Chapter03 アクシスの人々

 フューリーと会話していた部屋を出て、まず俺は別の部屋で制服に着替えた。どうせこの後生活必需品の買い出しへ行くために管理局を出る予定だし、寝間着のままでは問題があるだろう。

 鞄の方はどうしたもんかと悩んでいたら、久道さんが手品のようにパッと消してしまった。話によると≪ブリンカー≫という装置で俺が入る予定の宿舎に転送したらしい。早くも次元技術の片鱗を味わったぜ。

 着替えも終わり久道さんに連れてこられたのは、俺が目覚めた部屋から二分ほど歩いた先の開けた空間。ソファやテーブルなどが置かれた休憩スペースのような場所は、管理局の窓際に面したラウンジだそうな。

 そこで遂に俺は、他のガーディアン――これから一緒に働く同僚たちとご対面したのである。

 男女の入り混じるグループからの視線を一身に受けた俺は開口一番、久道さんに「こう言えば問題ない」と移動中に教わった通りに挨拶をした。


「俺の名前は友柄晴近! 東京で学生をやってたんだけど、フューリー室長に呼ばれて都市に来たら何か知らん内にガーディアンになってた! よろしく!」


 ……おい、本当にこんなんで大丈夫なのか!?

 馬鹿正直に言われた通りやったけど、振り返ってみたらとんでもなく胡散臭いぞ。俺だったら間違いなく何だコイツってなる。

 やってしまった感がハンパない。

 ほら、もう既にみんなの俺を見る目が可哀そうな奴を見る感じになってるし。

 久道さんに助けを求めたかったが、あの人はラウンジへ入る直前に「野暮用がある」と言ってどっかにテレポートしてしまった。頼れるのは己だけ。

 かと言ってこの静まり返った空気をどうすることもできず笑顔のまま硬直していると、一番手前にいた俺と同い年くらいの少年がツカツカと歩み寄ってきて、


「……お前も、大変だったんだな」

 今にも泣きそうな顔でポンと、俺の肩に手を置いて来た。


「へ?」

「おっとみなまで言うな! オレにはお前の気持ちがよーくわかる。ていうかガーディアンやってればあの人の滅茶苦茶さは嫌でもわかる!」

「そ、そうなのか」

「だから困ったことがあったらお互い様だ。オレはラッド・マイヤーズ。これからよろしくなハルチカ!」

 最後にラッドはそう名乗りながら、爽やかな笑顔でサムズアップしてきた。

 ・……なるほど。

 フューリー室長は、どうやらとことん普段の行いがようだ。

 俺に集まる視線は同情の視線だったのか……。

 その後もラッド以外の面々から自己紹介を受けつつ、何故か一緒に労いの言葉をかけられていく。

「瑞葉・ベイカーだ。まあ、フューリー殿の奇行はこれに始まったことではない。すぐに慣れるさ」

「ミハイル・グッドマンと申します。大丈夫、友柄様はまだまだお若い。きっとこれからの人生で良いことが多々あるでしょう」

「ノイン・クラッツァ。半ば誘拐に近い形でありながら、銃を取る覚悟を持つに至ったトモノエ・ハルチカに小官は敬意を表する」

「やった後輩――じゃなかった、わたしフィーダ・レティエです! これでもハルさんより先輩ですから、どんどん頼っちゃっていいですからね! わたし先輩ですからね!」

 約一名、物凄くテンションが高い子がいるんですが。

 やけに先輩って部分を強調してくるな。ていうかハルさんって。

 それにこのノインって子、ちっちゃくないか? 少なくとも俺より二つか三つは年下っぽいぞ。シアちゃんともあんまり変わらないんじゃないだろうか。

 随分と個性派揃いのようだが、ともあれ全体的にだいぶフレンドリーでよかった。フューリーをダシに使ったみたいで悪い気もしなくはないけど、指示してきたのは久道さんだ。俺は悪くない。

 

 そして、最後の一人は。

「ルナリア・カミカワよ。突然こんなことになって混乱してるだろうけど、私たちが出来る限りサポートを……って、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

「あ、いや。顔を見てたっていうか……」

 確かに目の前にいるルナリアは元の世界でも滅多にお目に罹れない美少女だったが、それよりも気になったのは彼女の声だった。

 何か、どっかで聞いたことがあるような――

 

『ミラーポイント集中配置――連結開始!!』


 ふと脳内で再生されたあの時の音声が、ルナリアの声と一致した。

 そうか、どうりで聞き覚えがあった訳だ。

「あの時のレーザーって、もしかして君が?」

「そういうあなたは、確か三番ラインで女の子と一緒にいた……」

「やっぱりそうか!」

 色々と落ち着いてからお礼参りに行こうと思っていたが、わざわざ探す必要はなくなったようだ。

「その節はありがとう、おかげで助かった!」

「べ、別に礼を言われるようなことはしてないわ。私はガーディアンとして、当然の義務を果たしただけなんだから」

 全力で頭を下げると、何故かルナリアは目に見えてあたふたし始めた。

 言葉ではそう言いつつ満更でもなさそうな辺り、単にお礼を言われるのに慣れていないのだろうか。

 しかしそれでは困る。あそこで助けてもらっていなければ俺もシアちゃんも二人揃って人生終了していた訳で、こちとら感謝してもしきれないのだから。

「それでも助かったのは事実だからさ。目が覚めてから、命の恩人にはちゃんとお礼を言いたいと思ってたんだ」

「だから良いんだってば!」

 更にひと押しすると、困惑から一転して険しい表情になったルナリアはより一層ムキになった。

「ああもう、元はと言えば室長が自分で招いた人材の管理をちゃんとしてなかったからあんなギリギリの綱渡りに……それに、あなたもあなたよ!」

「え、俺!?」

 思わぬ飛び火に、面食らってしまった。

 おのれフューリー室長!

「次元兵器どころか≪リンカー≫も装備してない状態で変異体に立ち向かうなんてどういうつもり? 戦う力がないならすぐに逃げなきゃ駄目じゃない!」

「んなこと言われても、逃げようにもあの子を見捨てる訳にもいかなかったし、見捨てて自分だけ生き残るなんて死んでもごめんだったし……」

「死んだら元の子もないでしょうが。全く、私たちが間に合わなかったら本当に危なかったんだからね」

「ああ、その点に関してはすっげー感謝してる。マジでありがとうな」

「だからお礼なんて……はぁ、もういいわ」

 唐突に始まったルナリアによるお説教は、結局ルナリアが折れたことによって終了した。

 厳しい物言いも俺やシアちゃんのことを本気で心配してのことだろうし、やはり根本的にいい子なのだろう。

 これがあれか。

 いわゆる、ツンデレというやつなのだろうか。

 リアルでは初めて拝んだなぁ。

「そうカッカすんなよルナリア。オレはハルチカの男気に中々グッと来たぜ」

「黙ってラッド。そもそもあんたが微妙に揺らしたせいで、晴近のことまで撃ち抜きそうになったんだからね!」

「うへぇまさかの藪蛇!?」

「移動足場の本分すら果たせないか。ラッド・マイヤーズには失望した」

「だ、誰か! 誰か俺の味方はいないのか!?」

「大丈夫ですラッド先輩! 私も瑞葉さんやミハイルさんのことをミサイルで吹っ飛ばしそうになったので!」

「……いや、流石にそれは引くわー」

「わー裏切られたー!?」

「うん、相変わらず青春しているな。いいことだ」

「またそのようなことを……お嬢様もまだまだお若いのですから」

 あっという間にギャーギャーと騒ぎ出す、ガーディアンの若いメンバーたち。俺らよりも少しお姉さんっぽい瑞葉さんや、男の理想を体現したようなナイスミドルのミハイルさんは遠巻きにそれを見守っている。

 しかしまあ、あんなことの後でも賑やかなんだな。

 フューリーから散々に脅されたこともあり、命がけの現場である以上はそれなりに殺伐としていると思っていた。

 蓋を開けてみれば俺とそう年齢の変わらない人物も多いし、何より雰囲気が明るい。せめて前向きでいようという姿勢なのだろうか。何にせよ俺的には助かる。

 前途多難なことに変わりはないが、これならうまくやっていけそうな気がした。


「どうやら、随分と打ち解けたようだな」

「あ、久道さん」

 とここで、しばらく席を外していた久道さんが戻って来た。瞬間移動ではなく、ちゃんとドアからである。

 同時に、視界の端に新規メッセージを受信したという通知が表示された。

 送り主は……やっぱり久道さんか。

「一足先に友柄が入居する予定の局員用宿舎で手続きを済ませて来た」

「へぇ、そうなんですか……え?」

 通知に気を取られてつい流しそうになったが、何だって?

「もう部屋にはいつでも入れる状態だ。宿舎の場所と部屋の番号は今送ったメッセージに記載されている」

「あ、ほんとだ。ここから結構近いっすね」

「あと、ついでに備え付けの家財のリストも添付しておいた。準備費はライセンスの発行と同時に振り込まれている。他に必要なものがあるなら後で揃えると良い」

 至れり尽くせりか!

 アフターサービスが充実しすぎている。命のやり取りさえなければ理想の職場なんじゃないのこれ。

 てか野暮用って、俺の入居手続きのことだったのか。いくら瞬間移動が使えるからってこの人働き過ぎなのでは?

「疲れてるでしょうに、何から何まですみません」

「大した手間ではない。お前は被害者のようなものなのだから、ケア出来る部分はしていかないとな」

 言葉通り、久道さんの態度は年長者らしく余裕のあるものだった。

 か、かっこいい。

 これこそ出来る大人。男の中の男って感じだ。

 同じ大人でもフューリーとは安心感が違う。あの人はむしろ人を不安にさせる天才だと思う。

 あれ、なんだかここに来て直属の上司の株価が大暴落してるぞ?

 いやまあシアちゃんを助けてくれた上に俺にも色々教えてくれたし、これからも授業とかしてくれるみたいだし、いい人なんだろうけどね。

 久道さんの登場によって、いつの間にか騒ぎも終息している。教室に先生が入ってきた時と似てて懐かしい。朝に異世界へ飛ばされてまだ昼前だというのにそう感じてしまうのは、それほどこっちで過ごしている時間が濃いからだろう。

「さて、顔合わせは一通り済んだと思う。作戦終了後に待機してもらったのは御覧の通り、フューリーが招いた新人を紹介するためだ。よって今をもって此度の防衛戦を終了する。全員、よく頑張ってくれた」

 彼の言葉に対する、みんなのリアクションは様々だった。

 瑞葉さんとミハイルさんはただ小さく頷き、ノインは当然のことだと言いたげな無表情。フィーダとラッドは単に仕事が終わったことを喜んでいて、ルナリアは何やらブツブツと呟きながら自己反省しているようだ。

 俺は特に何もしてないので、そんな彼らを眺めているだけ。

「今日は解散とするが、ベイカーとグッドマンはこの後話がある。他の者たちは緊急の指令がない限り自由だが、手隙なら友柄に局や都市の案内をしてやってくれ。友柄もそれで構わんな?」

「そうして頂けると助かります」

「オレらも全然オッケーっすよ」

「うむ、では俺からは以上だ」

 最後に久道さんがそう締めくくり、ガーディアンたちの今日の仕事はひとまず終わったようだった。

「では皆様、お先に失礼させて頂きます」

「近い内にゆっくり話す機会を設ける。その時は茶でも振る舞おう」

 二人は先の宣言通り、久道さんに連れられてラウンジを後にしていった。

 どうやら俺は後日、瑞葉さんとのお茶会が確定したようだ。

 綺麗なお姉さんとのお茶会。うーん、嬉しいやら恥ずかしいやら。コミュニケーション力は人並みにある方だと思うんだが、相手が美人だとやはり緊張してしまうんだろうな。

 んでもってラウンジに現在残っているのは、俺とラッドにルナリア、フィーダにノイン。若手メンバー勢ぞろいって感じだ。久道さんやミハイルさんはそれなりの年っぽかったが、ガーディアンの平均年齢自体はそこまで高くないのだろうか。

 まあ、その辺のことも聞いてみればわかることだろう。

「それにしても、ラッドたちが快く案内を買って出てくれて助かったよ」

「気にすんなって。オレらって年近いし、無駄に肩肘張らなくて済むしな」

「ですです、水臭いことは言うことナッシングですよ。ここは先輩をドーンと頼って良いんですから!」

 フィーダはそう勇ましく、ドーンと胸を張った。

 ……何がとは言わんが、その、デカい。まさにドーンって感じ。

 勢いでよく揺れるもんだから、正直目のやり場に困る。

 自信に満ちた表情の彼女を、隣にいたノインが胡乱気な目で見上げて。

「フィーダ・レティエも就任して半月。部類としてはトモノエ・ハルチカと同じくルーキーであると――むぐ」

「ワーワー! ノイちゃん先輩それ言っちゃダメなやつです!」

 一転して慌ててノインの口を塞ぐフィーダだったが、もう殆ど聞こえてた。

 半月ってことはまだガーディアンになって二週間くらいなのか。どのくらいの差になるのかはわからないけど、期間的にはそこまで離れていないと思う。

 しかし当のフィーダは先輩として扱って頂きたいご様子。

「フィーダ先輩って呼んだ方がいいか?」

「うぅ、もういいです……なんか虚しくなるので」

「そ、そうか」

 念のため確認を取るも、さっきまでの覇気が嘘のようなしぼみ様。青菜に塩とはまさにこのことだな。

 いつまでも膝を抱えられていたらキリがないし、ここはフォローすべきか。バラした本人は全く悪びれる様子ないし。

「まあ、アレだ。呼び方はともかく一応先輩であることには変わりないし、わからないことがあったら積極的に聞くから」

「――ハイッ、よろこんで!!」

 うわめっちゃ元気になった。

 落ち込んだかと思えば輝かんばかりの笑顔になったりと、表情がコロコロ変わる子だ。

 そして立ち上がった拍子に、また揺れる。

 やはりデカい。

「そ、それはそれとして! この後はどうする?」

「そうね……今から都市の生活エリアに向かってもまだ落ち着いていないでしょうし」

「落ち着いてない?」

 どういうことかとルナリアに尋ねてみると、

「事後処理よ。変異体の死骸や被害者の遺体とかをそのままにしておくわけにもいかないでしょ」

「あー、言われてみれば」

 ルナリア曰く、管理局には変異体による襲撃が沈静化された後にガーディアンと入れ替わりで都市の清掃を行う部門があるとのこと。

 ただ単に死体を片づけるだけではなく、不運にも命を落とした人たちの身元を確認して遺族や関係者へ連絡を取ったり、必要に応じて補償の交渉も行ったりするらしい。

 特別な資格がなくても務まる上、仕事内容の過酷さから高給取りだが、長く続けていると非常に気が滅入るため都市内でも随一の不人気職であるという。

 もっとも変異体と直接切った張ったするガーディアンよりはマシらしい。

「必要な仕事なのは確かだから、あまり悪く言うのも憚られるんだけどね」

「実際、好き好んでやりたい人なんていないだろうなぁ」

 心の底からそう思う。

 今朝は死体だらけの道を割と平気で歩いていた俺だが、かと言ってそれを平気で片づけられるかと言われたら抵抗があった。

 犠牲になった人には悪いんだけどさ。

「なら昼まで局内を回れるだけ回って、飯食ってから都市に出る感じか。午後には店も再開するだろうしな」

「いいと思います。わたしとノイちゃん先輩は工房にも用がありますし」

「異論はない」

「ハルチカもそれでいいか?」

「おう、よろしく頼む」

「そんじゃ、行きますかね!」

 ラッドの提案に、一も二もなく賛成。

 彼の先導の下、俺たちはラウンジから移動を開始した。


 ◇


「管理局の本棟は地上六〇〇メートルのドでかい塔だ。一階のエントランスから地上五〇階までが研究室の管轄で、そっから上はそれ以外の局員のオフィスがある」

「高所恐怖症にとっちゃ地獄だな」

「オレたちが本棟で基本的に用事あんのはラウンジがあった五〇階だな。あのフロアには作戦室もあって、局から出動する時にはそこに集まって久道さんから直接指示を貰ってる」

「本来は室長の仕事なのにね。全く」

 一階へと向かうエレベーターの中。

 ゆっくりと近づいてくる地上の景色を眺めながら、ラッドたちから管理局本棟――俺が外から見たあの『塔』について簡単な解説を受けている。

 管理局を案内すると言っても、本棟では今語られたラウンジのあるフロアくらいしか利用しないらしい。

 何でも次元技術関連の研究は何が起きるか未知数なため、他の施設とは隔離されているそうだ。本棟から離れた位置に実験棟が存在し、そこに付属する形で技術局の工房があるとのこと。

「工房はフューリーさんが技術局長を兼任してて、次元兵器の開発や整備をするところなんです」

「あの人マジで何者なんだよ」

 もうツッコむだけ野暮な気がするが、言わずにいられない。

 この都市においてフューリーの権力がどこまで及んでいるか見当がつかないが、敵に回せば確実に詰むことはわかった。

「都市の外じゃ絶対に認可が下りない工作機とかも沢山あって、もう一日中居ても飽きません。むしろ住みたいくらいです」

「フィーダは機械が好きなのか?」

「好きと言うか愛してます!」

「お、おう」

 相変わらずテンション高めのフィーダ。

 気のせいか、一層目が輝いているようにも見える。

「フィーダは機械マニアだから、語らせると長いわよ」

「今後の行動に支障が出るため、早期の対処を推奨する」

 どこか辟易したようなルナリアとノインの言葉にはとても実感が籠っている。

 確かに、マニアは一度語りだすと止まらない。

 俺の友人にも一つのコンテンツに並々ならぬ情熱を注いている奴がいたが、そいつのおかげで潰れた休み時間は数えきれず、無駄に増えた謎な知識も多い。

 そして今のフィーダは、奴と同じ目をしている。

 うん、止めねば。

「そ、その話はまた今度にするとして! 工房には何をしに行くんだ?」

「任務後は使用した装備のメンテナンスをしている」

 更に話題を遠ざけるためか、ノインがフィーダに取って代わった。

「しかし今日はトモノエ・ハルチカを案内する任務があるため、整備は夜に回す。今はひとまず装備を置きに行くだけ」

「付き合わせて悪いな。何だったら二人の整備が終わるのを待つけど」

「問題ない。部隊内での日常的な意思疎通は大事。相互理解が不十分なチームほど戦場では脆い」

「ノイちゃん先輩の言う通りです。それに、わたしがメンテ終わるの待ってたら本当に一日潰れちゃいますよ?」

「……気になってたんだけどさ」

 隣り合って立つ、背丈も体格も全く異なる二人。

 二人の会話には共通して、矛盾している点があった。

「フィーダもノインも手ぶらじゃないのか? 装備らしい装備なんて見当たらないんだが」

 俺から見て、二人はどうみても丸腰だった。

 久道さんの場合は着替えてから来たらしいので不自然さは無かったのだが、二人に限ったことではなくラウンジで会ったガーディアンは全員、戦闘の直後なのに武器っぽいものなんて持っていなかった。

 まさかあの化け物相手に素手での殴り合いなんて仕掛けているとは思えない。

 現に俺はルナリアがぶっ放したというレーザーのシャワーを目撃してる。フィーダに至ってはミサイルとか言ってなかったか。

 さっき久道さんが俺の荷物でやったみたいに転送してたのだとしたら、尚更工房へ装備を置きに行くという意味がわからない。

 ただ、このことについて疑問に思っているのはやはり俺だけのようだ。

「そういや、ハルチカは次元技術について知識ゼロのペーペーなんだったか」

「し、失礼な。俺だって少しは知ってるぞ。次元軸説とか真次元理論とか……他にはそう、零次元圧縮とか!」

 知識ゼロと言うのは聞き捨て難く、俺はフューリーから聞いた言葉の中でそれっぽい奴を適当に並べてみた。

 だが対するラッドはより胡散臭そうな顔をし、

「随分とニッチなワードが出てくる上に、零次元圧縮って言葉は知ってるのに≪タグ≫を知らないんじゃ知ったかぶりもいいとこだぞ」

「うっ」

 俺の聞きかじった知識(うろ覚え)によるメッキは、いとも容易く剥がされたのだった。

 下手な見栄なんて張るもんじゃないな。時には知らないことは知らないと言う勇気も必要である。

「まあ都市外の一般人なら身近じゃないのも事実でしょうし。ほら春近、これが≪タグストレージ≫よ」

「……何だこれ?」

 さっきのフィーダよろしく萎れる俺の目の前に、ルナリアがそれを掲げてくる。

 六角形を細くしたような形状や大きさはUSBメモリーに似ているが、端子は存在しない。尻側には穴があり、紐を通してストラップのように保持できるようだ。

 試しに持たせてもらってみるが、見た目通り全然重くない。

「これが装備とどう関係あるんだ?」

「説明するより見せた方が早いんだけど……あ、一階に着いたわね。続きは外に出てからにしましょうか」

 エレベーターが停止し、音もなくドアがスライドする。

 人が忙しなく行き交うエントランスホールを横切って正面玄関を抜け、俺たちは本棟から外へと出る。

 太陽は朝と比べて随分と高くなっていて、表示したままの時計で確認すると現在時刻は一一時過ぎ。フューリーとの話は結構長かったようで、そろそろ昼飯時だ。

 実験棟及び工房は本棟正面から歩いて一〇分くらいの場所にあるらしく、移動しながら俺はルナリアから話の続きを聞いていた。

「≪タグストレージ≫――長いから基本的には≪タグ≫って省略されることの方が多いんだけど、これにはさっき春近が言ってた零次元圧縮が利用されてるの」

「ほうほう。で、零次元圧縮って?」

 もはや無知であることを隠さない俺は、物事を尋ねることに躊躇はしない。

「私も専門家じゃないから詳しい原理はわからないけど……≪タグ≫の機能に関してだけ言えば、対象となる物体から体積と質量を消してしまうの」

「ん?」

「えっと、つまり≪タグ≫本体には存在情報と質量や体積の数値データが保存されて、取り出すときにはその情報を元に復元するの」

「んん?」

「えっと、だから――」


「生物以外の物を、重量や大きさを無視して収納できる」

「なるほど」

 流石ノイン先生、わかりやすい。

 要するに不思議なポッケみたいなもんか。

「ちょっとノイン、折角私が説明してたのに!」

「ルナはいつもまどろっこしい。説明は端的に行うべき」

「それじゃ必要な知識が身につかないでしょ!」

「使えれば問題ない」

「……なんか、子供の教育方針で揉めるお袋と親父みたいだな」

「お前、絶対それあいつらに言うなよ」

 小声で言うラッドに、軽く忠告しておく。

 古今東西、同年代の女子に「母親みたい」と言って無事で済んだ例を俺は見たことがなかった。

 二人はなんやかんやと揉めていたが、結局ルナリアが折れた。ノインは依然としてすまし顔であり、あの牙城を崩すのは相当に難しいと考えられる。

「で、その≪タグ≫とやらに装備一式が詰まっていると」

「正確には、≪タグ≫一つにつき一つの装備ね。まとめて収納もできるけど、一つずつ取り出すことは出来ないから個別にした方が取り回しがいいのよ」

「嵩張る物でもなさそうだしな。どうやって取り出すんだ?」

「簡単よ。連結開始リンク・オン

 ルナリアがいつぞやか聞いたことのあるワードを口ずさんだ直後。

 彼女の左手首に装着されていた≪リンカー≫が淡い黄色の輝きを放ち始めた。

 続けて右手に持った≪タグ≫の腹にあるボタンを、親指でカチリと押し込む。

 変化は一瞬だった。

「うわっ!」

 まばたきすらしていないのに、いつの間にかルナリアの右手にはライフル銃のような武器が出現していた。

 スナイパーライフルと言うには全体的にやや短く、あくまで持って動き回ることを想定しているらしい形状。銃口に当たる部分にはプリズム状のパーツが取り付けられていて、陽光を七色に照り返している。

「こ、この武器は?」

「≪サイレントルーラー≫。私のメインアームなんだけど、これに関する説明はまた今度ね。そして、仕舞う時も同じ手順で……この通り」

「おおっ」

 トリガー付近を弄ると武器は霞みのように消え去り、ルナリアの手元には入れ替わるように≪タグ≫だけが残っていた。

「私たちが使う次元兵器は基本的に≪タグ≫を内蔵する構造になってるから、一々持ち替える必要もないって訳」

「よく出来てるんだなぁ。さっきのリンク・オンっていうのは? まあ大体察しはついてんだけど」

「連結開始は≪リンカー≫を起動させるためのコマンドよ。ちなみに逆は、連結終了リンク・オフ

 流れで発せられたコマンドに従って、ルナリアの≪リンカー≫が輝きを失った。

 スイッチらしきものは見当たらなかったが、そういう仕組みだったのか。

「次元技術を用いた道具を動かすには次元エネルギーを供給する必要があって、≪リンカー≫はその中継器なの」

「エネルギーの大元は管理局本棟の地下にあんだよな。確かウル、ウロ……」

「ウロボロス機関」

「それだそれ! 難しい理屈は知らんが、そこでエネルギーを生み出してるらしい」

 ウロボロスって名前自体は時々聞く。自分の尻尾を咥えた蛇だったっけ。

 ゲームとかでは無限を象徴しているということで何かと大役を頂いているイメージだ。

 きっとそのウロボロス機関とやらも大層なものなんだろうが、それに関しちゃノインの「使えれば問題ない」という一言で片が付く。

 発電所みたいなもんだと思っておこう。

「でもエネルギーって使うのに金かかんじゃないのか? 電気代みたく」

「室長ってば、本当に最低限のことしか説明してないのね……ガーディアンなら≪リンカー≫を経由して幾らでも使えるわよ。勿論タダで」

「タダなの!?」

「それに≪リンカー≫並みに小型化された供給装置なんて市井には出回らないから、ガーディアンの特権って結構大きいのよね」

 フューリーが言ってたガーディアンの特権ってのがこれか。

 俺の世界で当てはめるなら、それこそ電気代光熱費が全部無料になるようなもんだ。しかもどこにいたって引き出せる。そりゃ凄い。でも命がけだしなぁ。

 次元エネルギーに実際どれほどの価値があるのかわからない俺には、この特権が命をかけるに値するのか判断しかねた。

 ――ラッドやルナリアたちはどうなんだろう。

 俺は別段葛藤することもなく、その場の勢いみたいな感じでガーディアンになることを決めてしまったが。

 彼らは、一体どういった理由でこの道を選んだんだろうか?


「見えてきましたよ!」

「ん、あれか」

 フィーダの声に思考を中断され顔を上げると、彼女が指さす先に巨大な倉庫とビルがくっついたような建造物が佇んでいた。

 本棟と比べれば小さいが、それでも都市の建物と比べると倍以上の大きさだ。俺の通ってた高校の校舎なんて倉庫部分にすっぽり収まってしまうだろう。

 ラッド曰く、倉庫っぽい部分が工房で、くっついてる建物が実験棟らしい。まあ、概ね印象通りだ。

「じゃあ、わたしたちは装備置いてきますね!」

「一〇分後には戻る」

 目的地へ着くなり、フィーダとノインは工房へと入っていってしまった。

 出入り口前で待ち合わせすることになり、彼女らが作業をしている間、俺はラッドとルナリアに連れられて実験棟の中を回ることになった。

「つっても、ここにしたって常日頃から通うようなとこじゃないけどな。月始めの健康診断とか、室長に個人的な呼び出しを食らったときくらいか」

「健康診断なんてあんの?」

「次元兵器の中には肉体に直接作用するタイプもあるからな。安全性は確保されてるらしいが、やっとくに越したことはないだろ」

「個人的な呼び出しってのは?」

「それならルナリアの方が詳しいだろ。オレは全然呼ばれねえし」

「そうね……私が呼ばれる時だと、大体新しい制御系のテストね。実際に武器を使ってターゲットを撃ちながら、その時の能活動を測定したりとか」

「へぇ、何か実験っぽいな」

「そりゃ実験棟だからな」

 と、他愛もない会話をしながら飾り気のない廊下を歩いていたら。


「おや、こんな所で会うとは奇遇だね」


 手前の部屋から、白衣の女性がにゅっと生えてきた。

 フューリーだった。

「きゃあ!?」

「ひぃ!?」

 話題の人物が突然現れたことに両隣の二人が妖怪にでも遭遇したような悲鳴を上げる中、俺は呆れを隠すことなく話しかける。

「もっとまともな登場の仕方は出来ないのか?」

「むむ、春近君はあまり驚いてくれなかったようだ」

「実験棟って時点で、何となくいる気はしてたからな」

「ハハハ、良い勘をしているじゃないか」

 何が嬉しいのか朗らかに笑いながら、フューリーは首から下も廊下側へと出てきた。

 俺が部屋を出た時はそこに残っていたはずの彼女が何故俺より先にこっちへ来てるのかは謎だが、久道さんのような例もあるし驚くことはない。

 でも、出ていく時にフューリーは「また明日会おう」って言ってたような気がしたんだが。

 そのことについて尋ねてみると、

「むしろ驚かされたのは私の方だな。君は自ら実験棟に来るような人間ではないと思ったから、日を改めて呼び出すつもりだったんだが」

「昼過ぎくらいにならないとまともに都市を回れないって聞いたから、ラッドたちに局内を案内してもらってたんだ。こっちに来たのはフィーダとノインの用事のついで」

「あぁ、彼女たちは工房の常連だったね。特にフィーダ君の兵器や機械に対する熱意は凄まじいものがある」

 若い頃を思い出すなぁと、しみじみと呟くフューリー。

 この人も充分若く見えるけどな。見た目や雰囲気的には瑞葉さんよりかは大人っぽいけど。

 女性に対する年齢の話題はタブーとし、自分からは触れない方針だ。触らぬ神に祟りなしってな。

「そうそう」

 不意にフューリーは俺から視線を外し、

「ラッド君やルナリア君も、時間を取らせてすまないね。彼を引き込んだ以上、本来ならば私が案内をするのが筋だと思うが」

「へ!? そ、それはまあ、こんなんでも先輩っすから!」

「今日は予定とかなかったので、むしろ丁度良かったかなって思ってました!」

 二人の狼狽っぷりが凄まじい。

 ガーディアン的にはフューリーは直属の上司だし、敬意をもって接するべき人物なのかもしれないが、これは尊敬というか恐怖に近いな。

 慌てふためく二人を他所に、フューリーは平常運転である。

「なら良かった。私としても、若者同士の方が気兼ねなくやり取りができると思っていたのでね。春近君の様子を見る限りでは、秀一君の判断に間違いはなかったようだ」

「その点についてはお陰様で。ていうかフューリー室長は久道さんを働かせすぎだろ。入居手続きとかも本来あんたの役目なんじゃないか?」

「押し付けていることは否定しないが、彼は昔から苦労性なんだ。自ら面倒を背負いこむ体質なのかな? 何にせよ、助かっていることは事実だね」

 いっそ清々しいレベルの開き直りだった。

 久道さんが将来禿げたとしたら絶対この人のせいだ。

 とは言え久道さんも文句を言いつつ従っているあたりに、二人のパワーバランスが見えてくる気がする。

 極めて実直そうな人物である久道さんからすれば、常に飄々としていて何を言われようと自分のペースを崩さない彼女は天敵なのだろう。

 その後も実験棟の第一印象だとか職場環境に不満はあるかなど、次々と飛ばされる短い質問に当たり障りのない解答をしていく。街頭アンケートかよ。

 まだ管理局の全容を把握できていないし、仕事が本格的に始まった訳でもないので何とも言い難いのだが、現状には満足してると言っていい。少なくとも同僚はみんな親切だ。

 正味五分ほど立ち話を続けたところで、ふとフューリーがちらりと横を見やる。

 あれはBC利用者が時間を確認する時に特有の動作らしく、実際に見えるようになってわかったことだった。

「少々立ち話が過ぎたかな。私も実験中なのだった」

「どんな実験をしてたんだ?」

「それは結果が出るまでのお楽しみと言っておこう。そうだ、折角会えたのだしこちらは今渡してしまおうか」

 するとフューリーは白衣のポケットを漁り、銀色の何かを取り出す。

 どこかで見たような覚えのあるそれは、先ほど現物を目にした≪タグストレージ≫に他ならない。

「ガーディアンの基本装備一式が入っている。まとめて吐き出してしまうから、展開は部屋に帰ってからをお勧めする。空になった≪タグ≫は好きに使うと良い」

「え、くれるのか!?」

「都市では割と一般的なツールさ。安い物ではないが、迷惑料もかねて一つくらい快く進呈しようじゃないか」

 半ば放るように手渡された≪タグ≫を、俺はついじっくりと見てしまう。

 考えてみれば、この世界由来のものを手に入れたのはこれが初めてだ。あのナノマシンや≪リンカー≫は貰ったというより押し付けられたに近いのでノーカンだ。

 うーん、何だか感慨深い。

 今すぐ試してみたい衝動に駆られるも、注意された手前なので自制する。フューリーの言ではないが帰ってからのお楽しみにしておこう。

「それでは失礼する。君たちも引き続き、案内を頑張ってくれたまえ」

「は、はい!」

「了解っす!」

 最後にラッドたちをひとしきりビビらせて満足したのか、フューリーは特に後を引くことなくするりと部屋の中へ戻っていく。


 しばしの沈黙の後、二人はドッと息を吐き出した。

「びっくりした……」

「危うくショック死するとこだったぜ」

「流石に緊張しすぎじゃないか? 話してみれば案外面白い人だぞ」

「いやいやいやいやいや! あの人は実際ヤバい。つーか容赦がない。笑顔で『今回は死んじゃうかもね?』とか言って実験させてくるとことかマジでヤバい」

「あなた、よく室長とあんな気安く喋れるわね。局の偉い人ですらあの人には頭が上がらないのよ?」

「んなこと言われてもなぁ……」

 尊敬と畏怖が半々の視線を浴び、つい頬を掻いてしまう。

 俺の中でのフューリー像は、滅茶苦茶頭は良いけど人間的にはだいぶ残念な人物として固まってしまっている。やらかすことの規模は違えど、ちょくちょく子供っぽいのだ。

 根っこの部分ではそれなりに善人であることも確認済みだし、あれだけ気安い態度をとった後で今さら畏まった態度を取るのもどうかと思った。

 

 集合時間を若干オーバーし、俺たちは待ち合わせ場所である実験棟の入り口まで少し急ぎ目で戻る。フューリーと長く話し過ぎたようだ。

 しかし彼女たちはまだいなかったので軽く雑談していると、工房の方からフィーダとノインが出てくるのが遠目に見えた。

 二人はこちらが既に集まっているのを見るなり、パタパタと駆け寄ってくる。

「すみません遅れました!」

「少々手こずった」

 荷物を置くだけなのに何を手こずるのだろうか。

 ラッドも疑問に思ったのか、率先して聞きに行った。

「オレらも今来たばっかだ。そっちでも何かあったのか?」

「それがですね。工房全体がバタバタしてたというか、物凄い緊迫した状態だったんですよ」

「小耳に聞いたところではフューリー女史の指示の下、新たな次元兵器の試験稼働とのこと。事実であれば、あの空気にも納得出来る」

「実験ってそのことだったのか。そこまで気を張るってことは、やっぱり危険なもんなのか?」

 実験棟や工房が本棟から離れた位置にある理由はエレベーターの中で話を聞いたが、具体的にはどれほどの被害が出るのだろうか。

 わざわざ同じ敷地内で一キロ近く距離を空けているのだから、軽く爆発してアフロになってお終いとは思えない。

 しかし尋ねられた面々の表情は芳しくなかった。

「さあ、どうなんだろうな。オレは失敗したとこ見たことねえし。ノインはどうだ?」

「右に同じく。四年ほどガーディアンを続けているが、局全体に知れ渡るような失敗はなかったと思われる」

「この中で一番古株のノイちゃん先輩が知らないとなると……ルナ先輩は何か知ってたりします?」

「どうしてその流れで私に振るのよ。私はノインの一年遅れなんだけど?」

「でもルナリアって確かハルチカと同じスカウト組だよな。オレらと比べて室長とも個人的に結構話してるし、昔の実験について何か情報ないのか?」

 ルナリアもフューリーにスカウトされた?

 初耳だった。まあ尋ねてもないしそりゃ当然なんだけど。

 礼を言った時の口ぶりからして意識が高そうだし、ラウンジで久道さんが作戦の終了を告げた時も一人だけ反省みたいなことしてたし、てっきり志願してのガーディアン入りかと思っていた。

 指摘されたルナリアは、記憶を掘り返すようにしばらく唸り、

「……そういえば室長が、一〇年くらい前にちょっと失敗して工房内で危うく小型のブラックホールが発生しかけたって、だいぶ前に言ってた気がする」

「ブラックホール!?」

 急にスケールが半端ないことになった。

 ブラックホールと言えば、有名な話として光すら逃げられないとか、星すら飲み込んでしまうとか。断片的な知識でもとにかくヤバいものだというのはわかる。

 ちょっと失敗しちゃった程度で地球上に発生したら問題だと思うんだけど気のせい?

 駄目だ、次元技術の底が見えない。

「迅速に対処したお陰で死者こそ出なかったけど、工房は丸ごと消し飛ぶわ実験棟も三分の一が削り取られるわで大変だったそうね」

「むしろよくその程度で済みましたね……」

「なるほど、ピリピリする訳だ」

「それにしたって、あの緊張状態は少々異常だった」

 ノインは若干納得していないようだが、俺は疑問に思わなかった。

 実用化出来た際のリターンの大きさは既に幾つか目の当たりにしているものの、聞く限りじゃ失敗した時のリスクがデカすぎる。冗談ではなく、ここでの失敗で世界が滅びかねない。

 そりゃ空気も張り詰めるだろう。注意しすぎるなんてこともあるまい。

 ……あれ?

 俺たち、実験を指揮してたフューリーと廊下で長々と立ち話をしていたけど、あれって大丈夫だったのかな。

 実験の途中って言ってたけど、もしかして話してた間は工房放置状態?

 あー、だからいつも以上に皆さん緊張していたと――

「どうしたハルチカ?」

「――っ!? いや、何でもない。それより腹減ってきたな。そろそろ昼時だし、飯食いにいかないか?」

「名案です! わたし実はだいぶ前からペコペコでした!」

「お、おう、そうだな」

 特に何も考えていなさそうなフィーダの後押しもあり、なんとか誤魔化せたようだ。ルナリアやノインの訝し気な視線は気付かなかったことにする。

 腹が減っていたのは事実だし、嘘をついてはいないので後ろめたいこともない。

 別に誤魔化す必要もなかったと思ったが、とにかくここは穏便かつ早急に工房の近くから立ち去りたかった。

 大丈夫だとは思うが、万一のことがある。

 一万分の一の確率とは言え、飛行機も事故る時は事故るんだから。


 ◇


 一度管理局の本棟へと戻り、局員用の食堂で昼食をとった。

 高校の学食と形式は似ていて、各自カウンターで注文した料理を受け取ってからレジで会計を済ませるといった感じだ。

 まあ、思ったよりも普通だったな。

 食堂へ入った時にメニューの情報が視界内に表示されたり、そこから選択してカウンターの前に立てば自動で注文がされるなど、細々とした部分は元の世界より進化している。

 しかし《タグ》や《ブリンカー》ほどの衝撃があったかと聞かれれば、ぶっちゃけそうでもない。

 ちなみに、ここでお金の使い方も覚えた。

 通貨の概念は都市が出来る前から全国で統一がなされたらしく、全て電子マネーだそうな。いちいち財布を持ち歩く必要もなく、会計の際は専用の端末に手のひらをポンと置くだけ。実にお手ごろだ。

 クレジットカードと違って使った分は即時引き落とされ、残高もしっかり表示される。自分で気をつけさえすれば、いつの間にか借金まみれになっていたなんて間抜けな事態にも陥らないだろう。

 肝心な料理のラインナップなのだが、こちらも俺の常識から逸脱したものは特に見られなかった。料理の説明欄には使用されている食材の産地までしっかりと記載されている。

 こういう未来風のSFで良くあるのが出所不明の謎肉や変な色の野菜であり、恐れを抱きつつちょっぴり期待していたので見事に肩透かしを食らった。

 注文したものは各人バラバラだったが、どれも地元で見慣れたものばかりだ。

 唯一の例外が、ノインが無心で啜り続けていた汁も麺も真っ青なうどん状の何かだった。

 試しに一口貰ったら、口一杯に広がるソーダ味。危うく吹き出しかけた。

 どうやら新商品だったらしい。

 日本人として相いれない味をしていたが、ノインは割と美味しそうに食べていた。

 一緒に味見させてもらってたラッドも渋い顔をしてたし、平行世界間で味覚のギャップはないのだろう。


 世話話を挟みつつの食事を終えた頃には一三時前となり、満を持して俺たちは都市へと繰り出すことになった。

 都市の大まかな構造は管理局を中心とした円形で、全体をAからFの六つに区分けしている。

 例えば俺が世界移動直後にいたのはA区で、B区と併せて生活エリアとも呼ばれている。住宅や商店といった、文字通り生活に関わるものが集中した地域だそうだ。

 エリアを横切る大通りはラインと呼ばれ、A・B区を合わせて九本。上から見て、扇形を一〇等分するように敷かれている。

 俺たちが向かうのは被害が比較的軽微だったらしいB区の八番ライン。公式文章等ではB-8と表記するそうだ。

 ラインまでは管理局の外周を周回しているバスのような乗り物で移動する。

 車輪の見当たらない車体は路面にピッタリくっついているのに、とてもスムーズに走っている。

 摩擦を感じさせない動きは外から見る分には面白かったが、実際乗ってみると揺れもしないし音もしないしで何とも言えない気分になった。

 移動の最中、区分けの話を聞いている最中に気になっていたことを尋ねてみる。

「同じ生活エリアで被害の差って大きく出るもんなのか?」

「単純な人口密度の差ね。一口に生活エリアと言っても、A区は住宅の割合が多いのよ。逆にB区は商業寄り。今向かってる八番ラインはモールになってるし」

「なるほど。朝っぱらじゃ店も開いてないし、外を出歩く人も少なかったんだな」

 大抵の店は早くても九時か一〇時くらいからの開業だ。こっちに来たのは九時前だったし、人がいなかったのも頷ける。

 目的の停車駅までは五分程度で着いた。そこから少しだけ歩いて管理局の出口にあるゲートをくぐれば、そこはもう八番ラインの端だった。

 最初に見たA区の街並みは飾り気がないというか無機質な印象を受けたが、今目の前に広がっている景色は随分と趣きが違っていた。

 建物の殆どは客の目を引くためか、ネオンに似たカラフルな看板を掲げている。道幅自体もA区のラインと比べてかなり広く、遠くの方には噴水みたいなものまで見える。少し上の方へ視線をずらせば淡い水色のクリアな屋根がラインを覆っていて、陽光を程良い塩梅に透き通らせている。

 用いられている技術に多少の違いこそあれど、全体的な雰囲気は俺の知るショッピングモールに通じるものがあった。

「あんなことがあった後の割には、結構賑わってるんだな」

「変異体の襲撃なんて世界的に見ても日常茶飯事だもの。外に比べれば、都市は全然マシな方よ」

「へぇ、それはまた逞しいことで……うぉあ!?」

 店の並ぶ通りに足を踏み入れると、途端に大量の広告が視界を埋め尽くした。

 パッと見で用途のわかる道具から何に使うのか見当もつかないアイテムまで、統一感のまるでない画像の大群に圧倒される。

 地味にどの広告も日本語なのは、自動翻訳でも働いているのだろうか。

「ちょ、これ消しても消してもキリがないぞ!?」

「あーわかりますその気持ち。わたしも初めてここ来た時は大変でしたよ」

「初心者あるあるだな。広告系の情報はフィルターかけないと都市での生活に支障をきたすぜ?」

「今まさにそうなってるとこだよ!」

 操作もままならないまま、何とかメニューから視覚投影情報の一括クリアを選択。広告の壁が消失し、ようやく前が見えるようになった。

 ふー焦った。

 こんなに焦ったのは、昔パソコンで変なサイトを開いて大量のウィンドウが出まくった時以来だ。

 あの時は小学生だったから消したら倍に増えるウィンドウの前になす術もなく、泣きながら親を頼ったものだ。

 きっと分不相応にエロサイトなんて見ようとしたガキに罰が下ったのだろう。

 だがしかし。

 無知なクソガキも今となっては高校生。

 いや、元高校生か? まあ、んなことどうでもいい。

 完全な大人とは言えないものの、ある程度ネット社会の酸いも甘いも噛み分けてきた俺ならば、もうあんなミスは犯さないのだ!

 ……こっちの世界だと、そういうコンテンツってどんな風になってんだろ。

 今度ラッドに聞いてみよう。

 流石に女子がいる前で聞くのは気が引けた。

「買う物は決まってるの?」

「えーっと、そうだな」

 ルナリアに問われ、俺は先ほど久道さんから送信されたメールから備品リストを開く。

 テレビや冷蔵庫といった良く知るものは言わずもがな、たまに現れる知らない名前の道具に関しても簡単な注釈が載っているのでわかりやすい。

 久道さん様様だ。

「生活に必要な最低限の家電は一揃いありそうだから、あとは店を見つつ適当にかな。あとは消耗品を買い溜めときたい」

「なら時間もあるし、通りの向こうまで見て回りましょうか。お金は大丈夫?」

「ああ、問題ない」

 昼食の会計を済ませた時に残高を確認したが、飯代を五百円前後と仮定すると結構な額が準備費として振り込まれていた。

 具体的には、最新の据え置きゲーム機を一〇台以上買ってもお釣りがくるくらい。

 宿舎はガーディアンなら無料で使えるそうなので家賃の心配もなく、懐には結構余裕がある。

「ついでだし夕飯もここで食っていくか。新任祝いとしてハルチカの奢りでな!」

「奢る側が逆じゃね普通!? てか何が悲しゅうて男に奢らにゃならん!」

「あら、じゃあ私たちには奢ってくれるんだ」

「マジですかハルさん神ですね!」

「流石トモノエ・ハルチカ。軍人の鏡である」

 この子らも調子いいよねホント!

 しかも俺は軍人じゃない。ガーディアンは軍属じゃないから。

 でも、この流れはマジで奢る流れか。

 しゃあない。案内してもらった恩もあるし、一食くらいなら問題ないだろう。

「今日だけだからな……あとラッド、お前は自腹だから」

「何故に!?」

 そんなやり取りをしつつ、俺たちはモールの中をゆっくりと進んでいく。

 全てを見回る頃には、日もだいぶ暮れていた。


 ◇


 モール内で必要な買い物を終え、夕飯も済ませるとすっかり夜である。

 俺たちは八番ラインの入り口付近で解散し、各自帰路についた。

 フィーダとノインは後回しにしていた装備の整備をするために工房へ、ラッドはA区にある自宅へ向かうために例のバスみたいな乗り物で去っていった。

 今日一緒に行動したメンバーの中で、唯一ラッドがこの都市で生まれ育ったらしい。店の案内は殆どあいつがしてくれたのだが、通りで知り尽くしていた訳だ。

 他のメンバーについても、レストランで夕飯を食べながらそれぞれの出自を聞いた。

 ノインは四年前に元軍人の父に連れられて都市を訪れ、そのままガーディアンに。フィーダは都市の先進技術に惹かれ、自らテスターとなるべく来訪。二人とも俺と同じ宿舎に住んでいるそうだ。

 そして、ルナリアは――


「どうしたの?」

 不意にかけられた声に、思索にふけっていた意識が現実へと戻る。

 数歩離れた先には、不思議そうな表情で立ち止まりこちらを振り返るルナリアがいた。

「い、いや。少し考え事を」

「ふぅん。まあいいわ。ぼーっとしてないで早く行くわよ」

「……」

 どうしてあっちが先導する形になっているのだろう。

 自分がぼーっと突っ立っていたからなのだがどこか釈然としない。

 とは言え無駄な反骨精神を発揮する気もなく、俺は急かされるまま彼女が向かう先――管理局の本棟へと歩を進める。

 元々、あそこへは一人で行くつもりだった。

 しかし別れ際にそのことを話したら、ルナリアが「私も行く」と言って勝手に残ってしまったのだ。

 断る理由も思いつかず、かと言って既に発車していたバス的な何かを停めることも出来ず、なし崩し的に同行を許すことになってしまった。

 別にルナリアがいて困るということはないのだが、こういうのは自分の柄じゃない気がして恥ずかしかったのだ。

 俺は現在、小さな紙袋を一つだけ手に提げている。

 生活必需品のまとめ買いをした割にはかなり少ない荷物だが、モールの商店には自宅へ配送ならぬ、自宅へ転送サービスがある。

 宿舎の方に直接送ってもらったため、移動中に手荷物が増えることもなく実に快適な買い物だった。

 むしろこういった工夫を凝らすことで顧客の財布の紐を緩めているのだとしたら侮れない話だ。

 俺とルナリアは本棟へと入り、エレベーターに乗り込んで五〇階を目指す。

 上昇している間は、他愛のない雑談の時間だった。

「夕飯の時もそうだけど、ノインってゲテモノ好きなの?」

「というよりは、単に新しい物が好きなのかも。あの子ってガーディアンとしてのキャリアは私たちより長いけど、やっぱりまだ子供だし」

「好奇心が旺盛ってことか。にしたってコーラ味のカレーは無いだろ。色に騙されたフィーダが一口貰って吹き出してたぞ」

「そもそもあの手のメニューって誰が考えてるのかしら……」

「フューリー室長……てのは流石に疑りすぎか。まあいつの時代にも挑戦的な発想の持ち主はいるんだな」

「春近って、結構な頻度で年寄り臭いこと言うわね」

「気のせいだって」

 地元。つまりは元の世界と比較しての発言なのだが、文明レベルの違いからどうしても過去との対比みたくなってしまうのは困りものだった。

 今日一日の俺は、傍から見ればジェネレーションギャップに驚かされる老人みたいな感じだっただろう。

 あんまり田舎者扱いされるのも面白くないので、しばらくの間、空いた時間はこの都市や世界についての情報を集めるのに使うべきかもしれない。

 そんなことを考えている内に、エレベーターは停止していた。

 開いたドアからルナリアが先に出て、俺はその後に続く。

 昼に外へと出る際に使ったのとは別のエレベーターだったので、ここからの道は俺もよくわからならかったのだ。結果的には土地勘のあるルナリアがいてくれて助かっていた。

 三つ編みで一本にまとめられたおさげが左右に揺れるのを無意識に目で追っていると、俺はふと気づく。

 よくよく考えてみれば、今の俺って女子と二人きりだったな。

 その場の流れでこうなった上にこの後色気のあるイベントがある予定もないのだが、事実としてそうである。

 しかも、相手は金髪碧眼の美少女だ。

 俺はどちらかと言えば、初対面の女子に対しては緊張する方だった。打ち解けてしまえば普通に話せるが、最初の方はやはり反応を伺いがちになる。共学の中学に通っていたのに男ばかりとつるんでいたらこうなるという悪い例である。

 だが、エレベーターでルナリアと会話していた時の俺は至って平静。

 それこそ、普段男友達と喋っているのと変わらない気軽さだった。

 失礼な話かもしれないが、彼女を女子として認識していないという訳ではないのだ。話題だってちゃんと選ぶし、可愛いなとも思う。

 しかし意思とは無関係に心の底から来るような、異性に対して抱く本能的な感情が不思議と湧いて来なかった。

 自分のことなのに、どこか他人事のように捉えているような。

 自己を客観的に、俯瞰的な視点で見ているような、そんな気が。

「……考えすぎかな」

 頭を軽く振り、気分を切り替える。

 俺は心理学なんて齧ってないし、いくら考えたって答えなんか見つけようがない。

 今の時点で別に不都合がある訳でもないし、何より今向かっている場所に辛気臭い面で入るのは良くないと思った。

 きっと今日は色々ありすぎて疲れているから、そんな気持ちにもなれなかったのだろう。

 取りあえず、今はそれでいい。

「着いたわ。部屋の番号はここで合ってるの?」

「ん、ああ。ここで間違いない」

 俺は昼前にフューリーから予め聞いていた、この部屋に案内してくれるようルナリアに頼んでいた。一人なら地図を見ながら来ていただろうが、たぶんそれよりは早く着いただろう。

 本棟五〇階の、五〇二七号室。

 ドアに表記されている番号と記憶にある情報が合致していることを再度確かめ、軽く三回ほどノック。

「……失礼します」

 数秒待って全く応答がないことを確認してから、俺はルナリアに先んじて部屋の中へと踏み込んだ。


 室内は、俺がフューリーや久道さんと対面した部屋と大差ない造りだった。

 白い壁に白い天井。薬品の匂いが微かに漂う。飾り気のない、病院の一室みたいな部屋。

 違いを述べるとするならば、部屋の真ん中に置かれたベッドには俺ではなく一人の少女が寝かされていること。

 ベッドの周りにはバイタルを測定するための器材が雑多に置かれていて、その全てが彼女と繋がり単調な電子音を鳴らし続けていること。


 そして。

 少女は――シアは、一向に目を覚ます気配がないということ。

「本当に眠っているみたいね」

「そう、だな」

 来訪者が来ても微動だにしない少女の表情を改めたルナリアが呟き、俺はそれに同意する。

 フューリー曰く、外傷の方は既に完治済み。出血量は危険域にあったものの、脳に障害が残ることもないようだ。

 現に心拍数も脳波も安定していて、穏やかな寝息を立てるシアの表情に苦痛の色は見られない。

 危篤状態からは程遠く、本当にいつ目覚めてもおかしくない体調である。

 なのに、彼女の意識は回復していなかった。

「どうして目を覚まさないんだろうな」

「わからない。私も医学についてはさっぱりだから」

 ルアリアに答えを求めても仕方のないことだったが、問わずにはいられなかった。

 シアが助かったことは、俺にとって非常に大きな意味を占めている。

 俺が一度自暴自棄になりかけ、そこから立ち直れたのはシアが生きていたからだ。

 彼女の命を救えたことにこの世界へ来た意味を見いだせたからこそ、俺はこの世界で前を向いて生きようと決心出来た。


 もしこのままシアの意識が戻らなかったら、俺はどうなる。

 このまま死んだも同然に眠り続けてしまうのだとしたら、俺がしたことに意味なんてあったのか。

 ……それに仮に目覚めたとしても、シアの両親は亡くなっている。フューリーは彼女次第だと言っていたが、シアはまだ中学に上がるか上がらないかくらいの子供だ。自分のことに全ての責任を持つには早すぎるんじゃないか?

 これは平和な世界で生きて来たからこその発想なのかもしれないが、それでも考えずにはいられない。

 もし目覚めなかったら。

 でも目覚めたとして、シアが現実に絶望してしまったとしたら。


 ――っておい俺。

 今、何考えた?


「春近」

「……何だ?」

「何だじゃないわよ」

 ルナリアが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 声をかけられるまで気が付かなかった。

 ただし、気づいたことは別にあった。

「凄い深刻な表情だったけど、どうかしたの?」

「別に」

 問いかけに対し、俺は昏く嗤う。

 さっきまでの俺だったら「何でもない」の一点張りで誤魔化していただろう。

 今はそんな気になれなかった。

 と、言うよりは。

 そんな心の余裕がなかったと言うべきか。

「自分の馬鹿さ加減に、心底愛想が尽きただけだよ」

「……」

 沈黙するルナリアへ、俺は黒い感情を垂れ流し続ける。

 一度考えだし、喋りだしたらもう止まることはなかった。

「一人の命を救ったと言われて舞い上がって、勝手にそこへ意味を見出してさ。意識が戻らなかった無意味だなんて勝手なこと考えた一方で、起きた時に何を言われるのかを勝手に恐がってる」

 勝手勝手勝手。

 どこまも身勝手。

 相手の生に執着しておきながら、同時にそれを恐れる。

 そんな感情の揺れ動きが、あまりにも醜くて愚かだ。

 正面に立つ相手の真っすぐ見通すような視線に耐え切れず、数歩引き下がると背中が壁とぶつかった。

 そのまま力が抜けたように、ズルズルと俺は座り込む。

「とんだ屑野郎だよ、俺は」

 お見舞いと称してここに来たのも、ただの自己満足でしかない。

 相手に意識がないと知っていたから、平気な顔をしてここまで来れた。

 意識が戻っていたとして、それをわかっていたら果たして俺はお見舞いになんか来ただろうか。

 糾弾される心配がないのをいいことに、シアを気遣うことで自分に価値があると思い込みたいんじゃないのか?

 ルナリアの同行に難色を示したのも、後ろめたい気持ちを相手に悟られたくなかったからじゃないのか?

 いつしかのように冷徹な言葉を投げかけてくる自分に対し、返す言葉もない。

 突きつけられているのは、どうもしようがない己の真実だ。

 ただ一方で、どうして突然こんなことになったのかが理解できなかった。何故今このタイミングで、このような考えがいきなり浮かんで来たのか。

 わからない。今の自分はあまりにも大きく揺れすぎていて、まともな答えに辿り着けない。

 もはや語るべき言葉も失い俯いたまま、断罪を待つ罪人が如くルナリアの返事を待つ。

 罵倒されるだろうか。言葉をかける価値すらないと立ち去られるだろうか。

 どちらでも構わない。

 どちらにせよ、今の自分には相応しいと思った。


 だから、

「良かった」

「――は?」

 心の底から安心したようなルナリアの声に、俺は耳を疑う他なかった。

 恐々と顔を上げれば、一人の少女が優しく微笑んでいる。

 どうしてと問う前に、ルナリアが口を開いた。

「今日一日。それこそラウンジで最初に挨拶して来た時から、何となく無理をしてるような気がしてたから。本音が聞けて、正直安心してる」

「嘘、だよな?」

「こんな時に嘘をついてどうすんのよ。それに私だけじゃないわよ? みんな、一目で春近が危なっかしい状態だったことに気づいてた。ノインがあんな冗談言うとこなんて初めて見たわ」

 ――最初の挨拶のあれ、冗談だったのか。

 あまりにも真顔で言うもんだから、本気でそう思ってるのかと。

 しかし、そういうことか。

 どうにもみんな、俺を受け入れるのが早すぎるとは思っていたのだが。

「俺、そんなに酷かったのか」

「誤魔化せてるつもりだったのなら落第点ね。敢えて指摘はしなかったけど、笑う度に一瞬顔が引きつってたわよ」

「恥ずかしすぎるなそれ。気づいてたならもっと早く言ってくれよ、意地の悪い」

「茶化さないの。……ねぇ、どうしてそんな寂しそうにしてるの?」

「俺、そんな顔してたのか?」

「朝からずっとよ」

「……酷いな、本当に」

 それとも、俺が筒抜けなだけなのか。

 何にせよ、向こうに退く気はないようだ。

 いいだろう。どうせこれ以上かっこ悪くなりようがないんだ。

 腐った心根を全て、ここでさらけ出してしまおう。


「全部、まやかしだったんだ」


「家も両親も友達も何もかも失って、それでも俺が生きている意味はあると思ったんだ。死にかけてた女の子を助けることが出来て、もう戻れないってわかってもここに来た意味はあったんだと思った」

 偽りのない事実だ。

 久道さんからかけられた言葉は俺にとって一つの救いだったのだ。

 だが、それはシアにとって救いになっていたのだろうか。

「けどそれって、結局はただの自己満足じゃないのか? 俺が勝手に、そう思いたかっただけじゃないのか?」

 堰を切ったように言葉があふれた。

 ろくに整理も出来ていない言葉が、そのまま舌の上を滑っていく。

「少なくともあの子はそんなこと頼んじゃいなかった。最後まで両親と一緒にいたかったはずなんだ! あの時の選択は間違っていたのか? 本当は助けてなんて欲しくなかったんじゃないのか? だったら俺がしたことなんて何の意味もないじゃないか!? 俺がここにいる意味も、生きてる意味も……!」

 もはや言っていることが支離滅裂だ。

 実際のところ、シアは俺に対し一言も言葉を発していない。

 なのに聞いたような気がするという理由だけで断言してしまうのだから、俺はもう駄目かもしれない。

 泣きたいくらいに惨めなのに、涙は一滴も零れない。

 まるで機能を失ったかのように涙腺は冷え切っている。心ばかりか、遂に身体機能まで壊れたのか。

 もう、限界だった。

「なぁ、ルナリア」

 俺は。

 決して言うまいとしていたその言葉を。

 こともあろうに、この世界に生きる人物へ向けて発した。


「この悪夢は、いつになったら覚めるんだ?」


 静寂が包む室内に、ただ計測機械から規則正しく発せられる電子音のみが響く。

 言ってしまってから、途轍もない後悔の念が押し寄せて来た。

 どうしてあんなことを言ってしまったのか。

 この部屋に入ってから、不自然なまでに心が不安定だった。本来は言おうとも思っていたなかったことを、頭に浮かんだ先から声に出していた。

 まるで、封じ込めていたものがあふれたかのように。

 問い自体がルナリアからすれば意味不明だが、俺からすればそれ以前の問題だ。

 他の世界から乗り込んできた異物の分際で、彼女たちが生きる世界を言うに事欠いて悪夢と表現するなんて。

 謝罪することすらままならず、いたたまれなくなった俺はルナリアから目を逸らした。

 どこまで矮小な人間なんだろう。

 でも、これが俺の真実だ。

 たまたま超常現象に巻き込まれただけの、何も特別でもない一般人のくせに。

 住む世界が変わったからと言って、一体何を出来るつもりでいたのだろうか。

 ……今度こそ、見放されるだろうな。


「私は三年前。一四歳の時に、両親と一緒にここ――アクシスに来たの」

 不意に、ルナリアがそう切り出した。

 彼女の意図が掴めず、思わず指摘する。

「それ、さっき聞いた気がする」

「理由までは話していないでしょ」

「……」

 確かに、そこまで踏み込んだ話はしていなかった。

 他人の過去に土足で踏み入る趣味はなかったし、自分から話さないのであればそれでいいとも思っていた。

 だが、何故今更それのことについて話す必要があるのだろうか?

 ルナリアが何を考えているかはわからないが、俺は視線を彼女の方へと戻し聞く態勢を作った。

「元々、私たちは合衆国で暮らしていた。お金持ちでも貧乏でもない普通の家庭だったけど、家族三人でそれなりに幸せな生活をしてたと思う」

 合衆国って、アメリカのことなのだろうか。

 この世界では日本が東京と呼ばれていたりと、微妙に国家の枠組みが異なっている。

 ルナリアはどう見ても西洋系の風貌だし、あながち間違ってもいないだろう。

「ママは昔から心臓が悪かったんだ。それでも苦しそうな素振りなんて少しも見せなかったし、私が一四になるまでは薬で誤魔化せてたんだけど……ある日突然、容体が急変してしまったの」

「でも、シアを治療したみたいなナノマシンでの手術なら」

「ええその通りよ。でも私たち家族には、ナノマシン手術にかかる膨大な治療費なんて支払えなかった」

 不治の病とされていた疾患の殆どを僅かな期間で快復させるナノマシン手術は、医療用ナノマシン自体の製造コストの高さから凄まじい額の治療費を請求されるらしい。

 少なくとも、三人で慎ましく暮らしていた一家が家財の全てを投げ打とうが、その十分の一すら満たせないほどには。

 借金をするにしても、それだけの額を貸し出してくれる組織は合法非合法問わず存在しない。

 それでも母の命を諦めきれずにいたところへ、一通のメールが届いた。

 差出人の名は、フューリー・バレンタイン。

 彼女はその文面にて、アクシスに務める科学者であると自らの身分を明かした。

「最初は悪戯かと思って消そうとしたんだけどね。読み進めていくと家族構成とかママの病気のこととか、融資を拒否した裏の金融機関の一覧まで全部書かれてた」

「あの人の情報網どうなってんだよ……」

「本当にね。当時は私も恐くなったんだけど、その後にこう書いてあったの」

 ――ある条件を飲んでくれれば、君の母上の治療を承ろう。

 そこから綴られていたのは、条件に関する細かい規定だった。

 ルナリアが臨床技術試験員――ガーディアンとしてフューリーに雇用される。

 仕事には命の危険が伴う。

 身柄は都市に縛られるが、望むのであれば家族も都市に移住が許される。

 そして、

 契約そのものの対価として、フューリーは母親の治療を確約する。

「パパは危険だって反対したけど、私は一も二もなく飛びついた。メールが来た時にはもうママの意識は殆どなくて、一刻も早い治療が必要だったから」

 ルナリアの必死の説得もあり、最終的には父親も承諾。

 メールに添付されていたゲストコードを用いて合衆国の転移ゲートを通過し、一家は遂に噂だけに聞いていた都市を訪れた。

 彼女たちを出迎えたのは、今よりも三年分若い頃の久道さんだった。その頃から苦労人としての片鱗を見せてた彼に案内され、管理局本棟の一室にてフューリー本人と初めて対面する。

 ルナリアが彼女に抱いた第一印象は、俺と概ね変わらなかった。相手を観察するようにねめつけ、一方的に話したいことを話す性格は今も昔も変わらないらしい。

 一頻り捲し立てたフューリーは一度だけルナリアの意思を確認した後、すぐに母親の治療へとかかったそうだ。

 使用された最新型ナノマシンの値段は、ルナリアの父親が五回生まれ変わっても払いきれない金額だったらしい。

「パパは値段を聞いて卒倒しかけてたけど、その分効果は覿面だったわ。あんなに死にそうだったママが次の日には見違えるように元気になってて、家族みんなで泣いて喜んだのを覚えてる」

 母と父はそのまま都市に住まうことになり、ルナリアは契約通りガーディアンとしての活動を開始した。

 最初は命を伴うという文言が脳裏をチラついていたが、突然変異体との戦闘に放り込まれるようなことはなかった。

 先輩であるガーディアンたちは親身になってルナリアを指導してくれて、フューリーとの実験に関しても安全には充分配慮されたものだった。ルナリア自身の才能もあり、次元技術をものにするまでそこまで時間はかからなかったらしい。

 何より、自分よりも小さい子供でありながら変異体と真っ向から立ち向かうノインの存在が大きかったようだ。

「都市の外壁に近寄る変異体を駆除して、たまに室長の実験に付き合って。仕事がない時にはノインたちと遊びに行ったり、家族と三人で過ごしたり。あっという間に半月が過ぎた」

 ルナリアは懐かしむように、過ぎ去った日々について語る。

 都市の随所で見られる次元技術の数々に家族全員で驚いたこと。

 最初の迎撃戦で、瑞葉さんとミハイルさんの連携に見惚れたこと。

 出会ってから一週間経って、初めてノインがフルネームではなく「ルナ」と呼んでくれたこと。

 初めて自分の力で変異体を倒した時、久道さんが褒めてくれたこと。

 フューリーが自分のためだけに、専用の武器を作ってくれたこと。

 彼女から語られるのは、どれも美しい思い出だ。

 美しい、思い出だった。

「今、ご両親は?」

「死んだわ」

 無神経にもほどがある質問に対し、ルナリアはあっさりと答えた。

 いっそドライとも言えるその態度こそが、この世界の現実を表しているようだ。

「都市に来て二度目の防衛戦で二人とも殺された。私が最初に参加した防衛戦から三日後だったから、運が悪かったとしか言いようがないわね」

 周期外れの変異体の出現。

 フューリーの言っていたことがフラッシュバックする。

 確かあれも、最初の出現から三日後だった。

 つまり、ルナリアの両親もその時に。

「……ごめん」

「謝る必要はないわ。都市に限らず、今の世の中では良くあること。あなたもそうなんでしょ?」

 ルナリアの言葉に、俺は俯くしかなかった。

 違うと、声を大にして言えたらどれだけ楽だろうか。

 俺の両親や友達は、死んだ訳ではない。

 二度と会えないが、彼らが生きていることを俺は知っているのだ。

 シアやルナリアのような悲劇なんて俺にはないのだ。

 しかし、そのことを話すには俺が転移者である事実を避けて通れない。

 今更隠す必要があるのかと思いさえするが、いざ話そうとすると声が出なかった。

「ママを助けるために都市へ来てガーディアンになったのに、でも結局ママもパパも死んじゃった。春近は、私がしたことに意味があったと思う?」

「そんなの――! 俺に、とやかく言う資格なんてないだろ……」

「そうね。私もそう思う。だから、春近のやったことに意味があったかどうかなんて、私にも言う資格はない。でもね」

 ルナリアは屈みこみ、見下ろすのではなく真っすぐ俺を見据えて。

 毅然と、叩きつけるように。


「私は、自分のやったことに意味がないとは思わない」

 はっきりと断言する。

「ここに来たことで得られた家族との時間はかけがえのないものだったし、仲間たちと今日まで過ごしてきた時間だって楽しいことは沢山あった。今の生き方に意味がなかったなんて、誰にも言わせない」

「……だけど、俺には何もないんだ。ガーディアンとして守るものも、目的も」

 あの時は二度と会えない家族に胸を張れる生き方がしたいと思い、この道を選んだ。

 だがそれも結局、都合のいい解釈にすぎないんじゃないか。

 ここでどんな生き方をしようが、別の世界にいる二人には何の意味もないのに――

「なら、これから増やしていきましょう」

「――え?」

 再び負の思考に沈みかけた俺を、あっけらかんとした言葉が引き上げた。

「何もないなら、これからいくらでも見つければいいじゃない。意味も目的も、生きていればいくらでも見つかるわ。持ちきれなくなったら、みんなで分け合えばいいし」

「で、でもシアはどうなる。もしあの子が――」

「知らないわよ! それこそあの子の勝手でしょうが!」

「ちょ――!?」

「ああもう、男のくせにいつまでもウジウジしてんじゃないわよ! お見舞いに来た人間の方が死にそうな顔してたら世話ないじゃない。ここは葬式会場じゃないのよ!?」

 突然烈火のごとく怒りだすルナリア。

 苛烈な言葉に俺は絶句した。

 誠に身勝手ながら、俺を励ましてくれる流れかと思っていたのに……。

 酸欠の鯉よろしく口をパクパクさせてる俺を見かねてか、ルナリアは特大の溜息をつき。

「大体ねぇ、春近がどうしてシアちゃんに対してそこまで卑屈になってるのかは知らないけど、意味がどうとかそんな下らないこと気にしてる暇があったら」


「その子が目覚めた時にこの世界も捨てたもんじゃないって思えるくらい……まずあなたが幸せに生きなきゃ駄目じゃない!」


 ガツンと、頭をぶん殴られたような衝撃が走った。

 いや実際、後頭部に物理的なダメージを受けたのは確かだ。

 情けない話、ルナリアの語気に押されて微妙に壁から浮かせていた頭を思い切り引いてしまったのだ。

 だがそれ以上に、心に響いた。

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

 結構凄い音がしたからか、無言でうずくまる俺の近くでルナリアがオロオロしたような声を上げていた。

 直前までの毅然とした態度なんて霧消していて、そのギャップがあまりにもおかしくて俺は思わず、

「――っは、ははは!」

「えっと、頭打っておかしくなった?」

「い、いやまあ、うん。むしろ、一周回って正常に戻った感がある」

 痛みと笑いを必死に堪えつつ、俺はゆっくりと立ち上がった。

 一緒に立ったルナリアの脇を通り抜けて、ベッドで眠るシアの傍らへと移動する。

 近くで見てみると、本当に眠っているだけのようだ。

 俺は左手首に提げっぱなしだった紙袋から、B-8の気が滅入るほどファンシーな店で買ったそれを取り出し、そっと枕元に置いた。

 お見舞いの品にクマのぬいぐるみなんて、流石に子供扱いしすぎだろうか。

 でも女子のニーズに疎い男子高校生の発想力ではこれが限界だった。

 

 ――だから、代わりと言っては何だが。

「目が覚めたら、話をしようか」

 いつになるかはわからない。

 ならいつ目覚めても良いように、話のタネはどんどん増やしていこう。

 それこそ自分では抱えきれないくらい。

 仲間たちと一緒でなければ話しきれないくらいに。

「……悪いな、心配かけて。他の人たちにも会ったら謝っとくよ」

 背を向けたまま、俺はルナリアに声をかける。

 すると帰ってくるのはある種予想通りの反応だった。

「べ、別に謝ることないわよ。私はただ、辛気臭い顔でウロチョロされたら全体の士気にかかわると思っただけなんだから」

 謝罪に関しても、やはりルナリアは固辞するようだ。流石ツンデレ。

 しかし、何だろうな。

 今日会ったばかりなのに、面倒見の良さが半端ない。

 誰に対してもこういう態度なのだろうが、厳しくも優しいこの接され方にはどこか懐かしさを感じる。

 そうか。

 ルナリアって、

 

 「ルナリアって、俺の母さんみたいだな――あ」


 心の中で思い浮かべていた言葉を、気づけばそのまま口に出していた。

 失言した! と思ったのもつかの間。

「……へぇ?」

 ギギギ、と。

 音が鳴りそうなぎこちなさで振り返ると、とても素敵な笑顔のルナリアがそこにいた。

 人の笑顔とはこれほどまで人に対し恐怖を覚えさせるものだっただろうか。

 そういえば昔読んだ漫画の名言で、こんな感じのがあった。

 笑うという行為は、元々攻撃的な意味合いを持っていたと――

「ねぇ春近」

「ひぃ!?」

 もはや返事とも言えない悲鳴だったが、ルナリアは構わず一歩距離を詰めて来た。

 一歩、一歩、また一歩。

 背中に軽い衝撃。壁際に追い詰められた。逃げ場がない。

「誰が、誰の、お母さんですって?」

 距離――ゼロ。

 未だかつてないほど女子に近づかれた俺が抱いた感情は、喜びでもなければ羞恥でもなく。

 ただ純粋な、恐怖だった。


「ちょ、ま、待って! 違います違うんですこれは言葉のあやというか決してルナリアが所帯じみてるとかそういう意味で言ったんじゃああああああああああああああああああああ――!!」


 この後何が起きたかは、俺の名誉のために伏せておく。

 余談だが、この時眠っているシアの眉間に若干皺が寄った気がするんだが……。

 まあ、気のせいだろう。

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