第13話 決意の言葉

 事件後一週間が経った。魔力切れで倒れたものの、大きな怪我の無かった山神は明日には退院できることになっていた。

「良かったね、すぐに退院できることになって」

 円香は安心したような表情を見せた。

「大袈裟なんだよ。母さんにも大したことないって言ったのに騒ぐから...」

 山神は呆れたように言う。いつもなら円香も苦笑いする所だが、今回は違った。

「大袈裟じゃない。あんな...あんな危ない目にあって、怪我で済んだのは奇跡なんだよ」

 これには山神も黙り込む。結果として無事だったものの、最悪死んでいた可能性も否定できないからだった。

「分かってるよ。お前にも心配かけた」

 大袈裟に騒いだ山神の母親のおかげなのか、すぐに円香は病院に飛んできた。すぐに大したことはないと分かったものの、なんだかんだよくお見舞いに来ていたのだった。

「分かればよろしい。じゃあ私は帰るね。明後日からちゃんと学校に来るんだよ」


「円香!」

 病室を出ようとする円香を山神は呼び止めた。円香は驚いて振り返る。

「ど、どうしたの」

「入院した日、魔特の体調が来たんだ。俺を魔特養成校に推薦したいらしい。そこに入れば魔特になるチャンスがあるみたいなんだ」

 円香の表情が驚きから困惑に変わる。少しの沈黙のあと、円香は口を開いた。

「そう...なんだ。それでどうするの?」

「母さんには反対されなかった。お前にも聞いておきたかったんだ。一応、昔の俺のこと一番分かるのはお前だからさ」

「普通に試験受けたら多分無理、そしたら答えは一つしかない。私に聞くまでもないでしょ?」

「そうだな。悪い」

 山神は申し訳なさそうに笑った。釣られて円香も少し微笑む。

「ずっと悩んでいたんだ。これだって、何にもならないかもしれない。でも昨日助けたあいつらが来た。目の前で倒れたから俺が高燃費だって分かったらしい。そのうえで『お前は俺達のヒーロー』だってさ。俺でも魔特になって誰かを守れるかもしれない。一度は諦めた夢だった、可能性が0じゃないなら足掻いてみるさ」

「うん...頑張って」

 円香はそう残すと病室を後にした。



 一人になった山神の目には、以前のような迷いは無かった。彼は短く息を吐くと、スマートフォンを手に取った。



(なんで...言わなきゃだったのに)

 帰り道、円香は一人病室での会話を悔やんでいた。





 ~2章に続く~

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