第18話『なつメル』

18時になり、酒場が開店。

実は冒険者さんが依頼を見に来る事もしばしばあるみたいだけど、ここの酒場は遅くから開店するから、あまり見に来る人はいなかったそう。

それでお昼からカフェも始めて、集客するついでに、今まであまり受け付けていなかった依頼をたくさん引き受けているから、明日からますます大変になると言っていた。

だが、今一番大変なのは私たちである。なぜなら、お兄ちゃんもカグラさんもマミさんも二階にいて、私たちはこのメイド服のままでアルバイトをしなきゃいけないから。こんな格好、田舎者の私は秋葉原とかでしか見た事なかったから、自分が着るとは思わなかったのに、まさか異世界に来て着させられるとは・・・でも生活費や装備費などを稼ぐには仕方がない!お兄ちゃんは一応依頼とかで稼いでくれるだろうし、私だって頑張らなきゃ!


酒場の扉を開ける音がした。男性三名女性一人のパーティが来店した。そうだ、秋葉原のメイドみたいに、なりきらなきゃ!


「お、おかえりなさいませ!ご、ご主人様!」


恥じらいを一切捨て、言ったつもりだったのだけど、やっぱり恥ずかしい・・・!


・・・あれ?反応がない。

目を開けて周りを見ると、みんなキョトンとしていた。まさか、こんな事言わなくてよかったとか・・・そ、そんな事ないよね。ほら、メルちゃんだって・・・


「なつめ、どうしたんですか?」

まるで病人を見るように心配そうな目で私を見ている。それにイヤに敬語で。

私がおかしかったのかな。自身の感覚ではメイド服を着たら、このフレーズはテンプレみたいなものだと思っていたのだけれど、この世界では違うのだろうか。


「あ、はい」

パーティの最前にいた男性が少々引き気味に話を切った。その流れのままテーブルに向かい席に座った。そしてオーダーをするためにメニュー表をみんなで見ている。


人生初の大健闘が人生初の大失敗に終わるなんて、恥ずかしいとかそういうレベルじゃない。もう人生詰んだ。

またお客さんが入って来た。もう恥ずかしくて言えない。それに、言ったらますます周りに変に思われる。


「おかえりなさいませ!ご主人様!」


隣にいたメルちゃんが、大きい声で言ってくれた。私をフォローするように。

そして、顔を赤くしながらも私に小さくグッドサインを送ってくれた。なんて優しい子なんだろう。

83歳なのに。

もちろんお客さんは驚きを隠せない様子だ。私たちをチラチラ見ながら奥の席に座ってしまった。


 今までの一部始終を見て来たガイルさんが、カウンター越しに私たちの肩をツンツンとし、少し苦笑いしながら「ここではそういうのはいらない」と声をかけて来た。

体がとっても熱い。秋葉原のメイドさんはよくこんな事を普通にできるなって感心した。私たちは顔を下に向けていたが、メルちゃんは下を向きながら私の方を見て、天使の微笑みを見せてくれた。


それから、お客さんが増えてきて、料理を運んだり飲み物を運んだりした。この格好で動き回るのは恥ずかしかったけど、お客さんには好評みたいで、女性も男性も関係なくみんな可愛いと言ってくれていた。そして1時頃にお客さんは全員帰っていった。

さっきまで騒がしかった酒場は一気に静けさが増す。私たちは疲れてその場に座り込んだ。

ガイルさんはテーブルに置きっぱなしになっている皿やジョッキなどを片付けている。私たちも手伝わなきゃ。

メルちゃんと立ち上がり、テーブルの皿やジョッキなどを持ち、キッチンに向かった。でも一人で大量の客に対して料理作ったりできるものなのかな?

私たちが料理を運んでいる時は、料理を持ってくるだけであとはほとんどキッチンから顔を出さなかったけど・・・

全て運び終わり、次は洗わなければならない。


「あとは俺が全てやるから風呂に入って寝ていいぞ。それと、明日はカフェで出すものを考える」


ガイルさんが私たちを呼び止めた。

この量を全部一人で!?無理に決まってる!


「いやいや、この量を洗うのは一人じゃ無理ですよ!」

昨日はこの量よりも少ない量を三人で洗っていたが、それでも2時間くらいかかった。

一人でやるとなると、6時間くらいかかってしまうだろう。


「大丈夫だ。一瞬で終わる」

「え?」


ガイルさんが食器に手を当てると、水を使ってもいないし、洗剤などを使っているわけでもないのにどんどん綺麗になっていく。


「俺のタレント能力は【クリーンアップ】っていうんだ。触れたもの何もかもを綺麗にできる」


 だから今日の朝掃除して来るの早かったんだ。確かにこれなら掃除の手間がだいぶ省けるし、毎日新品の様に綺麗できる理由にも納得がいく。掃除が好きな人とかが羨みそうなタレント能力だ。

でも一つ疑問が残る。料理に関してこのタレント能力は全く関係ないはず。どうやって作ったのであろうか。


「あの、羨ましいのは羨ましいんですけど、この料理の量をどうやって一人で?」

「スキルを使った。料理やその他の家事などを素早く行える【万能家事】ってスキルだ」


タレント能力に徹してスキルを覚えるとは言え、ここまで来たらもう勇者って何なんだろうって思ってしまう。もはや家事代行の方面目指した方が良いと思う。


掃除はガイルさんのタレント能力で数分で全て終わった。私たちは風呂に入り2時頃に寝る事ができ、

そして、二日目が終わり、あっという間に次の日になった。

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