第4話 『パンと魔法使い!』

いやー、この町は相当広い。

こんな広い町でで宿が探せるのだろうか?


・・・ちょっと心配になってきたぞ。

人に聞くにしてもあんまり話したくないからなあ。

こんな時にでも、なつめか、もしくはあのくそウサギでもいれば何とかなったかもしれないんだが・・・



そういえば、俺らがこの世界にいる間、現実の世界ではどうなってるのだろうか。

もし時間が進んでいたら母さん俺たちがいないことに驚いてショックで死んでしまうんじゃないか・・・?


まあそれより、宿なんだけど・・・

ゲームなら、ベッドのマークとINNという言葉が書いてある看板があると思ったんだが・・・


それらしいものはないな。武器屋と防具屋とか、飲食店らしい所は見つけたんだけど。


・・・そういや、お昼を食べてなかった。


なつめから1500ギフを渡されたから、少し使って食べるとするか・・・


 歩き回っていると、ある一件の店がある。

その店は、とても綺麗な外装で、何ともこの町でもお高くとまっていそうな店だった。


 店の周りには綺麗な花が鉢に植えられていて、グリーンカーテンや、綺麗な木製のドアなど、お洒落さと環境配備は一級品だった。


「おっ、ここはなかなかおしゃれんてぃな店だ。でも高そうだな・・・」


メニュー表が貼ってある看板が店の前にある。


「えー・・・きゅーぽい・・・のビーフ・・・?3700ギフ・・・だと!?」


 いや、高すぎかよ!

くそぅ、もっと安い所はないのか・・・


 っと、お?あそこはパン屋か?

綺麗な店の反対に小さなパン屋が見えた。

パンって結構高いのもあれば逆に安いのもあるよな・・・

一回試しに行ってみるか。


タラララーン♪

綺麗な音が鳴る。占い師の館のドアについている木琴の飾りと同じ様なものだが、音は違うみたいだ。


 見た目通り、結構小さな店だった。

 パンの香りが店に入った瞬間鼻に透き通っていく。

棚の上には、たくさんの食パンが入っているカゴや、種類別にわけられているパンカゴなど、様々なものがたくさん置いてあった。

 明かりはついておらず、少し質素な感じではあったが、俺はこの雰囲気は好きだ。


「あのー、失礼かもですけど、安いパンありませんか?お金あんまり持ってなくて・・・」


と、聞いてみると、奥からチェック柄のエプロンをつけた、鮮やかな青髪の男性の店員が出てきて、


「んー、これなんていかがです?一個100ギフのマロンクリームパンです。」

と、男性店員はマロンクリームパンと書いてあるカゴを差し出す。


おおぉぉ!俺の好きなマロンクリームが入ってるパンとか!?めっちゃ美味しそうじゃん!


「じゃ、じゃあ、それ2つお願いします!」

即決である。


「あ、はい。では200ギフ頂きますね。」

爽やかな笑顔で応えてくれた。


そして、さっと、200ギフを渡し、その店を出て行った。


さて!食べてみよう!

立って食べるのはあまり行儀がよろしくないから、あのベンチに座って食べよう。

と思い座ったのは、中央に木があり、その周りに丸いベンチがある広場。結構な人通りはあるが気にしなければ問題はない。


もぐもぐもぐもぐ・・・


!!!!


これは美味い!こんなものが一つ100ギフで食べれるなんて・・・最高じゃないか!


 ただ・・・なんか視線を感じるな・・・

誰だろう・・・?

キョロキョロとしてみるが、視線の主らしいものはどこにもいない。


 その視線を感じつつ、二つ目のマロンクリームパンを食べる。

と、食べ終わると視線を感じなくなった。

一体何だったのだろうか?


といっても、宿屋も何もねぇぞこの町。

どうしろってんだ?


・・・待てよ、この大陸のシステムは確か

『自立共存』・・・


自立しろってことか?だったら共存って何なんだ?


だとしても、自立するってことは皆一人一人自分の家を持っている・・・

だからこそ自分も家を持たなければ寝床を得られない・・・ってことか。


・・・てかこの大陸にある町全部こんな広さだったらかなわないぞ!

この大陸にまたはいくつあるかは分からんがな。

 一体何年前からこの町はあったんだ・・・


 食べ終わった後、また街を歩き回る。

どうせ外には必要な時以外出ないだろうし、今武器や防具を買う必要性はゼロに等しいだろう。


それに結構高いし・・・


すると・・・


「やめてちょうだい!こっちにこないで!」

遠くから女性の声が聞こえた。

周りな人もざわざわとしている。


今のは女の悲鳴!?どこだ!?どこで発したんだ!?


 くそっ・・・町が広すぎて探しづらい・・・

元いた広場から声がする西の道に行き、途中の細い路地裏を回って行く。


おっと、あそこか!


俺は走った。4年間くらい運動などせずにベッドの上でぐーたらしたりしてたからか、息切れも早ければ、足の疲れも早かった。


「大丈夫ですか!?」

掠かすれていたが、大きい声で叫ぶ。


あれ?

大きい広場に出たのはいいが、よく見ると、声の主はおばさんだったらしく、その周りにはガラの悪そうな中年男性が6〜7人ほどいた。


中年酔っ払いに絡まれただけのおばさんじゃないか!!!

なんで俺は来てしまったんだ・・・


酔っ払いは俺の方に気づき、睨みつける。


 まずい、非常にまずい。

しかも、タチの悪いやつらに絡まれてしまった。


・・・絡んだの俺からだけど・・・


「おぉーい、おめぇさぁん。俺たちに喧嘩売ろうってんのかい?いい度胸じゃねぇか。みんな、やっちまえ!」

リーダーらしい、赤い服を着た酔っ払いが俺の方に向かってきた。


「うぃぃぃぃぃ~」

酔っ払い全員が掛け声に反応し、

リーダーらしき酔っ払いに率いられ、全員がこちらにふらふらと向かってくる。


これはやばい!でも逃げたらおばさんが・・・くそっ!武器もないから殴りに行くしか・・・!


「やめてさしあげなさい!」

後ろの方から知らない女性の声が聞こえた。


「あぁん?誰だてめぇは・・・その声は・・・女か?」

「罪なき人を襲いかかって何が楽しいのです?この酔っ払いおじさんたち!」


と、声の主は、酔っ払いたちに指をさす。

身長が俺と同じ170cmくらいで、ブーツを履き、茶色いローブで、茶色いフードを被っていたので、顔は見ることが出来なかった。


「よっぱらぃおじさんだとぉ!?その通りだぁ!ていうかよぉ?喧嘩売ってきたのこいつなんだぞぉ?」

酔っ払い口調で酒瓶片手に話をする。

といってもその通りだとは素直なやつだ。


「・・・確かに。」

フードを被った女性は手をおろす。


    ちょ。おい。納得するなよ。


「だがしかし!襲い掛かろうとしてる事は事実です!さぁ、神に従いあなたたちを成敗いたします!」

神に従いとは、もしかして宗教の人とかなのか?


「ふへへ、喧嘩を売った上に火に油を注ぐとは・・・なかなか面白れぇじゃねぇか。

よぉーし!野郎どもやっちまうぞ!」

「うぃぃぃぃぃ~」

一回立ち止まったが、またふらふらとこちらに向かってくる。


「そこのお兄さん。私より後ろに下がっていただけますか?」

と、フードを被った女性はニコッと笑い、指示を出す。


 え・・・一体何を?


 するとそのフードを被った女性は、何かぶつぶつと言い始める。まるで魔法の詠唱みたいだ。


 もしかして魔法使いか!?

 だとしたら、すごい魔法を使って一掃とか⁉


 か、かっこよすぎるっ!


「強化完了です!いきますよー!」

フードを被った女性は、背負ってる変な形をした袋を持ち、


『『 フルパワースイング!!!』』

と、フードを被った女性は大きい声で言った。



 そのフードを被った女性は、変な形をした袋を酔っ払い集団に向かって、野球のバッドようにスイングすると、地面に物凄い衝撃が走った。と同時に、物凄い風が起き、酔っ払い達を遠くに吹き飛ばした。


ん・・・?物理攻撃・・・?


 というか、おばさんはこの強風の中でも不動!?

強すぎるっ!!

いや・・・?違う・・・あそこだけ風が避けてるみたいだ・・・

 まさか酔っ払いだけに風がいくように調整を・・・?

一体何なんだ。こいつは・・・


 「ふぅ、さて?これでもまだやる気です?もしくは酔いが覚めて、少しはやる気無くなりました?」

変な形をした袋をまた背負って、大声で酔っ払い達に話しかける。


「ば、ばけもんだぁぁぁ!にげろぉぉぉ!」

赤い服を着た酔っ払いのリーダーが仲間に呼びかける。


「うぃぃぃぃぃ~!(泣)」

と泣いて言って、酔っ払い達はみんないなくなった。


 「あ、あのー・・・」

恐る恐る話をかけてみる


「・・・あなた・・・」

フードを被った女性が俺の方に近づいてくる。

 な、なんだ?まさか俺にもやるつもりか!?


「さっき、あのパン屋のパン美味しそうに食べてましたよね?」

 まさか、食べていた時の視線って・・・この女性の!?


「・・・かった・・・」

なんと言っているのか、聞き取りづらかった。


「へ?」


「私も食べたかったあのパン!ねぇ、私にも買って!!!

ねぇ、買ってよ!助けてあげたでしょ⁉あなたがベンチにいた時私はずっと見てました!

あなたが美味しそうにパンを食べるところを・・・

だからキラキラな視線を送っていたというのにあなたは2個目を口にしてしまった・・・

これは罪です罪!神に従い、罰として私にあのパンを買いなさーい!!!」

よく分からないが、少々怒っているのか、俺に向かって大声で話す。


 な、なんだこいつ!?罪だ罪って・・・

 てかお金持ってないのかよ!?一個100ギフだぞあれ!


いや、待てよ。というかもしかして、これが目的で俺を助けたのでは・・・?


・・・・・・・なるほど。


「はぁ・・・わかったよ・・・」

「やった・・・!」

フードを被った女性は嬉しそうにはしゃぐ。

一個100ギフのパンを食べたいが為に俺を助けて、しかもおばさんまで助け出すとは・・・


「じゃあ早速参りましょうか!」

と、俺の服を掴み無理やり連れて行こうとした。

「あ、ちょっと待ってくれ。あそこで固まってるおばさん起こしに行かないと。」

先に来たのは俺なんだし、おばさんのところ一応行かないとな。


「わかりました。いつまでも、待っていますよ。」

女性はフードの下でニコニコ笑っている。


 なんか怖いわ。

といっても、だいぶ変な奴に絡まれたな・・・面倒くさそうだし、パン買ってあげたら早めにおさらばする事にしよう。


「あのー、おばさん?」

と、声をかけると、おばさんはキョトンとした様子で、何とか返事をしてくれた。


「あの子、あんたのお連れさんかい・・・?」

おばさんは依然キョトンとした様子で目を丸くしている。

「いやぁ、あの人は・・・」

「あんた。すごい人見つけたね。これをもってお行き。」

と、懐ふところから差し出してくれたのは、見た事があるような3枚の銅貨。


 えぇ!?3000ギフ!?こんなにもらっちゃっていいのか!?もしかしてこれは依頼的なものなのか!?


「あの子は私を気遣ってくれた。そのお礼だよ。」

優しい口調で語り、微笑む。


 あぁ、そうだ。そういえばおばさんだけに風がいってなかった。おばさんの体を気遣ったのか?

なんともめちゃくちゃな理由な気がするんだが・・・


「さぁお行き。あの子の為に使ってあげなさい。」

俺の右手を掴み、銅貨三枚を握らせた。


「・・・ありがとうございます!」

(俺の仲間ではないけど!)


 「さて行きましょう!早く早く!」

奥からフードを被った女性が来て、そう言ってフードを被った女性は、俺の服パジャマを手で引っ張る。

といっても、すごい力だ。俺がズルズルと引っ張られてる。


背は同じくらいだし、大人ぶってる感じはするけど、割と声は可愛い。

なんかまだ子どもみたいな感じがする。

 なつめも小さい頃はこのくらい可愛かったのになぁ・・・今はちょっと怖いからな・・・


俺を引っ張り、今まで来た道を戻り、あの丸いベンチがある広場に戻る。


「おっと、待ってください。この店は・・・?」


フードを被った女性が立ち止まり、見つけたのは、あのお洒落な店だった。

「おい、ここ高いんだが・・・」

フードを被った女性はメニュー表を見る。


「キューポイのビーフ!!!私これ大好きなんです!食べたいです!その後にパンを食べたいです!」

おそらくフードの中では目を輝かせている事だろう。


 はあ。わがままかよ。


まあ助けてもらったお礼にもらったお金と俺の持ち金合わせて4300ギフだから、まあいいか・・・仕方ないよな・・・


「わかった。」

「ふふっ、ありがとうございますね。」

フードの中で女性が微笑む。


 「そうだ、さっきからずっと思ってたんだけど、そのフードとってくれないか?

話しづらいし、周りの人の目が気になるから・・・」

歩いている時、この女性は気づかなかっただろうが、俺は周りの視線が気になっていた。


「いいでしょう!」

元気よく、パッとフードとローブをとると、顔立ちはなつめよりは少し若いだろうか。ピンクのゴムで髪を結んだ、黒髮ツインテールの子が出て来た。

スカートは薄い紫色、スカートの丈は膝くらいで、上着は手が隠れるほど長く、青い服だった。

おそらく最近のトレンドである、萌え袖ってやつだろう。

イリアさん程とはいかないが・・・胸はそこそこあるみたいだ。

ただ背が俺と同じくらいって・・・


「よいしょっと・・・」

すると、ツインテールの子はブーツを脱ぐ。

そして、腰につけているポーチから小さい靴を取り出して、履いた。


シークレットブーツ!?15cmくらい盛ってたのか!?

たぶん歩きづらかっただろうな・・・

あ、だから俺の服を引っ張ってたのか。

何とか倒れないように。


「さて、中に入りましょう!」

また俺の服を引っ張って、目を輝かせながら俺の顔を見てくる。


「あ、あと名前を聞いてなかった。」

ふと思い出し、聞いて見る。


「あっと、そうでしたね・・・」

ツインテールの子は服を引っ張るのをやめ、振り返り、後ろに両手を回し、話し出す。


『私は、旅する魔法使い。メルです!』

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