さかさ セカイ

@momonohana_

第1話

ボクは努力家だ。


自分で言うには恥ずかしいことだろうけど、これは間違いないことだから、胸を張ってもいいと思う。


高校二年のボクは、小学生からずっとしていることがある。走ること。

走ることは単純だろう、手を振り、足を動かす。しかし、プロの世界となるとそれは別だ。コンマ一秒の違いで、勝ち負けが決まる。それがボクにとっての 走る こと。


これにおいてはボクは今までずっと一番だった。

「サカイ速いなー!」

「流石サカイ君だね!」

走ることについてはボクは、ずっとちやほやされて生きてきた。

これは走ることに関心の無い、特になんとも思ってない人からすればまるで、小学生で時間の止まっているような幼稚な奴と思われるだろう。でも、ボクにとっては大事なもので、かけがえのない、ボクを肯定するにはとても重要なものだった。

だから、キミとの出会いはボクにとっては最低なものだった。今まで生きてきた中で味わったことのない屈辱。苦くて、ドロドロしてて、嫌な気分で、なんとも形容しがたいものだった。


「君サカイ君?速いね。走るの、好きなの?」


高校一年の春、クラス堂々の速さで50メートルを走った彼女はボクにそう尋ねた。


「あぁ、好きだよ。でもセカイさんの方が俺より速いじゃん羨ましいよ。」


少しほんの少しのつもりの皮肉を混ぜてボクは彼女に言った。そしたら、彼女はボクが一番言ってほしくないことを、笑顔でまるで夏の太陽みたいに眩しい笑顔で言った。


「でも私走るの嫌いだもん。」


ボクはここで彼女を セカイハルコ を嫌いになった。


彼女は残酷な天才だった。

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