水と緑の星に愛を込めて
渋谷かな
第4話 レディオアクティビティ
2020年、東京オリンピックは開かれなかった。
日本人がオリンピックの開催に盛り上がっていた。しかし、オリンピック当日、北朝鮮が核ミサイルを発射した。正確にいえば、今年の夏は非常に暑く、地球温暖化の影響と思われる。北朝鮮の核ミサイルを制御するシステムが故障をきたし、核ミサイルが乱発される結果となってしまった。
悲劇が起こった。
核ミサイルの4つは日本の領土に着弾。北朝鮮の核ミサイルは強力な破壊力で、日本は東北、名古屋、四国、九州を失った。
北朝鮮の核ミサイルは中国にも7発落ちた。北京、上海は壊滅した。中国政府は報復に北朝鮮に核ミサイルを撃ちまくった。北朝鮮は領土ごと滅んだ。韓国は南部だけ陸地が残り、島国となった。
この北朝鮮核ミサイル発射事件を発端に、冷静さを欠いたアメリカ、ロシア、ヨーロッパ諸国、インドも核戦争に参戦して、世界の覇権を争った。核には核を。1度放たれた核は、核ミサイルの絶大な破壊力に心を奪われた人間は、核ミサイルのボタンを押すことに躊躇することはなかった。こうして第3次世界大戦が始まった。
核戦争に勝者はいなかった。
2021年、第3次世界大戦は1年もせずに終結した。世界の核保有国が敵国に核ミサイルを何発も打ち込み滅ぼしていった。核ミサイルを撃ち込まれた国は、核ミサイルの爆発で人々が死に、辛うじて生き残った人々も核ミサイルからの放射能に体が汚染されていった。
核戦争の結果、青い水の惑星であった地球は、核の放射能に包まれて、死の星となった。世界の人口は約70億人から1億人までに激減した。日本人は1億3000万人から300万人くらいになってしまった。
人類には放射能を除去する科学力はなかった。辛うじて原子力発電所の事故を起こし、今までに放射能と向かい合ってきた国だけが放射能に汚染されない空間を作る科学技術を持っていた。
地球、西暦3000年。もう人間は普通に生きることはできなかった。
ここは地球の西暦3000年の日本。
舞台は赤坂の迎賓館といったところか。華やかな舞踏会の会場に日本人のお金持ちの貴族が大勢いる。貴族は燕尾服を着た男達、ドレスアップをしてきれいにしている女達。貴族の男女がザワザワと下世話な世間話をしている。
「これからの日本はどうなってしまうのだろうか?」
男の貴族が日本の心配をしている。
「別にいいじゃないか? 日本がどうなっても。この中にいる我々は生きていけるのだから。」
年配の貴族の男性は自分のことしか考えていなかった。
「し、もうすぐ陛下がいらっしゃるわよ。」
女の貴族がつまらない会話をしている男達に注意する。
「陛下と言っても名ばかりだがな。」
男の貴族が冷たく言い放った。
「陛下が到着されました。」
その時、迎賓館の舞踏会場の扉が開き、宮内庁らしき職員が大声で陛下の到着を告げる。
「陛下だ。」
男の貴族は、舞踏会上に入場してきた凛々しい青年を見て陛下と言う。陛下は白っぽい正装で衣装は輝いていた。
「まあ、なんて素敵なの。」
舞踏会場の真ん中を歩いて進んで行く。おつきの職員2人とボディーガード2人が陛下の周りを固めている。
「あんな若造が陛下か・・・。」
年配の男性からすると陛下は高校生ぐらいの幼い年齢に見えた。
「・・・はあ。」
陛下と呼ばれる男は自分の座る舞踏会場よりも少し高い位置にある席に階段を2、3段上り自分の席に着く。陛下は周りを見渡して、ただため息を吐いた。周りの貴族たちには分からないようにである。
「舞踏会だと。こんな時代に何をしているんだ。今もたくさんの人間が死んでいくというのに、ここにいる人間は何も感じないのか。」
陛下と呼ばれている若い男は、自分の目の前で行われている舞踏会、着飾った貴族といわれる男女を見て吐き気がしていた。陛下が舞踏会場に来たのも、陛下としてのお役目でしかなかった。
「陛下、お友達がお越しになりました。」
おつきの職員が陛下にそおっと耳打ちする。
「そうか、すぐに行く。」
陛下は不機嫌な顔から嬉しそうに笑顔を見せ、席を立ち舞踏会場の裾から退場していく。
ここは来賓用の部屋。簡単に部屋の真ん中にソファー2つが低いテーブルを挟んで配備されている。
「ここも日本か。」
1人の男が窓辺に立ち華やかな迎賓館の舞踏会場を眺めている。その表情は怒っている訳でもなく、冷めている訳でもなかった。ただ何とも言えないのである。
「飛鳥! 久しぶり!」
その時、客間に陛下がやって来た。友人に会えたのが嬉しかったのか、笑顔で陛下は現れた。舞踏会場で不服そうな表情を見せていた態度とは180度違った。
「陛下、ご無沙汰しております。」
陛下に渋井と呼ばれた男は普通に白いカッターシャツを着て、黒いズボンを履いていた。陛下に深々と頭を下げて礼儀よく挨拶する。
「やめてくれ!? 俺たちは友達だろ!? 2人の時は、昔みたいに一条でいいよ。」
陛下は友達に会えたのがよっぽど嬉しかったのか、まるで学生のように喜ぶ。
「わかったよ、一条。」
陛下の友達の飛鳥も久しぶりに会えたのが嬉しいのか、ついつい口元が緩んで笑っているように見える。
「さあ、座ろう。今日はゆっくりと話そうじゃないか。」
陛下は先にソファーに座り、友達を席に座るように勧める。
「悪いがゆっくりはしていられない。」
席に座った友達は陛下に対して、時間は無いと言う。表情も久しぶりの再会の時に見せた笑顔とは違い、どこか真剣で険しい顔をしているように見えた。
「そうか、分かった。」
陛下の顔からも笑顔が消えた。お互いがお互いの言おうとすることを察したように今日2人が会っている本題に入る。
「地球は、日本は放射能に汚染されて、一部の人間しか生き残っていないのに、何が舞踏会だ!? 今日もたくさんの人間が死んでいるんだぞ!? 私には、私にはここにいる人間の気持ちが分からない!? 本当に人間なのかと思ってしまう!?吐き気のする思いだ。」
陛下は友達には自分の本音を言える。それ以外は常に笑顔を作り平和の象徴として平静を装わなければならないのだ。舞踏会に顔を出すのも陛下の公務である。
「陛下も大変だな。ただ若い命というだけで、前の陛下が亡くなられた日に生まれた赤ん坊から勝手に選ばれて陛下になるだけだからな。」
命、人口が減ってしまった今の世の中では、新しい命の誕生は貴重であった。故に生まれたばかりの赤ん坊を陛下に祭り上げ、命の大切さを国民にアピールしている。
「陛下なんて言われて崇められているが、何の権力も無い。ただのお飾りさ。」
陛下事態も、ただ生かされていると感じている。陛下をしている限り食べることには困らない。死んでしまっても、次の陛下が生まれるだけであった。
「そうだな。昔の天皇はこんな大変な時代に国民の税金で食べさせていく価値は無いと国民が暴動をおこし一族を皆殺しにしたという。それからはおまえのような普通の人間を庶民陛下として、平和の象徴に置いただけだからな。」
天皇一族という既得権益は国民の反感を買い、本当の庶民の子供、しかも赤ちゃんの間に選ばれれば、生き残った国民の批判を生まなかった。
「だが最近は私の身の回りでもおかしなことが起こるようになってきた。」
陛下は深刻な顔で友達に言う。自分は何者かに命を狙われているのではないかと。
「例えば?」
友達は陛下に、どのような事件かを尋ねる。
「どこからか石が投げつけられたり、暴漢に襲われそうになったり、身の危険を感じるんだ。誰かが私を殺そうとしているに違いない。」
陛下は自分の身に起こった出来事を友達に伝える。もしかしたら自分は死んでしまうのではないかと心配だった。
「中の貴族の権力争い。外の人間の中への恨み。何も悪いことはしていないが、憎しみは陛下に集まるシステムになっているからな。」
友達は呆れたように言う。人の妬みや嫉妬、憎しみといった目に見えないものほど怖いものはなかった。
「最悪だよ、陛下。」
陛下は自虐的に自分自身のことを辞めたいと頭を掻きむしりながら言う。
「守ってくれるんだろ?」
突然、陛下は鋭い目つきになり友達を睨む。こんなに鋭い目つきは今までに見せたことはなかった。友達にだけ見せる表情だった。
「相手がレディオアクティビティならな。」
友達はケロッとした笑顔で軽く答える。
「さすが友だ! 頼もしいね。」
陛下は友達が助けてくれると聞いて安心する。
「それ以外は自分でなんとかしろよ、陛下。」
陛下を谷から突き落とすと友達はソファーから立ち上がり帰って行こうとする。
「そんな!? 守ってよ!?」
陛下は泣き出しそうな顔で友達にしがみつこうとする。
「会って行かないのか? 皇后に?」
もう客間の扉を出て行こうする友達の背中に声をかける。
「元気にしているなら、それでいい。」
そう言って友達は皇后に会わずに迎賓館から帰って行った。
「今日は放射能が濃いいな。」
空を見上げた友達は迎賓館を出て電車の駅に向かう。友達は黒いマントの姿で足取りは早歩きだった。そして、駅で切符を買い、やって来た電車に乗り、四谷から電車に乗り込み周回電車に乗り込みドア付近にもたれながら立つ。
「・・・。」
窓から北側は見なかった。なぜなら北側は放射能に汚染された死の街が広がっていたからだ。核戦争から900年以上経ったが、放射能を除去できない人類には、生活エリアを広げる術はなかった。ただ眺めても悲しいだけだった。その感情も無くなり、もう何も感じなくなっていた。
こんな世界で自分のことが分かる人間がどれだけいるのだろう。自分が何者で、自分がどこから来たのか、それすら分からない。この時代の出生は、一部のお金持ち貴族は昔のように父親と母親に愛されながら育てられる。あとは食料調整と人口管理の名の下に、遺伝子操作で科学的に生み出される。純粋な人間は日本国で暮らし、遺伝子に変異が見られた者は外の世界に捨てられる。
西暦3000年の日本国とは、東京都の鉄道会社の山の手線があり、真ん中を横切る中央線の下部だけをいう。核戦争が始まり、世界が放射能で汚染されていく中、鉄道会社の山手線の中央線より下の地域だけ、放射能汚染防止シールドという科学的放射能を遮断するテクノロジーで、昔の豊かな日本の姿を保っている。
一部の都心に住んでいたお金持ち、政治家、公務員、権力者は生き残った。しかし、多くの日本人は大人も子供も切り捨てられ、体を放射能に侵されていった。
日本国、日本国民は放射能汚染防止シールドの中で生きている者のことを言う。それ以外の放射能汚染地域で暮らす日本人を準日本人と差別的な表現を使う。住んでいる地域によって呼ばれ方が違うのだった。広島・長崎を過去の被爆地というのなら、東北、名古屋、四国、九州を新被爆地と呼ぶ。
もしも地球が放射能に汚染されたら、宇宙戦艦や人型ロボットで宇宙に脱出すればいいと昔の人は考えたかもしれない。しかし現実は地球が放射能に汚染され、人間は今を生き残るだけで精一杯で、宇宙技術の開発など、人類の存続と関係ない技術は放置された。仮にロケット技術があったとしても、放射能に汚染された地球では貴重な資源やエネルギーが揃わないのである。現在、開発進行している科学技術は、放射能関係か生命関係に限られている。
「次は渋谷。」
電車の車内にアナウンスが流れる。電車に乗っている人間の量は2,30で普通であった。山の手線を中央線で区切り、下部は日本国として、放射能汚染防止シールドに守られた緑と水のある豊かな土地。しかし上部は準日本国といわれる放射能汚染地域になる。
電車も放射能に汚染されないように、放射能汚染防止シールドの中だけを一方通行で左回りにだけは知っている。陛下にあった友達は渋谷の駅で電車を降りた。
ここは渋谷の町中。
「ザワザワ。」
時間的には17時くらいか。昔はまだまだ太陽の光で明るかっただろうが、今はもう真っ黒だ。街中は自家発電機でなんとか街の明かりと人の賑わいを保っている。 街の中心部は、昔は山手線の外側のセンター街であったが、現在は宮益坂辺りが街の中心として賑わっている。店は飲食店やカラオケ、他にはキャバクラや風俗などがあった。放射能汚染により山の手線の外側は真っ暗で、明かりなど一切見えなかった。
陛下のお友達は、電車の線路沿いを歩いている。駅には山手線の内側に出入り口の改札はあるが、山手線の外側から内側に出入りはできないように壁で塞がれていた。
駅から離れ、明かりも無い宮下公園辺りで、陛下の友達は周囲を目視で確認し、線路の壁を乗り越えようとする。軽やかなステップで壁を足でける様に線路の壁を2,3歩で登り切り線路の上に立つ。
「たかが壁1枚で、こんなにも世界が違うのか。」
陛下の友達は線路の上から2つの世界を眺めている。豊かな水と緑のある放射能汚染防止シールドで守られた豊かな世界と、放射能で汚染された死の世界。少し想いに耽ると我を取り戻し、線路の壁を飛び降り、放射能に汚染された世界に降り立つ。
陛下の友達が放射能に汚染された世界を歩いている。放射能が霧のように立ち込め視界は悪い。そしてまだ旧センター街を歩いているのに、誰にも出会わなかった。まだ、人間の死体が転がっているのなら地獄絵図のようだったといえるのだが、放射能に汚染された街に人の姿は無く、もう900年以上前に人が死んだあとに、ここには人は住んでいない。もう人の死体も自然に帰ったのだろう。
「何者だ。ずっと、俺をつけているな。」
陛下の友達の足が止まる。すると街のビル影から宇宙服のようなものを着た、人間らしき者が4体現れる。
「我々は日本国の警備隊だ。」
日本国警備隊。日本国は放射能を除去しようと研究をしているが、そう簡単には進まなかった。一方で放射能汚染防止シールドの外の世界を調査するために、放射能に感染しない服を開発した。警備隊の役目は、放射能に汚染された準日本領土の調査を主な業務に七ている。
「おまえ、どうして、放射能に汚染されている、この世界で防護服も着ないで生きていける!?」
警備隊の隊員の隊長らしき物が訪ねる。
「こいつ、今、噂になっている化け物ですよ!?」
他の隊員が恐怖に吞まれながら慌てた様子で化け物と言う。
「レディエーションヒューマンか!?」
隊長は日本国の陛下に会ってきた、陛下の友達のことをレディエーションヒューマン、放射能人間と呼んだ。
西暦3000年の日本国では、人間の呼び方も段階を設けていた。男と女が愛し合い生み出す純粋な日本人のことを純日本人。これは一部の貴族だけに許された権利である。食料調整・人口管理・人類の存続のために遺伝子操作され生み出される補助のための日本人を補日本人。そして放射能に汚染された人間をレディエーションヒューマンと言い、放射能人間と呼ぶ。
レディエーションヒューマンは本来なら人間が生きていけない放射能に汚染された世界で生きることができる突然変異の生命体とされ、放射能に汚染されていない世界の人間は、放射能人間を人間として認めなかった。
「答えろ! おまえはレディエーションヒューマンなのか!?」
警備隊は恐怖に震える体で、職務だからと陛下の友達に詰め寄る。警備隊の隊員の中には、レディエーションヒューマンを捕まえて、人類の発展、手柄を立てて、死の世界の調査という実務から逃れて、デスクワークの内勤に回りたい者も多かった。
「逃げろ。」
陛下の友達は警備隊に向かって言った。
「はあ!? 逃げろだと!?」
警備隊の隊員は質問の答えでもない予想外の返事に戸惑った。中には自分たちの質問に答えない目の前のレディエーションヒューマンに怒りを感じる隊員もいた。
「死にたくなければ、逃げろ。」
陛下の友達は頭の悪そうな警備隊の隊員に言葉をつけたして言った。
「なんだと!? 俺たちを殺そうって言うのか!? ふざけるな!?」
警備隊の隊員の緊張感は最高潮に達していた。命を大切にしろという忠告も聞く耳を持たないくらいに。放射能空間で人間は平静を保てない。何かあれば死ぬという恐怖と隣り合わせである。
「もう手遅れだ。」
陛下の友達は、警備隊の隊員に向かって呟いた。
「ギャア!?」
警備隊の隊員の胸を何らかの手と思われるものが貫いている。胸から拳のようなものが隊員の血を流しながら飛び出ている。警備隊の隊員は何が起こったのかも分からないまま目を見開いたまま口から血を流し死んでいる。
「なんだ!?」
警備隊の隊員たちは、1人の隊員が何者かの手らしきものに胸を貫かれ血を流し死んでいるのを見つめる。その光景は自分が死んでしまうよりも恐ろしい光景だった。
「死んでる!?」
警備隊の隊員達が何が起こったのかと確認するために後ろを振り返る。
「!?」
その瞬間、もう1人の警備隊の隊員の首が跳ね飛ばされた。周囲や他の隊員の顔にその返り血がつく。これで警備隊の隊員の死者は2人目だ。残された警備隊の隊長と隊員は何が起こっているのか分からなかった。
「な、なんだ!? こいつらは!?」
ただ分かっていることは、自分たちは死ぬということだけだった。警備隊の隊員を2人も殺したのは人間でもなく、容姿は化け物のような、獣のような姿をしている二足歩行の生物だった。それが3人・・・ではなく、3体いる。
「レディオアクティビティクリーチャだ。」
陛下の友達は、恐怖で足が竦み、前身が震えて動くことができないが生き残っている警備隊の隊長と隊員にレディオアクティビティクリーチャ、地球の、世界の、人間の放射能汚染により突然変異で生み出された放射能生命体である。
「レディオアクティビ・・・なんだ!? それ!?」
隊員はパニックに陥っていた。自分の知識で理解できないことに出会うと脳みそが情報を処理できないでいる。
「レディオアクティビティクリーチャ、放射能生命体だ。」
陛下の友達は平然と答える。まるで、この化け物たちを知っているかのように。
「放射能生命体!?」
隊長は黙って何か助かる策はないかと模索しているが、隊員はもう生きた心地はしなかった。少しでも恐怖を紛らわせようとよくしゃべった。
「この化け物は、おまえが命令して動かしているのか?」
警備隊長は冷静に状況を分析して、1つの可能性にたどり着く。この化け物たちを操っているのは、この目の前の怪しい男なのではないかと。この男は放射能に汚染された世界で防護服も着ないで平然と普通に生活しているのだ。この男が放射能生命体と呼ばれる化け物を操っていても、なんの不思議もない。
「外れだ。こいつらはレディオアクティビティクリーチャ、タイプ、ゴブリン。放射能に汚染された世界で、突然変異で生まれたと考えられる。元が人間なのか、犬なのかは分からない。」
陛下の友達は目の前の放射能生命体のゴブリンのような化け物の正体を人間、若しくは犬だと言った。
「に、人間だというのか!? これが人間・・・。」
警備隊の隊長は化け物の正体が人間だと聞いて、衝撃を受け言葉を失う。人間とはもっときれいな生き物のことを指し、目の前の怪物は、とても人間には見えなかった。
「も、もう嫌だ!? 死にたくない!? うわあああ!?」
警備隊の隊員が現実に耐えられなくなり発狂した。しかし、その行為はレディオアクティビティクリーチャたちの野生を刺激してしまう。
「ギャア!?」
気が狂い大声を出して狂いだした隊員がレディオアクティビティクリーチャを怒らせた。敵意を感じたのだろうかレディオアクティビティクリーチャは隊員に鋭い爪で攻撃を仕掛ける。
「危ない!? ギャア!?」
レディオアクティビティクリーチャの爪に隊員が引っかかれそうになった時に警備隊の隊長が身を挺して隊員の救おうと飛び出す。隊長は鋭い爪に引っかかれて致命傷を負う。
「!? 隊長!? 隊長!?」
隊員の目の前で今度は体長が殺された。これで隊員は自分で人間が殺されるところを3人も見てしまう。しかも隊長は自分をかばってだ。隊員が隊長の体を抱きかかえ隊長に懸命に呼びかける。
「お・・・おまえだけでも・・・守れて・・・良かった。」
隊長は隊員に最後の言葉を投げ掛ける。隊長として、先に2人の隊員は失ったが、最後の1人は体長として守れて安堵している。
「隊長!? どうして自分なんかをかばって!?」
隊員は隊長に守ってもらったが、自分なんかを助けても、どうせ直ぐに化け物に殺されて死ぬのに、隊長に対して申し訳ないとしか心で思えなかった。
「た、隊長だからな・・・。」
そういうと隊長は首と手をぐたっとさせ息を引き取った。隊長は最後に助けた隊員の腕の中で安らかそうに眠りに着いた。
「隊長!?」
悲しみに囚われた隊員は、またしても過ちを犯してしまう。隊長の死に感情的に大声で隊長と叫んでしまう。
「ガルル。」
この隊員の行為は目の前のレディオアクティビティクリーチャを刺激し、若しくは周囲に他のレディオアクティビティクリーチャを呼び寄せてしまうだろう。
「隊長!?」
隊員は放射能防護服のヘルメットマスクの中は涙が溢れていた。悲しくて、悲し過ぎて、これから自分が殺されることも考える余裕がなかった。
「おい、おまえ。」
陛下の友達は生きている最後の隊員に声をかける。
「た、隊長!?」
隊員は声をかけられても、声が聞こえていないのか、もう死ぬからと聞き流しているのか分からないが反応はしなかった。
「おまえは死んだ人間のために、生きようとは思わないのか?」
返事はなかったが、陛下の友達は続けて言葉を投げ掛ける。今度の言葉は泣くしかできない隊員には棘があり反応した。
「俺なんかが生きてどうなる!? 俺なんか死んだ方がいいんだ!? 俺なんか・・・、俺なんか・・・。」
最初はすごい勢いで言い返した隊員だったが、自分への自信の無さから声がどんどん小さくなっていった。誰かのために生きるというよりは、自分なんかが生き残って申し訳ないという気持ちに近いのだろう。
「合格だ。」
陛下の友達は泣き崩れ、生きる気力も無い隊員が気に入った。
「え?」
隊員は何が合格なのか意味が分からなかった。
「おまえを助けてやろう。」
陛下の友達は、隊員とレディオアクティビティクリーチャの間に入る。
「やめろ!? おまえも殺されるぞ!? 逃げろ!? 逃げるんだ!?」
隊員は、もう他の誰かに隊長のように自分なんかを助けるために死んでほしくはなかった。
「ガルル!」
レディオアクティビティクリーチャ・タイプ・ゴブリンの3体は、陛下の友達に狙いを定め獲物を狩ろうと襲い飛び掛かる。
「水桜。」
水が桜の花びらが舞うように陛下の友達が言うと1体の放射能生命体は水に包まれ、そのまま圧縮されて水滴となって破壊され辺りに飛び散った。
「ガルル!」
1体のレディオアクティビティクリーチャが鋭い爪で陛下の友達を引っかこうと攻撃してきて、体を切り裂いたかに見えた。
「なんだ!? 体が水になっている!?」
隊員は驚いた。陛下の友達は化け物に体を引っかかれ、確実に殺されたと思われた。しかし、体は水のようになり、レディオアクティビティクリーチャの鋭い爪は水のようになった体を引っかいただけだった。
「ガルル!?」
今度はレディオアクティビティクリーチャたちが、何が起きているのかが分からなかった。ただ理解していることは、自分たちの仲間が1体、倒されたということだけである。レディオアクティビティクリーチャに考える脳があるのか、野生の本能だけで動いているのかは分からないが、得体の知れない敵に恐怖に似た違和感を感じているのは分かった。
「ガルルガルル。」
1体のレディオアクティビティクリーチャが逃げ出した。あとを追うようにもう1体のレディオアクティビティクリーチャも逃げ出した。陛下の友達も隊員も殺されずに生き残ることができたのだった。
「なんなんだ!? なんなんだ!? おまえは!?」
隊員は生き残ったことよりも、化け物から助けてもらったことよりも、その力があれば隊長たちは死なずに済んだかもしれないということよりも、敵を水に閉じ込めたり、水を圧縮して粉々にしたり、攻撃されても体を水にして攻撃を回避した目の前の男に関心があった。
「俺はレディエーションヒューマンだ。」
陛下の友達は自分のことを放射能人間だと言う。放射能人間とは、日本国には入ることが許されない異質な存在。目撃情報も少なく、いるかいないか噂される存在である。レディエーションヒューマンは死の世界と言われる放射能汚染地帯でも生きていけるといわれている。
「ほ、本当にいたんだ!? レディエーションヒューマン!?」
隊員は初めて放射能人間を見た。隊員は人類滅亡を阻止するための人工的な補完人間だったが、純人間以外の人間を見たのは初めてだった。
これが日本国の一条陛下のお友達の飛鳥と呼ばれるレディエーションヒューマンとの警備隊の氏家隊員との出会いであった。
つづく。
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