7章 第9話 情報収集
翌日の放課後、山神は一人頭を抱えていた。
(昨日ああは言ったものの、どうしようか...)
花麦を巻き込むことは出来ず、明に協力をお願いするのはもう無理だろう。そうなると、情報収集が苦手な山神は、なかなか動き出すことができない。
(閃あたりに...いや、あんまり多くの人に話すべきじゃないだろうな。本人が嫌がっている以上は余計だ)
山神は1人席に座ったまま考え込む。クラスメイト達はほとんど帰ってしまい、教室に残っているのはもう数人になっていた。明もしばらくの間は山神の様子を黙って見ていたが、やがて他のクラスメイトと一緒に帰っていってしまった。
(ここで考えていても仕方ないか...)
山神が帰ろうと顔を上げると、いつの間にか晴野が彼の前の席に座り、心配そうに様子を伺っていた。
「どったの山ちゃん?今日うわの空っぽかったけどさ」
「晴野か。いや、ちょっと考え事を...」
そこまで言いかけて山神は思いついた。あまり理由を言わずに協力してくれそうな人物が目の前にいる。
「晴野って知り合い多いよな。例えば、クラスメイトとかの交友関係に詳しかったりしないか?」
晴野は不思議そうに首を傾げるが、やがて肯定するように頷いた。
「特別詳しいわけじゃないけど、誰と誰が仲良いとか付き合ってるとか。そういう情報はもちろん耳に入ってくるよ。あとは友達に聞けばもっと詳しく分かるだろうけど」
山神は心の中でガッツポーズをする。ストーカーまでは繋がらずとも、何かしらの手がかりを掴むことができるかもしれない。
「それじゃあ、雨宮凛さんの情報を教えてほしいんだ。理由は言えないけど、できるだけ内密に...」
最後まで言いかけて、山神は晴野の顔が曇ったことに気づく。山神にもその理由は分かっていた。同学年の女子生徒の情報を、理由も伝えずに入手したいというのはいかにも怪しい。これではまるで自分がストーカーのようだ。
「山ちゃん...。さすがに怪しくて教えられないよ。それに雨宮ちゃんってあの美人な子だよね。理由を教えてくんないと」
「いや、理由はな...」
理由は当然言えないが、代わりの答えが浮かばずに口ごもる。その時間が長くなるにつれて、晴野の顔は険しくなっていった。
しかし、急に晴野が閃いた様子で手を叩くと、途端に表情が明るくなった。
「なぁーんだ。山ちゃん、そういうことだったか。それは理由を言えないよねぇ。意外とウブなんだ。雨宮ちゃんか...うんうん。それは知りたくなるよ」
さっきとは打って変わって、彼女は楽しそうに話を進めている。何か勘違いされているようだが、協力してくれる分には好都合だ。山神は申し訳ないと思いながらも、晴野の話に乗る。
「じ、実はそうなんだよ。だから情報がほしいんだ」
晴野はまた楽しそうな表情になると、山神に力強く言い放つ。
「この晴野ちゃんに任せなさい!友達の恋路は全力で応援するからね」
上機嫌に教室を出ていく晴野を見送ると、山神はほっとため息をついた。なんとか上手くいったようだ。情報を得れば、なんとか動き出せるかもしれない。
(それにしても恋路とは?)
山神はなぜ晴野が協力する気になったのか、いまだに気づくことができていなかった。
心の魔術 たお @hooope
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