カタリヤさんのいる図書館
猫乃助
第1話 怪談話と僕
地方都市の普通校で別段特筆するような事は無い学校だと自身では思っている。少し異なる点があるとすれば、少子化と謳われる現代だが生徒数は一つのクラスに40人、1学年の生徒数が200人を超えているいわゆるマンモス校だ。
これだけ人数が多い所為だろう、転校や自殺する生徒が一人、二人いてもそれほど気にならない上に、同学年の生徒でも名前も顔も分らない人達が何人も居る。ふと、僕は授業中に教室の窓から校庭を見下ろしながらそんな事を思っていた。
終業を告げるチャイムを聞き、そそくさとノートを片付け、鞄片手に教室を出ようとする。
「乙名氏、一緒に帰ろーぜ」
親切心で声を掛けてくれた友人に「今日は部活なんだ」と苦笑いを浮かべ、足早に旧校舎へ足を運ぶ。
僕らが授業を受けているのは新校舎、旧校舎は資料や文化祭に使用する備品などを置く倉庫兼文科系の部室となっている。メジャーな文科系の部活は新校舎に部室を与えられているが、マイナーだったり愛好会に近い生徒数や名ばかりの部活を行っている場所は旧校舎に追いやられてしまう。
僕が所属している部活動は新聞部。と言っても、校内新聞を発行しても見る生徒は殆どいない。月に一度発行し、図書館の一角に置かせてもらっているが、印刷する紙の無駄じゃないかと司書には嫌味を言われる始末である。
実際、入学したばかりの自分はこの新聞を読んで微塵も楽しいと思ったことも役に立つとも思った事は無い。ただ、小さくだがこの学校の怪談話をまとめている記事がありそれに興味を引かれたのだ。
怖い話や都市伝説は好きな方だった。それなりにこの学校も歴史はあるおかげかそれなりの怖い話が期待できそうだった。しかし、所詮は噂と言う事だろう。幾つかを検証してみるもすべて空振りだった。気が付けば2年に進級していたという始末。一年間一体何をしていたんだろうかという喪失感を覚えつつもまだ検証が済んでいない噂話一覧をまとめた自身のノートに目を落す。
「今日は一体どれを確かめようか」
独り言をつぶやきながら旧校舎の新聞部部室にたどり着くと部長が宇宙人を召喚するべく怪しげな儀式を執り行っている所だった。銀色の全身タイツに身を包んだ部長は聞き慣れない言語を口走りながら祭壇に見立てた教卓に祈りをささげている。
「ああ、乙名氏。今日も収穫の無い噂の検証?」
部長の奇行に呆れて部室の入り口で突っ立っていると唯一の同学年の部員久木
「収穫がないかどうかは検証するまで分からないだろう。それより久木君は何を?」
「オレはこっくりさんのシートを全自動で作成してくれるエンジェル様を作成している所だ」
真っ白な紙の上でボールペンを握りしめている。どうやらエンジェル様を召喚するための儀式をこなっているらしい。そんな訳の分らない手順を踏むくらいならワードでもメモパットでもいいから地道にキーボードを叩いてシートを作るか、自分で手描きしたものをコピーでもすればいいのにと彼に対しても呆れてしまった。
「楽しい?」
「楽しい!」
どうやら彼は楽しいようだ。楽しんでいるのならそれを邪魔してはいけないだろう。僕は鞄を開いている机の上に置き取材機材置き場から片手で扱える家庭用のビデオカメラを一台とボイスレコーダーを手に再び新校舎に戻った。
旧校舎の噂もまだ調べ終わった訳ではないのだが、最近新校舎で聞かれる噂を先に確かめたくなったのだ。最近語られていると言う事は実際に見た人もいるかもしれない、実在する確率が高いと思えたのだ。
小さな期待を胸に抱いていた僕の足取りは自然と早くなっていた。
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