第228話 ラスティン33歳(効率)



 今日は意外に時間がかかったが、普通に戻ったキアラに今朝の話をすると、簡単に推論を導き出してくれた。


「魔法の効率?」


「ええ、メイジが魔法を使う時に、得意系統の魔法を使うのと、不得意な系統の魔法を使う時では効果が全く異なるというのは?」


「ああ、実感としてあるよ。同じドットスペルでも、風と土では大違いだからな」


 体感的には同じ魔力を消費しているのだが、効果は他のメイジと比べて大きかったり小さかったりの差が激しいと言うのは、学院時代に良く感じた物だったな。(全く同じ魔力量とは行かないだろうが、ドットスペルと限ればそれ程差は出ないだろう)


「例えば、10の魔力で10の効果を出すメイジと、1の魔力で10の効果を出すメイジが居たとしますね」


「ああ」


「普通ならばあまり意味が無い仮定ですけど、魔力が使える量を制限されたとしたら、どちらのメイジが向いていると思います?」


「1と限れば後者だが、10と限れば同等だろう?」


「そうでしょうか?」


 キアラが、少しだけ楽しそうに微笑んだ。単純な算数の問題では無い様だが、楽しそうと感じる要素は何処だ?


「10まで使えるならば、1のメイジを10人集めれば100だな?」


「その通りです、まだ分かりませんか、ラスティン様?」


 キアラがこんな時にこんな呼び方をするのは、私の過去に何かあるのだと思うが、何をやっただろうか?(或いはやらかしただろうか?)


「ヒントだ!」


「仕方ないですね。以前、ルイズちゃん、いえ、今はルイズさんでしたね。彼女が始めてきちんと魔法を使えた時の事は覚えていますね?」


「忘れる事に関しては自信があるが、さすがに覚えているぞ?」


「楽しそうに裏庭に穴を掘っていましたね?」


「ああ、そんな事があったな。結局、私の負けだった訳だが」


 そうだな、穴を掘るではなくて、破壊するに関してはルイズはダントツの効率を持っていた訳だな。だが、ルイズが野良召喚ゲートを無効化している期間は、現状維持が精一杯だった筈だが? 違うなそれより前は、ジョゼットが一緒だった。そうか、ゲートの無効化に関しては、ジョゼットが向いていたのだな。元々パフォーマンスが良いメイジ殺しだが、妙な所で役に立つものだ。


「だがジョゼットはガリアに帰ってしまったぞ。こちらの要請で勝手に動かせないし、今は様子見と決めただろう?」


「違いますよ、確かにジョゼットさんの力を借りたいですが、それ以前にやっておく事があります」


 おっと、何か見落とした様だ。そうか、何故10人の話を出したか考えれば、推測は出来る。王家としては情けない話だが(個人的には他人事だがね)、結構な数の王家の血を引く人間が居たらしい。


「隠されたメイジの中に、魔法が使えない者は何人居た?」


「ルイズさんと同じ方が15名、ジョゼットさんと同じ方が20名でした、現状ではという言い方になりますが」


「だろうな、全国民と言うのは簡単な話ではないし、メイジ化の話が進んでいる現状ではな」


「魔法が使えないメイジは、大人が10名、子供が25名ですね。成人に関しては、メイジでは無かったと言う事にして保留状態ですが?」


「成人に関しては、か?」


「はい、とりあえず、普通に生きて行くには支障は無いでしょう?」


 これに関しては、結婚以前の話だから別段私が知らなくてもおかしくは無いが、いや、キアラに対して独占権を主張する権利は私には無かったな。


「子供達は?」


「はい、皆、親元から集めて、とりあえず学校の方へ・・・」


「はぁ、正直には話せないのは分かるが、いや、どうして子供が多いのだろうな?」


 忘れられた王家の傍流が多いかどうかは判断出来ないが、子供と大人の比率に関してはおかしいと思える。長期間に渡って隠れたメイジを探索していたのなら兎も角、ほんの10年足らずで大人の”担い手”候補の割合が減る言うのはどういう訳だ?


「一例だけですが、追跡調査に結果、ある男性が風系統魔法を使えるようになったと報告がありました」


「系統魔法が使える様になった?」


 一例だけでは、何らかの要因で魔法が使えなかったのが、使える様になったとも考えられる。ただ、ある程度の年齢を超えると、担い手としては”目覚めなくなる”可能性もあるか? いや、物語通りならば、愚痴王ではなく”ジョゼフ1世”がどの時点で担い手になったのかは不確かだろうし、個人差と言う事も有り得る。(まさか”あれ”心が少年のままだったとか有り得ない、いや、精神年齢で言えば子供だったかも知れんがね?)


「まあ、それはこれからも経緯を見守るとしよう。しかし、もう1つ分からないな」


「何故、この国にジョゼットさんと同じ方が多いかですか?」


「何か分かるか?」


「確証はありませんが、最初の一歩を間違えたのではないでしょうか?」


「一歩目を?」


「はい、始祖の血は絶対条件でしょうが、コモンマジックを使えない、或いは、違った効果が現れた事が原因かも知れません」


「うむ・・・」


 私にも理解出来なかったが、虚無魔法が最初に発現してしまい、これが修正されないまま育って行くと、担い手になるという考えらしい。ただ、修正するのは難しいだろうし、虚無の担い手への道を爆走した少女を2人も知っているのが、素直に否定出来ない理由だな。


===


 そんな訳で、レーネンベルク家は、現在上は15歳から下は6歳までの子供達が20人もの子供を預かっている。新しい公爵夫婦も子育てには慣れていないし、屋敷自体も増築したそうだ。


 使用人も増やす予定だが、信頼出来る人間と言うのはそれ程簡単に集められる筈も無く(年齢を理由に)隠居した筈の前公爵夫婦も子育てに大童だ。見かねたテッサやミコト君までもが子育てに参戦する事になったが、彼女達も居ないよりはマシ程度だった。


 そんな中で一番活躍したのは、本気で意外なんだが私が再度派遣したセレナだった。一足先に”母親”になっていた彼女は1人も20人も同じと全面的に子育てに参加してくれた。セレナらしいと言うべきか悩むが、ノリスの方が気後れするほどには強くなったらしい。


 私が、絶縁状態にあるレーネンベルクの事を詳しく知る事が出来るのも、彼女のお陰だが。知らせてくれなくても良かった変な噂も教えてくれたぞ?


「はぁ? レーネンベルクの男性は多情だ?」


「そう、そんな噂が流れているのよ?」


「・・・」


 ”誰だ、そんな根も葉もない噂をばら撒いたのは!”と思ったが、口には出せなかった。自分自身言っても説得力が無いのは分かるからな。少なくとも正式な妻が2人居る人間は見た事が無いし、公式には3人の女性の夫だからな。


「その噂、君が流したんじゃないだろうな?」


「うふふ、どうかしら?」


「否定して欲しいところだが、違うのが分かったよ。ノリスがジョゼット一筋なのは君が一番知っているだろうしね?」


「まあね、あの頃は若かったわ。でも、テッサも頻繁に出入りするし、ミコトって娘も傍に居るんだから、仕方が無いんじゃない?」


「そう言った方面は、前公爵夫人が何とか・・・?」


「ふふん!」


 またあの人は、息子をおもちゃと思っている節があるよな!


「そうそう、女泣かせという”噂”もあるわね」


「くっ、それは否定出来ないな。但し、私が泣いて欲しいのはノーラだけだぞ?」


「はいはい、ご馳走様」


「セレナだって、マルコさんが他の女性の為に泣いたら」


「そんな事出来るわけ無いじゃない!」


 そこまで言い切られると怖いぞ?


「別に反論じゃ無いが、セレナは3王妃の皆と面識があるだろう?」


「ええ」


「彼女達が不幸だと思うか?」


「まあ、私の半分位は幸せでしょうね」


 微妙な表現だが、不幸と言われなかっただけで良しとしよう。


「例えは悪いが、今、私が死んだとしても涙を流してくれるのはノーラだけだろうな」


「へぇ、薄情なのね、意外と」


「いいや、違う。3人とも悲しんではくれるが、その形が違うんだな」


「形?」


「ああ、ノーラは説明の必要がないだろう? キアラは。多分、私がしようとしている事を受け継いでくれるな」


「ふーん?」


「クリシャルナはちょっと特殊なんだろうな。私が彼女の前から居なくなる事は当たり前だし、多分、それ自体が彼女に必要なんだと思うよ。すまないな、変な話になった・・・」


「ねえ、スティン」


「何かな?」


「そう言う所が女泣かせだと思うんだけど?」


「・・・」


 随分理不尽な事を言われた気がするが、言い返す言葉は無かった。


「ちょっと面白い話を持って来たんだけど、今回は教えない事にするわ」


「何だい?」


「だから教えないって、精々その時にショックを受けなさい!」


「ちょっと待ってくれ!」


「レーネンベルクの男性は鈍いっていう話よ!」


 そのままセレナは部屋を出て行ってしまった。本当に理不尽な言葉に呆然としていると、入れ替わりにノーラが入ってきた。


「あら? セレナさんがいらしたと聞いたのですが?」


「ん? ああ、何か分からないが、レーネンベルクの男性は鈍いそうだよ?」


「そうですね・・・」


 うむ、ノーラに言われるとそうなんだろうなと思えてしまうな。ただ、どう鈍いかを知るのはかなり後の事だった。

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