第207話 ラスティン31歳(2人目ゲット!)
翌朝、封印された扉を無視して、バルコニーから外に出ると速攻でカロリーヌに捕まって、怪我の治療と説教をさせる羽目になった。私の身体などはどうでも良いのだが、多少栄養失調気味のノーラに無茶をさせたのは素直に反省しなくてはなるまい。私の血で染まったノーラの裸身は、いや、朝っぱらから何を考えているんだろうか?(荒療治のお陰か、これからは何時だって、うむ、止そう)
2人で朝食を摂り、身支度を整えると、私は執務室に向かった。以前は毎朝の様に行っていた朝議も”戦時”を理由に暫く行っていないから、そのまま政務に入るのだが・・・、はぁ。
執務室には、当然の様にキアラが待ち構えて居たが、私は何故か今から、この女性に求婚しなくてはならないのだ。いや、ノーラの為なら何でも出来る。(非常に間違った事をしようとしている気はするが、ノーラが意図を理解してくれればそれで構わん)
「それで奥方と何があったのですか?」
「そうだな、本気で夫婦喧嘩をしただけだ」
「そうですか・・・、側室の件はもう必要ありませんね?」
「ああ、側室はな?」
「側室は必要ない?」
「王妃が別に必要になった」
「あの、頭大丈夫ですか?」
「ああ、頭を打ったりしてはいない」
「折角、あの方と上手く行ったのに、何を考えているんですか?」
ほう、キアラは私に発破をかけて、夫婦仲を元に戻そうとしたらしいぞ? 結果的には成功だが、一歩間違えれば考えたくない事態になっていただろうな。もしかすれば、側室候補など最初から居なかったのかも知れんな?
「何を考えているかか? そうだな、その王妃候補にどうやってプロポーズしようかだろうか?」
「本気なのですね?」
「本気だ、そう言う訳で結婚してくれるか、キアラ?」
「・・・」
あ、固まった。相手が相手だ、至って事務的に話を進める積りだったんだが、やはりそれなりの雰囲気とか必要だったか? そう言うのは全部ノーラの為に取ってあるんだが?
「馬鹿ですか、貴方は!」
「まあ、昨晩辺りから自分が常軌を逸している自覚はある。キアラから見れば大抵の人間は馬鹿かも知れんが?」
「そう言う意味では・・・、まさか、これが罰なのですか?」
「罰、罰ね?」
「あの方を苦しめた私に対する罰という意味です」
「それが分からないのだ、ノーラが言うには、キアラが私を操ってノーラを苦しめたらしいんだが?」
誤解は敢えて解かずに置いたぞ。今のノーラにはそれすら支えかも知れん。
「何で分からないんですか!」
「そう言われてもな、別に話し合った結果互いに納得言った訳じゃないし」
昨晩の出来事は、互いの感情をぶつけ合っただけだ。目覚しい効果はあったが、私とノーラの間の状況はそれ程改善はしていない。ノーラに子供が出来なければ、結局は同じ事の繰り返しかも知れないのだ。(だからこそ公的にノーラと同格の王妃が必要なんだ)
「ライル様の件です」
「ライルの?」
そう言えば、ノーラの愚痴には意外とライルの事が出てきたな、概ねライルがもう少し出来が良くなければとか、もう少し悪い子供だったらだったが?
「まだ分かりませんか? 私はライル様をラスティン様の養子にする事で、あの方の立場を悪くして、王城から追い出そうとしたのです・・・」
「うーむ? その話は、私が言い出したと思ったが」
義理の息子が居れば、子供が出来ない私達の間への(特にノーラに対する)風当たりがマシになるだろうと思っただけなんだが? 側室を設けたり、私が間違っていると分かっていても複数の王妃を冊立しようとしているよりは余程穏当だと思うぞ。
「そうですね、私はそれを精一杯利用しました。もし、ライル様が、ラスティン様の実子でなければ試みは成功していたかも知れません」
どうも、キアラは陰で色々動いていたらしい。ライルを正式に国王の養子にする事に積極的だった辺りは気付いていたが、純粋に私の為だと思っていた。まあ、ライルが私とあの女性の息子と判明して、計画自体が流れてしまった。結果的にライルがノーラを助けた事になるが、これは絶対に言えない事だ。今のノーラの状態でこれ以上負担をかける積りは無い。
それ以外にも問題はあるが。しかし、自分の腹を痛めて産んだ子供がそれ程重要だと言うのは、男には理解出来ないのだろうか?
「それでキアラが納得しやすいなら、罰と思ってくれても良いぞ?」
「名前だけの王妃に意味があるとでも?」
「別に名前だけじゃないさ、3人にはそれなりの役割を果たしてもらうよ」
「3人?」
「まあ、そこは後で。キアラには公的には、平民向けの王妃として働いてもらう」
「納得出来ませんが?」
「私的には、ノーラのライバルになって欲しいな」
「ライバル? 私があの方と対等になるのですか?」
「対等ね、そう見えるかも知れないな」
少なくとも、他の人間にはノーラとキアラを私が対等に扱っている様に振舞う積りだが、私の中では明確な線引きが出来てしまっているからな。(言葉は悪いが、キアラには当て馬になってもらう形だな?)
「私が、あの方と、ああ、そう言う事ですか?」
「やっぱり分かるか? 3人目の王妃はクリシャルナだよ、本人が承知するかは分からないがね」
少し想像すれば、ノーラとキアラが仲良くするとは思わないだろう。可能性とすれば、昨夜のあの妙な”想像”の方がありそうだ。当然それには対策を考えるさ。
「彼女には、外交をですか?」
「いや、外交は序(つい)でだな、ノーラとキアラの仲を取り持ってもらうのがメインだよ。対外的にエルフの妻を持つと言う事はかなりの冒険になるが、まあ、モード大公妃の件もあるしな」
エルフとの協力関係をアピール出来れば、それなりの効果も見込めるだろうよ。2人と同格のクリシャルナが仲裁してくれれば、こちらもそれなりに効果が出ると、思いたい。
「それ以前に、3人の王妃の方が問題かと?」
「我が国には、重婚を禁じる法は無いだろう」
倫理的にはかなり拙いが、知った事か! 子供が出来ない事を責める風潮の方が私には問題だ。
「ラスティン様の評価の問題です」
「まあ、妙な期待ばかりされても困るし、私の評判が落ちるのは悪い事ばかりじゃない」
「あの方への圧力を和らげる為ですか?」
ああ、そう言う効果もあるな。私としては王権などという下らない物の権威を貶める事も出来ると考えてしまっただけなんだがな。
「それはどうとでも解釈してくれ。まだ返事を聞いていないが?」
「もし、今の話を私が断ったとしたら、もういいです」
うむ、そう言う事は考えていなかったのが、顔に出てしまったか? 別にキアラが私に未だにべた惚れだとか言う幻想を抱いている訳ではなく、私にとってキアラという女性がどうしても必要で、障害があれば排除するだけの話だ。
「全く、ラスティン様も、あの方も時々信じられない事をしますね」
「さっきも言ったが、自分が妙な事をしようとしているのは分かっている。だが、ノーラは側室の人選に注文を付けただけだ」
実際、ノーラは2人の王妃を加える事を承知はしてくれなかった。私が必要だと断言して、それに反対しなかっただけだ。ノーラは至極正常だぞ?
「そうですか・・・、はい、喜んでお受けいたします!」
何故かキアラは晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、私の提案を受け入れてくれた。その笑顔を見て、私は少しだけ胸の痛みを覚えた。また、キアラを利用しようとしているのを思い知らされたからだが、同時に私がキアラを支える存在には成り得ない事が分かるからだ。
キアラという存在が何処へ向かうかという話は、王妃になる事でもっと重大な危機を孕むかも知れない。孕むか、今更遠慮もいらんな。(いろんな意味で男の子は遠慮したいが?)
「キアラ、私の子供を産んでみるか?」
正直その台詞を聞いた時のキアラの表情は少しだけ可愛いと思ってしまった。いや、キアラに対しての負い目がそう感じさせたと思うぞ?
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