて彼女に教室全員の視線が集まり、先生は彼女に問いた、『お前、もしかして嘘ついたのか』と。

 幾何いくばくの沈黙の後、彼女は泣きながら『私じゃない、私は悪くない』と否定した。

 泣きだした彼女を見た先生は悩んだ結果、彼に謝罪するように告げた。

 その言葉を聞いた瞬間、彼の表情は一瞬にして絶望に変わり、驚きで言葉も出てこない様子だった。

 そして、またクラスに沈黙が訪れる。

 数分経ったぐらいだろうか、どこからか『さっさと謝っちまえよ』そんなヤジが聞こえてきた。

 声の主は、事件に全く興味が無く、ただ早く帰りたい男子生徒だった。

 周囲の人たちも早く帰りたい、そんな雰囲気を漂わせていた。

 先生もそんなクラスの雰囲気に気付いたのか彼に催促し始めた。

『やってしまったことは仕方がない、まずは謝ろう、な?』

 何も知らない先生は彼に優しい言葉を投げかける。でも、彼は口を紡いだまま何も言おうとはしない。

 なぜ誰も彼を擁護しようとしないのか、だぶん、ノートを彼が自分のバックから取り出すのを見ていたのは私だけじゃない。きっと、ほかの人達も見ていたはずだ。

 でも、誰一人も彼を助けようとはしない。

 だって、関わりたくないから、それがだから。なら、私もいつも通りに見ていよう、いつも通り傍観者であろう。

 クラスに彼女のすすり泣く音だけが響く。

 クラス全員の視線が彼に向いている。そして彼は重い口を開き……。

 謝ったのだ。

 彼女、いや、ノートを盗んだ張本人に。

 結局、ノートは彼が盗んだことになって事件は解決され、ショートホームルームは終了し、放課後になった。

 私は帰り支度を済ませ、そそくさと家に帰った。


「あいつ最低だよね、人の物を自分のだって言い張るなんてどう思う?」

 帰り道、友達が先ほどの事について聞いてきた。

 私は真実を知っている。

 彼は本当は悪くない、悪いのは彼女だ。だから返す言葉は決まっている。

「――本当最低だと思う。”彼”」

 今になって真実を友達に伝えるのはじゃない。だって、知ってるならあの場で言うのだから……。


 その日を境に、彼は学校に来なくなった。

 周りのみんなは喜びもせず悲しみもしなかった、ノートを盗んだ張本人の彼女でさえ、に生活していた。

 クラスの全員、彼がいなくなったのを気にしてないのかもしれない。

 あの時の彼はどんな気持ちだったのだろうか。やっても無い罪をきせられ、ノートを盗んだ張本人に謝り、クラスのみんなからは蔑みの目でみつめられる。

 でも、悪いのは私じゃない、悪いのはノートを盗んだ女子生徒であって、私はただ見てただけ。

 だから私は何も悪くない。

 今日もみんなと同じように今まで通りのの生活を続けよう。

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