次元都市アクシス

七夜

01 終わりと始まりの世界

プロローグ

 あれは、よく晴れた日だったのを覚えている。


 携帯電話のアラームに叩き起こされて、母さんが用意してくれた朝飯を食べて、一足先に仕事へと向かう父さんを見送り、その三〇分後に俺も制服に着替えて家を出た。

 家から学校までは歩いて一五分程度。歩き続けて一年以上が経つ通学路を歩きつつ考えていたのは、朝のHRの前に友人たちとどんな話をするか。詳しくは思い出せないが、健全な男子高校生の話題と言ったら十中八九下ネタに違いない。

 その日も俺は、さして特筆すべきこともないことを考えながら登校していたはずだ。

 毎日繰り返してきた、飽きる飽きない以前に当たり前な日々を過ごしていた。

 特別なことなんて無くても、充分に充実した日々を。


 ――きっとそれは、この上なく幸福なことだったのだろう。


 通学路を半分ほど歩いた頃だったか。

 住宅地の朝は静かで、聞こえてくるのはせいぜい鳥の囀りか風の吹く音くらいだ。

 しかし、頭上から鳴り響いたのは〝叫び〟だった。

 耳をつんざくような甲高い〝叫び〟は、不思議と鼓膜を刺激することはなく、直接脳に浸透していくようだった。

 そこにどのような感情が込められていたのかは、今でもわからない。

 当時の俺は尋常ならざる現象にただ狼狽し、〝叫び〟の発生源を突き止めようと空を見上げたのだ。


 結果から言ってしまうと、その時は〝叫び〟の正体を掴めなかった。

 その代わりに、目にした。

 文学的な表現ではなく、ただ厳然たる事実として。

 俺の頭上で、空が割れていた。

 雲一つない青天井に、蜘蛛の巣のように走った無数の亀裂。

 理解を超えた現象に立ち尽くす中、重圧に耐えかねるようにそれは空全体をあっという間に覆いつくし。

 ガラスが砕けるような音と共に、俺の意識はプツリと途絶える。

 

 これが俺――友柄晴近とものえはるちかに残された、元の世界での最後の記憶。

 次に目覚めた時、俺は全く見知らぬ場所で立ち尽くしていたのだ。

 この日、俺は全てを失った。

 文字通り、跡形もなく。

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