13.赤髪の暗殺者

「そういえば、ルナはこれからどうするの?」

「私は、これからここの北にある『霧に囲まれた洋館』に行こうと思います。さっきのお嬢様の話が本当なら、私の目的はそこにありますから……」

「そうなのね。実は、私も久しぶりにあそこに行こうと思うの。でもね、行きたいって言っても皆止めるのよ……いつかノアに相談してみようかなって思ってたとこなのよね」

「でも、私なんかがお嬢様のお供には……」

「あら! こうみえて私は強いのよ! 暗殺者に勝てるくらいの力は持っているから!!」

「そ、それはお強い……」

 ギルバートとリリアナが部屋を出た後、セリカとルナはこれからの話をしていた。

「でも、そんなお嬢様の予定を部外者の私なんかにしても良いのですか?」

「だって、ルナは私の家族の大切な幼馴染ですもの。あのノアが今日まで覚えていた人物よ……大切な人だってわかるわ。そんなあなたになら話しても大丈夫だって思えた」

「本当に……お嬢様なんですね。こんな簡単に話してしまうなんて……!!」

 ルナは突如、机にあった銀のナイフとフォークをセリカに投げつけた。セリカは一瞬驚きながらも、頭を下げて間一髪それをかわした。

「び、びっくりした……」

「……今のをよけますか。ただの箱入り娘……というわけではなかったんですね。」

「今の、どういう意図で……」

「……あなたが依頼のターゲットでなくても、アストイルの血を継いでいることに変わりは無い。だからあなたも殺して、ボーナスも貰おうかと思いました。それだけです」

「そうよね……暗殺者にとって、お金は命に等しいもの。」

 床に落ちた、ナイフとフォークを拾いながらセリカは静かに呟く。ルナは顔をしかめて、はぁ……と深くため息をついた。

「……まぁ、本当のターゲットを殺すまではあなたを殺しませんよ。それまで、生き延びてほしいですね。」

……夕飯、ごちそうさまでした。

 そう言ってルナは黒いコートを着て、静かに部屋を出て館も後にした。セリカは拾ったナイフとフォークを拾って、指先でクルクルと器用に回して笑っていた。

「私ってば、本当に暗殺者に大人気ね」

「……まぁ、そのおかげで俺らの仕事が増えるんだがな」

「あら、良い運動になっていいじゃない」

「ほんと、呑気だよな」

 呆れながら、執事のギルバートがバニラとチョコレートのアイス盛りをセリカの前に置く。そしてルナの座っていた席にあったプレート皿と、セリカのものも取り回収する。

「良いのか、あの暗殺者を逃がして」

「ええ。私は死なないわ……死んで帰ってくるのはあの子よ。この私を殺すのなら、北の『アイツ』を殺せないとね」

「……良いように他人を利用するなよ。それじゃあ、お前の言う『傲慢な貴族』だからな」

「ふふ。そのとおりね」

 そう言ってセリカはバニラアイスを口に運んだ。そしてギルバートに食べるよう、口元をスプーンでつついた。

「ほら、あ~ん」

「……ん」

「何でちょっと赤くなってるのよ」

「いや……何か、久しぶりにこういうことしたなって思って」

「たまには良いと思うわよ。でも、あんまりこういう感情に執着してはいけないわ……感情は時に人を殺す。だから、ほどほどにするわ」

「ほんと……ムードというものは一生理解しないんだろうな、お前は」

「だから、あなたは非常識なんですよ。」

「非常識なことについては自覚があるから強くは否定しないが、これはさすがに……」

「もぉ! あんまり大きな声で会話していると、セリちゃんとギル君に聞こえますよ。」

 その声と同時に、リリアナを先頭にしてノアとヴィンセントの三人が食堂へと入って来た。三人の手には様々なアイスの盛り合わせがあった。

「さすがにそれはあり得ない、そこは意地を張らせてもらう」

「なぜそんなにこだわるんですか。あなたらしくない……」

「二人してどうしたのよ。珍しいわね」

「聞いちゃいます? セリちゃん」

「ええ。面白そうだもの」

「……聞かない方が良いと思うぞ、セリカ」

 その言葉を聞いて、ノアとヴィンセントはキッとセリカの方へ振り向きそれぞれが持つアイスを彼女へと見せた。

「絶対にアイスの盛り合わせはバニラと抹茶ですよね!?」

「いいや、チョコレートとストロベリーだよな!?」

 あまりの下らなさに、セリカは口にまだ残っていたバニラアイスを噴きだしながら笑った。そのアイスは……

「……え?」

「あっははははっ!! ノア、それは傑作!!!」

 終始クールなノアの顔面にかかり、セリカを始めとして全員がつられて笑いだした。そして、皆がタオルや布巾を用意し彼女の顔を拭く。しばらくして、ノアはあれ? と首を傾げてセリカに尋ねた。

「そう言えば……ルナは?」

「ルナは……」

…………贄になったわ。

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