心の魔術

たお

第1話 変わった魔術

 魔力。それは魔術を使うためのエネルギーであり、魔術師が生きていくために必要不可欠なものである。魔術師は酸素と同じように空気中から取り込む、もしくは体内で作り出すことによって、自身に魔力を供給している。おとぎ話なんかに出てくる魔女は、こうして供給した魔力を使ってお姫様に呪いをかけた。


 ……なんてのは昔の話。およそ100年前、地球上全ての人間の体内に魔力があることが証明され、正しい手順を使えば誰でも魔術を使えることが分かった。魔術は科学技術や経済、そういったものと並行して発展し、魔法使いはおとぎ話の世界を飛び出した。魔術は現代の人々の生活に深く結びつき、それが普通になっていた。

 そして魔術を理解し、生活で使っていくためには当然魔術を学ばなくてはならない。主要科目は国数英理社魔、いまや受験にも就職にも魔術は必要不可欠なものになっていた。小学校高学年から触れ始め、中学校から本格的に学び始める。当然誰もが楽しんで学ぶものではなく、誰もが同じように上達できるものではなかった。


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 都立第三高校。首都にある都立高校で3番目に作られたと言われる歴史のある高校だ。しかし学力の第一、魔力の第二と言われる他二つの都立高校と比べると中途半端な高校と言われることも多い。首都の中心から少し離れており、首都の学校にしては珍しく自転車で通う学生も多かった。

 今は昼休み後の授業だった。満腹な学生は眠気と戦いながら授業を受けている。そんな中、魔術実践室での授業は他にはない盛り上がりを見せていた。

「今回は中級属性魔術だな。みんなはもう自分の得意属性が分かると思うし、先週初級属性魔術の復習もしたから大丈夫だろう」

 30歳前後くらいの教師は、教科書を机に置くと掌を上に向けた。そしてボッと小さな音が鳴ると、ロウソク程の小さな火が手の上に現れた。段々と大きくなりバスケットボールくらいの大きさになる。

「ここまでは基本だな。そしてこれを移動させたり、変化させたりするのが中級だ」

 教師が手を握りながら腕を振ると、炎は槍の形になった。周りで見ている学生から拍手や歓声があがる。教師は少し調子に乗ったのか、その槍を壁に向かって投げると炎は壁にぶつかり消えてしまった。魔術実践室の壁は事故を防ぐために魔力を弾くものになっている。

「まあこんな感じだ。本当は自由に...と言いたいとこだけど、みんなでいっぺんにやると少し危ないからな。今日は数人ずつやって他は周りで見ていることにしよう」

 名前を呼ばれた学生達が順番に魔術の練習を始める。属性魔法はそれぞれの魔力の質によって得意なものが異なる。例えばこの教師の場合は得意な属性は炎。もちろん訓練をすることで他の属性の魔術を使うこともできるが、威力や種類は劣る。

「よし次は山神。...あれ、いないのか?」

「先生ー。山神なら体調悪いから保健室に行くって言ってました」

「またか…。それじゃあ山下...」

 教師は呆れた様子で別の学生を呼ぶ。それを見た1人の女子学生は複雑な表情を浮かべていた。

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